第102話 話し相手ぐらいしてくれよ ~アグリサイド~
武闘大会が終わって数日がたった。
終わった翌日には国王から魔族を倒した礼は言われたが、武闘大会のことは特に話題に上がらず……
会場を壊した責任も特に何も言われず、危機を救ってくれたことだけを褒め称えられた。
城や城下内でも魔族が現れて、勇者が倒したことで話題が持ち切りだった。
武闘大会のことはみんなの記憶から薄れているようだった。
でも、魔族を倒したのは俺じゃないんだよな……
ただ、俺としては人相手に戦ったのはほぼ初めてだったけど……
以前よりか強くなった実感は出来たし、武闘大会に出て良かったかな。
失いかけた自信もこれで少しは取り戻せたとは思う。
まぁ、まだまだ魔族の強い奴らやゾルダやマリー、セバスチャンには敵うとは思えない。
人であの域に達することが出来るのかの心配はあるけど、努力は裏切らないし、まずは頑張ろう。
自分のペースでやっていけばいいのだ。
さてと、次は東の街へ行く話だったと思うのだけど……
ゾルダが一向に動かない。
最初は俺が方々で説明をしたり、国王に謁見したりでそれを待っているのかと思ったのだが……
飲み食いしては寝て、起きては飲み食いしての繰り返し。
朝から酒を浴びるように飲んでいる。
なんかさらさら動く気なんかないように感じる。
俺がゾルダたちが封印さいている武器や装備を持って出発すれば否応なしに動き始めるはずなんだけど……
強引に進めるのは気持ちが乗らないので、確認はしてみる。
「あのさ、ゾルダ。
そろそろここを出て次に向かわないと……」
「そうじゃったかのぅ……
ワシはいろいろあって疲れたからもう少しここで休まないといかんのじゃ」
酒臭い匂いを漂わせて、けだるそうにゾルダは応えた。
「いや、いろいろやっていたのは俺であって、ゾルダではないだろ?
その辺りの話も終わったし……」
「……もう少しじゃ……
ここを出ていったらもうこの美味しい酒はしばらくお預けなのじゃ。
名残惜しいのじゃ。
もう少し飲ませるのじゃ」
そうだろうと思ったけど、思いっきりぶっちゃけるなぁ。
「それはそれでわかるけど、アスビモのことはどうするの?」
「…………」
アスビモと言う言葉にちょっとは反応したゾルダだが、俺から顔を背けてベッドに横たわってしまう。
マリーもゾルダにベッタリで、一緒になって横になっている。
「セバスチャン……
なんとかならない?」
「そうですね……
お嬢様、予定よりだいぶ遅くなっております。
そろそろアスビモも東の街からは居なくなってしまうかもしれません。
そうなるとまた行方を捜すのに一苦労することになろうかと……」
「…………
あいつはワシがギッタンギッタンにするのは確定じゃが……
まぁ、何れどこかでは相まみえよう。
そう慌てることでもなかろう」
どうやらアスビモへの執着は薄れたようだった。
どういう心境の変化があったのかはわからないが……
心境の変化というより、熱しやすく冷めやすいのかもしれない。
セバスチャンも成す術無しという感じでお手上げの様子だった。
「それでも明日にはここを出るよ。
ゾルダが行きたくなくても、剣と装備は持っていくから」
「そ……そんな殺生な……
そうとなれば、こんなところで寝ている場合ではないのぅ」
何を思ったのか、ベットから突然起き上がり、勢いよく部屋付きのお世話係に向かっていく。
「おい、あのじじいに言って、ここにあるだけの酒を持ってこさせろ。
今日中に飲み溜めするのじゃ」
ってそっちかい。
まぁ、気持ちもわからんでもないけど……
ゾルダなりの区切りなのだろう。
その日の夜、ゾルダは名残惜しいように?……
とは程遠く、毎晩と変わらず浴びるように酒を飲みほしていった。
封印当初の二日酔いを連発していたころとは大違いだ。
これも封印となんらか影響があるのだろうか……
――翌日
国王に宴のお礼を伝え、首都を後にした。
ささやかだがと言うことで、魔族を倒した報奨金ももらった。
当面の生活費もこれでなんとかなりそうだ。
ゾルダはというと起きて早々迎え酒をしていたが、首都を出たとたん剣の中に入り出てこなくなった。
「ワシは眠いのじゃ。
この辺りならおぬしだけで大丈夫じゃろぅ」
東の街へ向かうためには、俺が一番最初に向かったシルフィーネ村を経由する必要があった。
そのためには森を抜けるのだが……
あの頃は確かにおっかなびっくりで進んでいったけど……
さすがに今は経験も積んだしなんなく行けるだろう。
「楽をするのは気に食わないけど……
ここはもう問題なくなったはずだから、俺だけでも行けるよ」
「承知いたしました」
「お任せしますわ」
俺だけって言ったことをしっかりと聞いていたのか、セバスチャンもマリーもそれぞれの装備の中へ入っていってしまった。
「本当に俺一人だけにするのかい」
そこから一人きりで森を抜けることになった。
もくもくと歩き続け、魔物が出て来れば倒していった。
その間、誰一人として外には出てこなかった。
ひたすらもくもくと歩き続けるが……
「あのさ、せめて会話ぐらいさせてくれよ。
一人で喋らず歩き続けるのもつらいんだよ」
そう愚痴をつぶやくのだが、反応が帰ってこない。
本当に任せっきりだな。
そこから数日歩き続けようやく森を抜けたところで、三人が姿を現した。
「ふぁ~~。
良く寝たのぅ」
ゾルダは大きなあくびをして眠そうに目を擦っている。
「おはようございます、お嬢様」
セバスチャンはピッとした姿で、ゾルダに一礼をしていた。
「マリーもゆっくり休みましたわ」
マリーもゾルダと似たように大きなあくびをしていた。
「やっと出てきてくれたよ。
この森抜ける間、誰とも話が出来なかったのは流石に堪えたよ」
話が出来なかった日々が思い起こされて、気持ちが若干ブルーになってしまい、涙目になっていた。
「おぬしに任せるといったじゃろ」
「アグリ殿だけで行けるとのことでしたので、口出ししてもいかがかなと思いまして……」
「セバスチャンと同じくですわ」
「たしかに戦闘は任されたけど、誰もいなくなることないじゃん。
せめて話ぐらいさせてくれよ」
ようやく会話が出来たことに喜びを感じながらも、道中のことを愚痴っていた。
「そんなことより、そろそろ小娘の村じゃぞ。
小娘も、小娘の娘も元気かのぅ」
なんか道中の苦労を軽くあしらわれてしまった。
話し相手が居ないって結構大変なんだぞ。
「ったく……
俺の苦労も知らないで」
「あぁ、知らんのぅ。
他人の事なぞこれっぽっちも分からんからのぅ」
「確かにそうだけど……」
それでも道中の孤独の大変さを滾々と3人に話しながら、シルフィーネ村へと向かっていった。