第104話 フォルトナとの再会 ~アグリサイド~
森を抜けてすぐ――
ようやく三人がお出ましになった。
俺を一人にしたことに散々文句を言ったが……
ゾルダをはじめとして全く意に介してないようだった。
それでも愚痴を言いながら、シルフィーネ村へと向かっていこうとした。
文句を言いながらも、シルフィーネ村の人たち、特にフォルトナやアウラさんの様子が気になっていた。
そんなことを考えていたのだが……
歩き始めて直ぐのところで、フォルトナが居るのを見つけた。
「あれ?
フォルトナじゃん」
しゃがみこんで何をしているのだろう。
しかもこんなところに一人で……
「小娘の娘、ここで何をしておるのじゃ?
小娘は元気かのぅ」
「……うん、母さんは元気だよ。
元気過ぎて困るよー」
心なしか元気がないような声だった。
それでも俺たちに会えたのがホッとしたような感じで、次から次へと言葉が出てきていた。
「あのさー、母さんがー……」
村へ向かいながら聞いていたのだが……
慣れない村長代理の業務で精神的に疲れているのだろうと思うぐらい愚痴が出てくる出てくる。
その大半がアウラさんのことである。
アウラさんから見れば物足りないところがあって、いろいろと口をだしているのだろう。
そういう小言がずっしりとくるってことは良くあることだ。
俺にも前の世界で経験がある。
「会うなり、溜まっていたものが出たって感じだな。
俺にも経験はあるけど、話半分ぐらいに聞いておけばいいんだって」
「そうは言ってもさー
わからないことが多くて、都度都度母さんに聞いてるんだけどー
そのたびにいろいろ言われてさー
気が休まらないったらありゃしないよー」
「そうかもしれなけどさ……
なぁ、ゾルダからも何か言ってあげたら?」
俺一人だけでは何ともしようがなく、ゾルダに話を振ってみたが……
「ん?
何のことじゃ?」
「フォルトナのことだよ!
アウラさんがいろいろ言ってくるって」
「ごちゃごちゃうるさいから途中からもう嫌になって聞いておらん。
なるようにしかならんじゃろぅ」
ゾルダはそっけなくそう答えた。
他の二人も
「マリーには興味がないことですわ」
「私はフォルトナ殿もアウラ殿のことも存じ上げておりませんので……」
苦笑いするだけで、特に何も言ってはくれなかった。
「いっそのことさー
ボクが居なくても大丈夫そうだしー
また一緒に連れて行ってくれないかなー」
フォルトナは俺たちの方を向いて笑顔でそう話してきた。
その笑顔は、若干寂しそうな感じがした。
「そうは言ってもなぁ……
まずはアウラさんの容態を見てからかな。
それに……」
「それに……それに、何?」
「それだけアウラさんがフォルトナに言うのは、頼っている証拠だと思うのだけど」
「そうなのかなー」
膨れっ面をしてブツブツと文句をいうフォルトナ。
そんなフォルトナに対して、急にゾルダが話しかけてきた。
「小娘の娘、そこまで小娘が嫌なら……
殺せば事足りるじゃろぅ。
そうすれば、お前を縛るものも無くなるぞ」
ニヤリとした笑顔がまた怖くも感じる。
それにまた過激な思想を言うなぁ。
まぁ、でも魔族としては身内でも折り合わなかったら、そうするのかもしれないな。
「……っ」
それを聞いたフォルトナはビックリした顔の後で、ゾルダを睨みつけていた。
そう言われれば気分は良くないよな。
「ゾルダ!
お前の中の常識で言うなって。
人の世界ではそんなこと出来ないよ」
魔族としての常識を言われても困るし、そのことを伝えると
「ほほぅ……
そうかのぅ。
ワシは人族でもやっている奴をたくさん見ておるがのぅ」
「確かにそういう奴らはいるかもしれないけどさ……」
「ワシから言えるのは、そういう選択肢もあるということじゃ。
本気で嫌ならじゃがのぅ。
人族の理はあるじゃろうから、取りにくい手段なのじゃろうが……
どちらにせよ、どの選択も正解だし、どの選択も正解ではないからのぅ。
結果はどうなるかはわからんのじゃ。
小娘の娘の中で思う後悔しない何かで決めていくしかないのじゃ」
ゾルダは今までの話を聞いていないようで聞いていたのかもしれない。
案外、薄情ではないのかもしれないな。
「ゾルダがまともなことを言っている……」
「何をー!
ワシはいつでもまともじゃ!」
俺とゾルダのやり取りを聞いていたフォルトナは、さらに難しい顔をしていた。
いろいろ考えることがあるのだろう。
そうこうするうちに、アウラさんの家に到着した。
ベッドの上に座ってはいるものの、アウラさんはとても元気そうで安心した。
フォルトナはと言うと、部屋にも入ってこず、玄関先にいるようだ。
「アウラさん、フォルトナはどうですか?」
「どうって……
そうね、良くやっていると思うわ。
私が最初にやり始めた時に比べても、良く出来ているわ」
「そうなんですね……」
フォルトナから聞いた限りからするとアウラさんにも不満があるのかと思っていたが……
意外にも褒めていた。
親の心、子知らずってことか。
「その言葉、そのままフォルトナに言ってあげたらどうですか?」
「……
勇者様のおっしゃる通りかとは思いますが……
面と向かってはなかなかと……」
俯きながらボソボソと言うアウラさん。
それを見ていたゾルダが
「本当に人族は面倒じゃのぅ。
言いたいことも言い合えないとは……
そんなことでよく一緒に居られるのぅ」
「お嬢様、人とはそういうものです。
人だけでなく思考をもつものは全てそうかと……」
「ワシはそんなことないぞ。
言いたいことは言っておるしのぅ。
はっきり言えんのなら、気が狂いそうになるのじゃ
のぅ、マリー」
「そうですわ。
マリーもねえさまの意見に賛成ですわ」
「お嬢様はもう少し我慢と言うものを身に着けていただかないと……」
話に入り込んできたと思ったら、三人でああやこうや言い始めた。
この三人はなんだかんだ言って、言わないといけないことはしっかりと言い合っている感じがする。
その様子を見ていたアウラさんは
「恥ずかしがっていても仕方ないですわね。
きちんと伝えるべきことは伝えないと……」
少し考えを変えたみたいだった。
身内でも言いづらいことはあるけど、最低限は伝えないと余計にギクシャクする。
特に良いことは恥ずかしくても言葉に出して言ってほしいなとは思う。
そう言う俺も難しいけどね。
「ぜひそうしてあげてください。
フォルトナも外に居るので連れてきますよ」
アウラさんにそう伝え、玄関先に向かおうとした矢先……
――ボンッ
外から大きな爆発音が聞こえた。
「なんだ」
「何があったのでしょう……」
爆発音がした方を窓越しにみていると、そこにカルムさんがヒュッと現れた。
「アウラ様、緊急事態です。
村の中に魔物が出現しました」
「あらあら……
結界があるのにどうして……」
「どうやら、村の中に手引きした輩がいるようでして……
召喚で魔物を呼んだようです」
「で、村の人たちは?」
「今、取り急ぎ避難誘導をしております。
それに……
外に居たフォルトナ様も向かわれてしまいました」
どうやら、爆発音を聞いてフォルトナは何も考えずに行ってしまったらしい。
らしいと言えばらいし行動だが……
「……
あの、勇者様。
不躾なお願いで申し訳ございません。
あの子を助けてやっていただけませんか?」
「分かりました。
フォルトナは大事な仲間ですので」
そう言うと、俺たちもフォルトナの後を追い、現場へと走っていった。
「ワシも行くのか?
ようやく村に入ったのじゃから、酒ぐらい飲ませてくれ」
「酒はこれが終わってから、いっぱい飲ませてあげるから」
「本当じゃな。
よし、向かうぞ」