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第111話 転移魔法のリスク ~セバスチャンサイド~

さて、どうしたものでしょうか。

アグリ殿に先を急ぐことを私から提案はしたものの……


まず考えられるのが、浮遊魔法。

今よりかは確実の速度はあがります。

我々がフルスピード出せば、歩く時間の半分と言うところでしょうか。

もう少し早くなるかもしれませんが、半分ぐらいに見積もっておいた方がいいでしょう。

ただこれはアグリ殿が浮遊魔法を使えないので……

3人のうち誰かが担ぐことになりますが、まずは確実な手でしょう。


次がドラゴンなどの飛行魔物を使役するでしょうか。

これには近くにそういった魔物がいないとどうすることも出来ません。

現状としては、辺りを見回してもドラゴンが居そうもないですし、難しいかなと。


あと一番早いのですが、リスクが大きい転移魔法。

私たち3人はあまり扱ったことがない魔法ですし、制御が効かない可能性があります。

同胞であるあの人……転移魔法の使い手だったあの人が居れば、造作もないことなのですが……

確かあの人から聞いた時……


『この辺りの加減がな。

 他の奴らには難しいらしい』


と話してましたから、繊細な魔力のコントロールが必要なようです。

その辺りが私もお嬢様もマリーもうまく出来なかったと記憶しています。

確か成功率は半々ってところだったかと思います。

それであちこちに行かされてた覚えがございます。


そうなると浮遊魔法の1択でしょうか。

それでアグリ殿に提案してみましょう。


私自身で考えを整理したところで、お嬢様とアグリ殿にお話をしました。


「お嬢様、アグリ殿。

 ここは浮遊魔法で飛んでいくことにしましょう。

 多少魔力は使いますが、その方が早いかと思います」


「えーっ!

 俺、浮遊魔法使えないんだけど……」


「それは承知しております。

 そこは私かマリーが順番で担いでいくということでいかがでしょうか?」


「二人の負担にならないなら、それでいいけど……」


アグリ殿はマリーと私の方を見て顔色を窺っています。

マリーは


「仕方ないのではないかしら?

 アグリは使えないのだし、私とおとうさまで手伝うということで」


と言いつつも、若干不満そうにしていますね。

まだまだマリーも若いですね。

そこは顔に出さないようにしないといけません。

後で言って聞かせましょう。

あと、またおとうさまと言いましたね。

こちらも後からお説教です。


そうは思いつつも、あまり顔に出さないようにしてと……

マリーに対してにこやかな顔を向けます。

その顔を見て、マリーの顔が引きつっていました。

私の笑顔がそんなに怖いのでしょうか?


「それで、お嬢様はいかがでしょうか?」


お嬢様を見てみると、何かしら考えているご様子です。


「うむ……」


私の提案があまり良くなかったのでしょうか……

ひとしきり何かを考えはじめたようで、無言のまま時間が過ぎていきました。


「ゾルダは何をそんなに考えているんだ?」


アグリ殿が無言の空気に居たたまれなくなったのか、お嬢様にお声がけしてくださいました。

その声掛けに気づいたのか、それとも何かを思いついたのかわかりませんが、お嬢様が声を上げます。


「そうじゃ!

 ここは転移魔法を使ってみようぞ」


ふぅ……

お嬢様、そうきますか……

難しい魔法のため、選択肢から外させていただいていたのに……


「お嬢様……

 私共では転移魔法は確実に転移できない恐れがあり……」


「そんなことはどうでもいいのじゃ。

 ワシがやりたいのじゃから、やるのじゃ」


お嬢様の目が輝きを増し、やる気が溢れてくるのを感じます。

こうなるとお嬢様はなかなか意見を聞いてくれません。

アグリ殿も


「確実じゃないのなら止めようよ。

 余計に着くのが遅くなるって」


そう言い、止めに入るものの、お嬢様は


「確実じゃから大丈夫じゃ!」


と言って張り切っています。


「じゃ、確実って100%なのか?」


アグリ殿が食い下がっています。


「……確か、半々じゃったかな。

 でもそれは大昔の話じゃ。

 今なら絶対に出来る……たぶん」


最初は威勢よく話ていたお嬢様も、最後はちょっと下向きになりながらボソッと言葉にしていました。

やっぱりあまり自信はないようです。


「たぶんって最後言った!

 今ならってその確信はどこから来るんだって!」


慌てるアグリ殿ですが、その手に着けた籠手の内側から鈍い光が出ているように感じました。

やはりあそこに封印されているのはあの人なのでしょう。

最悪あの人が復活さえしてくれれば、なんとかなりそうなのですが、今すぐと言う訳にはいかないですね。


アグリ殿の慌てっぷりを見て面白く感じたのか、お嬢様は勢いが戻ります。


「大丈夫じゃって。

 死ぬことはないからのぅ」


そう言うと、転移魔法の準備にかかります。

もうここまで来ると運命共同体です。

私は覚悟を決めます。

マリーも諦めているようです。


「では行くぞ、ワー……」


お嬢様が、唱えようとしたところで、アグリ殿が手で口を塞ぎに行きます。


「アグリ殿、それは……」


アグリ殿を止めに入ろうとしましたが、時すでに遅し。

中途半端な状態で術が発動してしまいます。

私たち4人は光に包まれて、その場から転移をしてしまいました。


――


眩しい光が消え、辺りを見回すと、そこは真っ暗で何もない空間でした。

お嬢様やアグリ殿のお姿は……

周りを見ると、慌てているアグリ殿がお嬢様の口をふさいだまま立っています。

マリーも、あっ、あそこにいるようですね。


『みなさん、ご無事のようで』


と声をかけ、歩み寄ろうとしたのですが、身体が動きません。

お嬢様やマリーの方を見ても動けてないようです。

動けているのはアグリ殿だけのようです。


「おい、みんな、なんで動かないんだ?」


私のところにもマリーのところにも来てくださり、声をかけてくれます。

私は


『はい、大丈夫でございます』


と声を出しているつもりなのですが、アグリ殿には聞こえていないようです。

どうやら、転移魔法の暴走かなにかで、私たちは動けなくなったようですね。

アグリ殿だけがその影響を受けていないのは不思議です。

たぶん、一時的なものだとは思いますが、どうしたものでしょうか。


アグリ殿の自力でなんとかここを切り抜けていただかないといけないのですが、大丈夫でしょうか。

そう言えば近寄ってきたアグリ殿の手元、例の籠手の内側がさらに光を増しているように感じました。

あの人の復活が近いのかもしれません。

そうであれば、問題なく切り抜けられるとは思うのですが……

しばらくは見守る以外はなさそうです。

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― 新着の感想 ―
セバスチャンの冷静な判断とゾルダ様の無邪気な強引さの対比が面白い回。転移魔法の暴走による緊迫感とアグリの慌てぶりもコミカルで、テンポ良く読めました。
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