第114話 ワシのせいではないぞ ~ソフィアサイド~
ふぅ……
とりあえずなんとかなったわ。
それにしても、シータが出てきたのもビックリしたがのぅ。
あの籠手に封印されておったとは。
カルムとかいう奴が含みを持たせてあやつに渡したのは、このことを知っておったからじゃろうのぅ。
しかし、久しく使っていなかったこともあったのじゃろうが……
このワシが失敗……ではなくうまく出来なかったのは、全くもっての想定外じゃ。
……
いやいや、失敗はワシのせいではないぞ。
あやつが口を押えるからじゃ。
だから上手くいかずにあの空間に行ってしまったのじゃ。
それにしても何度行ってもあそこは嫌な空間じゃ。
特にあのゴーストとかいうやつらじゃ……
思い出すだけでも、身の毛もよだつ。
あいつらはワシの魔法も全く効かないしのぅ。
力でねじ伏せられないやつらは本当に嫌いじゃ。
でもそれがじゃ……
あやつは、剣を振るいゴーストを消し去っておった。
あれはなんじゃったのかのぅ……
あやつはやはりなんか特別なものを持っておるのやもしれんのぅ。
さて、シータが元の場所に戻してくれたこともあり、ワシらもようやく動けるようになった。
腕を回したり、首を捻ったりして身体が動くことを確認しながら、そんな風に考えておったのじゃが……
しかし、意識がある癖に体が動かんのもイライラするのぅ。
前に行った時はそんなことはなかったのにのぅ……
「ゾルダ様、お久しゅうございます」
シータがワシが動けるようになったところを見計らい言葉をかけてきた。
「うむ、お前が籠手に封印されておったとはのぅ」
「はっ、面目のなく……
ゼドの坊ちゃんにしてやられましたわ」
頭を掻きながら、俯くシータ。
「まぁ、それはワシらもじゃ。
シータも気にするな」
ゼドだけでなくアスビモも絡んでおったようじゃからのぅ。
ワシらも含めてあの時に全員封印されたのじゃろぅ。
「しかし、おいどんが動けるようになったら、時空の狭間でしたし……
また、ゾルダ様がやらかしたのかと……」
シータ、そのことは……
慌てて口を塞ぎに行く。
「しっ、それを言うなシータ」
周りを見ると冷たい視線がワシの方に向けられる。
「おい、ゾルダ!
またってなんだ?」
「お嬢様……
以前にもこのようなことを?
私は存じ上げてませんが……」
シータの奴……
正直でいい奴なのだが、こういう時に隠し立てが出来ないのがのぅ……
セバスチャンに内緒で転移魔法を使っていたことがバレてしまったではないか。
「な……何の事かのぅ
シータも、何を言うのか。
ワシではない、誰かと勘違いしておるのではないかのぅ……」
正直な奴じゃから、勘違いとしておかないと……
シータには腹芸は通じないしのぅ。
「……
いいや、おいどんはしっかりと覚えておりますので。
確か強いドラゴンがいるとかなんとかで、そこまで行こうとか……
あぁ、魔王の仕事がつまらないからと、オムニスのところへ行こうとか……
他にも……」
やっぱりのぅ。
しっかりと覚えておるところもシータらしいと言うかなんと言うか……
「シータ!
それ以上は止めるのじゃ」
慌てて止めに入るが、時すでに遅し。
セバスチャンの目が死んだまま笑っておる。
これは、やばいぞ。
「お嬢様!
過去の事なのでとやかく言いませんが、もう少し立場をわきまえて行動していただかないと。
魔王になられてからも、ちょくちょく仕事を投げ出していたのはわかってましたが……
少しぐらいは大目にとは思ってその時はあまり多く言わないようにと……」
「あれでか?
毎日のようにいろいろと言ってきておったではないか」
「あれでもかなり自重しておりました。
そんなことより……
お嬢様はホントにご自分がやりたいことしかやらないのは困ります。
あの時も……」
「あぁ、わかったわかった。
次からは気をつける」
セバスチャンは窘めてくれるのはいいのじゃが、たまに度が過ぎることがあるからのぅ。
困ったものじゃ。
その様子を見ていたあやつが必死で笑いをこらえておる。
「何がそんなに面白いのじゃ!
ワシがいろいろ言われるのがそんなに面白いかのぅ」
「いや、面白いと言うか……
ゾルダも怒られるんだと思って……」
「セバスチャンは先代からの付き合いじゃからのぅ」
「なら、今まではセバスチャンが尻拭いをしていたってことか」
「そ……そこまで世話にはなっておらん」
実際のところはだいぶ実務的なことはセバスチャンに……
いや、信頼して仕事を任せておっただけじゃ。
「お嬢様!
まだお話は終わっておりません」
くどくどと続くセバスチャンの説教。
あやつやマリーたちは、それを冷ややかな視線で見ているだけで、誰も止めてくれない。
少しぐらい遮ってくれてもいいのにのぅ……
しばらくの間続いたセバスチャンの話もようやく終わり、ほっと一息といったところじゃ。
「さてと、シータも居ることだし、さっさと転移魔法で、ジョードへ行こうかのぅ」
「はて?
ジョードとはどこですか?
おいどん、行ったことがないですが……」
「あれ?
転移魔法って行ったところしかいけないの?」
あやつが疑問に思ったのじゃろぅ。
シータに質問をする。
「坊ちゃん、当たり前のことを聞きますな。
転移魔法は行ったところしか、行けませんぜ」
「でも、ゾルダは使おうとしたよね。
それってジョードに行ったことがあるってこと?」
あやつも含めて全員でワシの顔を見る。
「……
以前、いろいろとあってだな……
数回行ったことはある」
「そうなのですね、お嬢様。
私は存じ上げて……」
いや、また説教に入るパターンは嫌じゃ。
「そんなことはどうでもいいのじゃ。
シータがおれば今度は失敗はせんからのぅ。
ワシが転移魔法を使うのじゃ」
「さっき失敗しているのに、またやるのか?」
あやつはワシが転移魔法を使うのが不安なのじゃろぅ。
「坊ちゃん、次はおいどんがサポートするすので、安心してくださいな。
さっき見たなことはないですから」
さすがシータ。
しっかりとフォローをしてくれてありがたいのぅ。
「シータがそこまで言うなら……
ゾルダ、頼むよ。
でも今度は失敗するなよ」
「?
ワシはさっき失敗しておらんぞ。
おぬしが止めに来るから……」
「わかったよ。
あれは……その……悪かった。
今度は止めないから」
あやつも多少は止めに入ったことを気にしておるのかもしれのぅ。
「では、参るぞ。
ワープ!」
ワシたちの身体が光に覆われ、その場から消えたと思うと、一瞬でジョード手前の小高い丘に着いた。
「ほれ、今度は上手くいった。
これがワシの実力じゃ」
「はいはい。
ゾルダはすごいねー」
心がこもっていないような口調であやつが褒めているが、ちっとも嬉しくない。
「ふん、これぐらい当たり前じゃ」
転移魔法で着いたところから、少しだけ歩くとジョードの街に辿りついた。
「なんか昔の日本のような街並みだ」
あやつは目を輝かせてあちこちを見ている。
確かに他の街とは違う作りの家が多く立ち並ぶ。
独特の雰囲気をもったところではあるが、そこまでのものかのぅ。
街はそれなりに活気があるものの、あちこちにがれきの山。
ここも激しい戦闘の地なのであろう。
ここにアスビモとか言う奴がおるはずじゃ。
早くあいつと一戦まみえたいのぅ。