第103話 村長の代理は大変だよー ~フォルトナサイド~
みんなー。
ボクの事を覚えているかな~。
そう、フォルトナだよ~。
いつ以来の登場かな~。
なので覚えていてくれる人は少ないかな~。
そのことは置いておいて、ボクは母さんが倒れて、急いで村に戻ったんだけさー。
思いのほか元気でそれはそれでよかったとホッとしていたんだけど……
もう帰ってくるなり、あれやれこれやれってさー。
ボクの事をこき使ってさー。
「フォルトナ、あの件はどうなりましたか?
それと、これとあれと……」
「ねぇ、母さん!
あれこれ言うなら、自分でやればいいじゃんかー」
「あらやだわ。
この子ったら、私はまだ動けないのに……」
「だってもうピンピンしてるじゃん!
代理がいなくても出来るし、なんならボクじゃなくてもいいじゃんかー」
「イタタタ……
また急に痛み出したわ。
これじゃ、まだまだ動けないわ。
ということで、頼んだわよ、フォルトナ」
こんな感じで、もう文句を言うと痛い痛いっていってさー。
ずっとベッドの上から動かないんだよー。
本当にズルいんだからー。
それでも仕方なく母さんが気にしている村のみんなからの困りごとや依頼ごとをこなしていく。
「えっと……
村のはずれにある井戸の調子が悪くて直してほしいって話だったけー」
ぶつくさと文句を言いながら話すボクに、カルムさんがどこからともなく現れた。
「そのことは、オンケルにお願いしています」
「オンケルさんねー。
あの人は仕事が早いし、きっちりとこなしてくれるから助かるよねー」
「村長代理、もう間もなく修理も終わるかと……」
「あのさー、その『村長代理』って言うのむずかゆいから止めてくれないかなー」
村に戻ってきて、代理の仕事をし始めてからと言うもの……
カルムさんはボクの事を以前の呼び名で呼ぶことはなくなった。
まだその呼び名には慣れなくて本当に気持ちが悪い。
確かに『村長代理』ではあるんだけどねー。
それからカルムさんと共に村のはずれの井戸に到着した。
そこではオンケルさんが、修理の最後の仕上げにかかっていた。
「おっ、お嬢。
あっしの仕事の確認ですかい」
『代理』じゃなくて『お嬢』と呼んでくれるオンケルさん。
前と変わらず接してくれるのはオンケルさんぐらいかもしれない。
「うん、そうだよー。
というか半分以上は、母さんが気にしてさー。
ボクだったら、オンケルさんに任せっきりにするよ。
オンケルさんだったら大丈夫だしー」
「長はいろいろと気になるのでしょう。
それでも長はしっかりとあっしのことは信頼してくれていますぜ。
見には来るけど、口出しはしやせんから」
「そうなんだねー。
それならボクに対してももうちょっと任せてほしいなー。
本当に口うるさくてさー」
「親からすればいつまでたっても、子供は子供ですから。
いろいろと言いたくなるのでしょう。
お嬢も子供が出来ればわかりますぜ」
「そういうもなのかなー。
ボクにはピンとこないけどねー」
「お嬢には相手はいないのか」
「い……いないよー」
急に聞かれて瞬間的にアグリのことを思い出した。
そして顔が熱くなって、自分でも耳まで赤くなっている感じがした。
別にアグリのことは好きとか嫌いとかそういう感情がないはずだけど……
何故思い出したかは自分ではよくわからなかった。
そう言えば、アグリたちはどうしているかな。
首都に戻ってきたってところはカルムさんの情報で聞いたけど……
次のところへ行く前に、この村に寄ってくれないかなー。
「勇者様御一行がわが村に向かっているとのことです」
ボソッと耳打ちをするカルムさん。
「なんで今アグリたちのことを考えているってわかったのー。
ボク、そんなにわかりやすい顔してたー?」
「?
何のことを話していらっしゃるのでしょうか?
私は今しがた入った情報をお伝えしたまでですが……」
不思議そうな顔をしてボクの事を見ているカルムさん。
なんだ。
心の中を読まれたのかと思ったー。
少しほっとした。
「それならそうと最初に言ってよねー」
膨れっ面になりながら、カルムさんに文句を言った。
「申し訳ございません、村長代理」
「もー、ほんとにそれどうにかならない?
もう『村長代理』はイヤだよー!!」
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アグリたちがこの村に向かっていることを知ってから数日が経った。
相変わらず母さんはあれやこれやをベッドの上から話してくる。
心配なのはわかるけどさー。
もうちょっとボクの事、信用してくれてもいい気がするー。
今朝も母さんとひと悶着というかお互いにいろいろ言い合った後……
いつも以上に剥れた顔をして、家を出ていった。
なんだかんだ言っても村の事は気になるので、村民たちの困りごとの確認をしに行った。
確認している間も、話している間もずっとずっと母さんからの小言を思い出して……
なんだかずっとプンプンしていた気がする。
カルムさんが少し落ち着くようにと言ってはくれるものの……
それ自体にもなんだか腹が立ってしまって
「そう怒っていては村の方々にも心配をおかけしますよ、村長代理」
「だ・か・らー、
その『村長代理』を止めてよー。
前みたいに呼んでよー。
ボクはボクなんだから、もっと気軽な関係でいたいんだよー」
カルムさんに対してもちょっときつく当たってしまった。
そんな自分にも腹が立ってきて……
「ちょっと一人にさせてー」
と言って、その場から走って逃げた。
しばらく走って、首都の方に向かう森の近くまで来た。
「…………」
なんだか自分自身に嫌気がさしてきた。
もっと上に立つものらしくと求められてもなー。
出来ないものは出来ないしー。
どんな役があってもボクはボクらしくいたいのにー。
「……
やっぱりボクには村長代理なんて無理だよー」
ふとアグリたちとの冒険の日々を思い出す。
「あの頃は良かったなー。
危ないこともあったけど、楽しかったし―」
そんなことを考えていたら、涙がこぼれ落ちそうになった。
急いで、空を見上げた。
それでも涙が頬を伝い、地面に落ちていった。
もうこのまま逃げ出しちゃおうかなー。
でも母さんを困らせたくないしー。
いろいろな思いが錯綜していた。
そんな時……
「あれ?
フォルトナじゃん」
森の奥から、聞きなれた声がした。
そこにはアグリやゾルダ、マリーが居た。
腕で涙を拭って、立ち上がった。
「小娘の娘、ここで何をしておるのじゃ?
小娘は元気かのぅ」
「……うん、母さんは元気だよ。
元気過ぎて困るよー」
懐かしい顔を見て、自然と笑顔が出てきた。
それと同時に、母さんへの愚痴も出てきてしまう。
「あのさー、母さんがー……」
なんとなくの居心地の良さに、べらべらといっぱい喋ってしまう。
みんなが若干引き気味だった気もするけど、それも含めてホッとする空間を感じてすごくうれしくなっていた。