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第107話 嫌でも認めていただきますわ ~マリーサイド~

なんでマリーがこんな輩の相手をしないといけないのですか……

本当に嫌になりますわ。

しかも魔法無しでなんて……


「何か不満がありそうですね」


セバスチャンは本当にマリーの心を見透かしますわ。


「いえ……

 なんでもありませんわ……

 おとうさま」


イライラしていたこともあってちょっと口が滑ってしまいましたわ。

ハッとして、おとうさまの顔色を窺いました。


「その呼び方は……

 お嬢様の前ではよくありませんね……」


案の定、おとうさまは魔人のような形相になっています。

ねえさまの前ではおとうさまは礼儀に厳しかったですわね。


「うーっ……

 ごめんなさい、おっ……セバスチャン」


ふぅ……

こうなるとおとうさまはどんどんと厳しくなりますわ。

あのマーナガルムを力でねじ伏せないと機嫌も直りそうもなさそうです。


「えーっ!

 セバスチャンとマリーって親娘なの?」


先ほどの会話を聞いたアグリがビックリしたようで大きな声を出しています。


「アグリ殿には伝えていなかったでしょうか。

 大変申し訳ございません。

 マリーは私の不出来な娘でして……」


おとうさま……

ねえさまが常にそばにいる状態で、マリーが『おとうさま』とは呼ばないのは……

わかっているのではなくて!

そのことは改めて話題に出ない限りは、アグリは知ることはないですわ。

それに……


「おとうさま!

 マリーは不出来なんかじゃないですわ」


「また言いましたね、マリー」


再びおとうさまの形相が変わります。

また言ってしまいましたが、それはおとうさまが悪いのですわ。

マリーが何も出来ない子みたいに言うんだから。


「……

 マリーだってやれば出来ることをお見せしますわ」


おとうさまに向かって、そう言うと剣を抜きマーナガルムの前に立ちました。


「さぁ、お相手してあげますわ」


「ガルルルルゥ……」


マーナガルムは鋭い爪を立てて、マリーに襲い掛かってきました。

それを剣で受け止めます。

力もそこそこあるようで、ずっしりと剣に重みがかかります。


「くっ……

 これぐらい……問題ないですわ」


剣先に力を込めて、マーナガルムの爪を弾き返します。

それを見ていたおとうさまは


「ほんの少しですが返すのが遅れています。

 最近訓練していなかったからですかね」


容赦ない言葉が飛んできます。


「それぐらいの遅れ、どうってことないでしょ!」


カチンときたので、声を荒げておとうさまに言い返してしまいましたわ。


「その遅れが命取りになることもあるのですよ。

 お嬢様を守るためには、もう少し早く動いてもらわないといけませんね」


いつもいつもマリーに対しては厳しいのだから、本当にもう。


「わかりましたわ。

 次は絶対に遅れずに対応しますわ」


こうなったら意地の張り合いですわね。

おとうさまには、嫌でも認めていただきます。

今度はこちらからマーナガルムに攻撃を仕掛けていきます。


最初に動きを鈍らせるために、右前脚に剣で切りつけます。

返す刀で左前脚も水平に切りつけていきます。


「キャウン」


マーナガルムが怯んだところをジャンプして後ろに回り込みます。

そこからさらに後脚に剣を突き立てます。

どうですか、この流れるような動き。

さすがのおとうさまも何も言うことはないでしょう。

得意げな顔で、おとうさまの方を見ます。


「……

 悪くはないですが……

 そこからもう一手加えられたはずですよ。

 突き立てるのではなく、さらに両脚共に切りつけておくべきでしたね」


全然っ、褒めてくれませんわね。

いつものことではありますが、今日はなんだかとてもムカつきますわ。

こめかみのあたりがピクピクっと動きますわ。


「マリーだって……

 マリーだって、頑張ってますわ。

 いい加減、少しは認めていただけてもいいじゃありませんか」


「マリー、口答えでしょうか……

 いつも言わせていただいているのは、あなたの為を思ってのことですよ」


言葉遣いとは裏腹に、おとうさまの表情がさらにきつくなります。

その様子を見てか、アグリが間に入ってきましたわ。


「セバスチャン……さん?

 あの、少々手厳しいように思いますので……」


「あの子はあれぐらい言わないとしっかりやりませんから」


おとうさまはアグリに対してはにこやかな顔で対応しています。


「マリーもマリーなりに頑張っているんだし……

 あの……その……褒めて伸ばすことも大事ですよ……

 なぁ、ゾルダ。

 ゾルダも何か言ってやれよ」


困り顔のアグリはねえさまに話を振ります。

しかし、ねえさまは


「ワシが何か言うことがあるのかのぅ。

 娘に厳しいのは親としての教育あってのことじゃろぅ。

 それに反発する娘。

 人族の世界でもよくあることじゃ。

 見ていて、実に微笑ましいのぅ」


と意に介していない感じです。

確かに前はいつもこんな感じでしたから。

ねえさまはそれを見ているので何とも思わないのでしょう。


「それでも厳しすぎるのは……

 訓練の時も思っていたけど……」


アグリはその厳しさに慣れていないのかかなり戸惑っている様子です。

……それにしても、アグリは優しいですわね。

マリーを気遣ってくれて。


「アグリ、別に気にしなくてもいいですわ。

 これはいつものことですわ。

 マリーはマリーのやり方で、おとうさまに納得していただきますから」


突き刺した剣を抜いて、マーナガルムへの攻撃を再開します。

今までの訓練を思い出して、さらに加速させていきます。

四方八方からマーナガルムを攻め立てていきましたわ。


ズサッ――

シュン――

グサッ――


マーナガルムは成す術がないようで、一方的にマリーの攻撃を受けています。

あの呂律の回っていなかった男も、その様に呆然と立ち尽くしていますわ。


「さぁ、これでお終いですわ」


剣を大きく上に振りかぶると、マーナガルムの真正面から縦に一閃します。


「グォォォー」


最後の雄叫びがこだまして、マーナガルムは真っ二つになりましたわ。

これだけ圧倒出来れば、おとうさまからも文句はでないでしょう。


「まぁ、いいでしょう……

 ギリギリ合格点といったところですね」


おとうさまは少し表情を緩めている感じがしましたわ。

これでマリーも出来るとわかっていただけでしょうか。


「ただきちんと訓練していれば、もう少し早くに決着つけられたはずです」


「ぶーっ!!

 最後の一言は余計じゃなくて」


ったく、おとうさまは何か一言付け加えないといけない性分なのかしら。

素直に認めていただけてもいいのに。


マーナガルムを呼んだ男は、膝から崩れ落ち、呆然としていますわ。

これでひと段落かしらね。


「すごいな、マリーは。

 あの魔物を圧倒していたし」


アグリは倒したことを素直に喜んでくれています。


「そ……そんなことはないですわ。

 あれぐらいは出来て当然ですわ」


なかなかと褒められたこともないので、ちょっと気恥ずかしさを感じます。

おとうさまもこのぐらい褒めてくれてもいいのにと思いますわ。

でも、とりあえずおとうさまの指令は達成出来ましたので、ホッとしました。


そのやりとりの様子を見ていたねえさまが、ブツブツと言いながらこちらへ来ました。

何かマリーに問題でもあったでしょうか……


「のぅ、おぬし……

 やっぱりこれは神とやらがワシの出番を減らしておるのじゃろぅ。

 ワシは神に嫌われておるのかぅ」


「まだそのことを言っているのか……

 いい加減、そこから離れたらどうなの?」


なんだっ……

ねえさまはそのことをまだ考えていたようですね。

マリーのことを見ていただけてなかったのは、悔しいですが、ねえさまらしいというかなんというか……

アグリとねえさまのやりとりをくすくすと笑いながら見ていました。


「次、ワシの出番が少なかったら、神とやらを倒しにいかないとのぅ」


「いや、そもそも、その神を倒したら、この世界が消えちゃうって」


「そんなものかのぅ。

 まぁ、これだけ脅しておけば、次はワシの出番じゃろぅ。

 ハッハッハッ~」


ねえさまの高笑いが村に響き渡りました。

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