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第105話 シルフィーネ村の一大事 ~フォルトナサイド~

アグリたちがボクの家に入っていった。

ただボクは母さんのところへ行きづらくて、玄関先で待つことにした。

ボクの家なのに、なんだかなー。

ギクシャクしているのを見られたくないと言うかなんというかー。

散々愚痴を言っておいて……

そのもの自体は見られたくないんだよなー。


「まぁ、いっかー。

 母さんとの話が終わったら、アグリたちも出てくるはずだしー」


誰も聞いていないのはわかりつつ、声に出して言ってみた。

誰も居ないので当然なんの反応もない。

自分で声に出しておいて、ちょっと虚しさがこみ上げてきた。


母さんのことや村のことをいろいろ考えながら……

玄関先で座って、みんなが出てくるのを待っていた。

そんな時……


――ボンッ


村の中心地から大きな爆発音が聞こえた。

ボクは立ち上がって爆発音がしたところを見た。

いくつかの煙が立ち上がっているのが確認できた。


「なんだなんだー

 なんかあったのかなー」


いつもならカルムさんたちに何が起きているのか確認していたのに……

その前に、音がした方へ走り出していた。

尋常じゃない事態を感じたのもあるけど、身体が勝手に動いていた。

村の中心地に近づくにつれ、慌てて逃げる人が増えていった。


「キャーーーー」


「魔物がーー

 魔物がーー」


現場にいた人たちだろうか。

悲鳴を上げて、村の中心地から離れていく。

ボクはその人波をかき分けながら、村の中心地に向かっていった。


「グガガガガーー」


「そうだ、もっと暴れろ!

 こんなところなんて壊してしまえ!」


村の中心地に近くなると、そこから魔物の雄たけびと誰かの叫び声が聞こえてきた。

急いでその声が聞こえる場所に行くとそこには1匹のマーナガルムと男が立っていた。


「誰だー、お前はー。

 ここで何してるんだー」


ボクはその男に大きな声で問いただした。

男はボクの方を向いて


「何をしようとお前には関係ない。

 もう何もかも消えてなくなればいい。

 俺もお前たちもだ!」


錯乱している男は、虚ろな目をしながら大声で叫んだ。

それに呼応して


「ガルルルルゥ……」


マーナガルムも低い唸り声を響かせる。


「ここはボクの……ボクたちの村だ。

 ボクたち村で勝手なことは許さないんだからー」


ボクは携帯している小刀を抜くと、その男を取り押さえようと走り始めた。

だけど、その男の前にマーナガルムが立ちふさがった。


「そうだ……

 お前は俺の想いを実行するんだ。

 この村を消滅させるまでは、俺をしっかりと守るんだな」


錯乱している男はマーナガルムにそう言うと、まだ逃げ戸惑う人たちに襲い掛かっていった。

ただ足もふらついていて思うように進んでいる様子ではなかった。


「ここに居る人たちに手を出すなー」


そうボクは叫んだものの、前に立ちふさがるマーナガルム相手に、周りのみんなを助けにいけなかった。

マーナガルムは牙や脚を使い、ボクを攻撃してきた。


――ブン


――ズサー


――ガチーン


ギリギリのところで躱してはいたけど、一歩間違えば致命傷を負いかねない力だった。


――シューッ


――サーッ


――グサーッ


ボクも応戦はするものの、あまりダメージは与えることは出来なかった。


「このマーナガルム、強くない?

 なんか普通のと違うんだけどー」


マーナガルムはもともとそれほど脅威である魔物ではないのにー。

群れで行動するから厄介だけど、単独ではそんなに強くないはず。

なのにコイツはやたらめったら強い。


「そうだろう、そうだろう。

 何せコイツは特別な奴だからなぁ。

 強化に強化を重ねて生き残った奴だから。

 他の奴らは耐えきれなくて死んでいったからな!」


どうやらこの男は、前々から村を襲う計画を立てていたのかもしれない。


「なんでこの村を襲うんだー

 ボクたちの村に何かあったのかー」


「……

 この村に意味はない。

 強いて言うならば……

 弱い奴が多そうだからかな」


不敵な笑みを浮かべながら男はそう答えた。


「意味がないって……」


男が放った言葉に心の奥底から怒りの感情が湧き出てきた。


「俺と共に死ねる奴が多ければいいのさ」


男の言葉は意味不明だし、眼も完全に逝っちゃっている。

正気じゃないのだろうけど……

だからと言って許されることじゃないしー。


「ここは……

 ここは、ボクが生まれ育ったところだー。

 そこをお前なんかに……

 お前なんかに、壊させてなるものかー」


怒りに任せて、ボクはマーナガルムに小刀を振るうも、一向にダメージを与えられなかった。

出来る限りスピードを上げて、攻撃をし続けるも、大した致命傷にはならない。


「くっ……

 やっぱりボクじゃダメなのかな……」


それでもこれ以上ボクたちの村を破壊させるわけにはいかないし。

足止めしておけば、カルムさんやアグリたちも来てくれるだろう。

ボクはボクのやれることを精一杯やるだけ。


続けて攻撃の手を緩めないでいた。

マーナガルムはなんとか足止め出来ている。

だけど、錯乱している男は止められていなかった。


錯乱している男はフラついた足で動きながら剣を振り回している。

フラついていることもあり、幸い人々の多くはその場から逃げていった。

ただその人波の中で、倒れた子供がいた。

錯乱している男は、その子に目を付けたようで、襲い掛かっていった。


それが目についたボクはとっさにその子をかばいにいった。

なんとか男の剣を躱すことが出来たボクたちは、少し離れたところにその子を逃がした。

メソメソと泣いている子供を見て


「もう大丈夫だから、早く逃げてねー」


と慰めた。


「うん、ありがとう」


涙を拭きながら返事をした子供はその場から走り去っていた。

とりあえずあの子が傷つかなくてよかったー。

そこで少しホッとしたのがいけなかった。

後ろから、マーナガルムに襲われちゃったようだ。


「痛っ……」


その場に突っ伏して倒れ込んだボク。

立ち上がろうとしたけど、激痛が走り立ち上がれなかった。

なんとか仰向けになったものの、マーナガルムに押さえつけられてしまった。


意識が朦朧とする中で、助けた子供がその場に居ないのを確認ができた。


「とりあえず子供を助けられたし、良かったかな。

 あとはアグリやカルムさん……

 母さんやたちがなんとかしてくれるだろうし」


ボクは諦めの気持ちが芽生えてきた。

そして、死の覚悟を決めた。

そんな時……


「フォルトナ!

 今助けるからな!」


アグリの声がした。

そしてアグリとゾルダたちの姿が見えた。


「アグリ……

 遅いよ……」


ボクはそう言うと、目の前が真っ暗になってしまった。

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