第101話 武闘大会 その後 ~マリーサイド~
国王の思い付きで始まった武闘大会でしたが、バルバロスとか言う小悪党の所為でお開きになりましたわ。
まぁ、国王の思い付きというよりかねえさまがそそのかしたのですが……
今は、その後始末というかなんというかで、アグリが説明に追われています。
マリーやねえさま、セバスチャンの正体を知られても仕方ないですし。
アグリはいつも損な役回りで大変ですわ。
それにしても武闘大会でのねえさまの活躍は見事でしたわ。
不慣れな剣でのあの快進撃……
しばらく触ってないとは思えないほどの剣捌きでした。
今、思い出しても、ウットリしてしまいますわ。
マリーもあの域に達したいものですわ。
あと、アグリは……
正直あそこまでやるとは思いませんでしたわ。
私と一緒にセバスチャンの訓練を受けているはずなのですが……
あのねえさまと対等にやりあうなんて思っても見ませんでしたわ。
少しだけですが、見直しましたわ。
まだまだねえさまには遠く及ばないですがね。
「えっとですね、みなさんを避難させた後に、爆発したところに駆けつけると……
バルバロスと言うやつが、この部屋を滅茶苦茶にしてまして……
そいつを俺が倒しまして……」
アグリは身振り手振りで状況を見に来た近衛兵に事情を説明していますわ。
慌てたときのアグリはああやって大きな動作でごまかしているのがまるわかりですわ。
「それで、この上の穴はなんでしょうか?」
近衛兵の質問にさらにしどろもどろに答えているアグリ。
そんなに慌てなくてもいいのに。
「あぁ……あれは、バルバロスを倒すためにですね……
これ以上会場にも街にも被害を出さないためにも……
上空で倒すのがいいと思いまして……
上に放り投げて、倒したということでですね……
……
ごめんなさい。これは私がやりました」
アグリは何をあやまっているのでしょうか。
ねえさまも珍しく、街中だし被害を最小限に食い止めることを考量しての行動でしたのに。
あやまる必要もないことを何故あやまっているかがわかりませんわ。
「あのままバルバロスと言う奴を野放しにしておいたらこれだけでは済まなかった思います。
なおかつ倒す際にもいろいろと配慮いただいたようで……
勇者様には本当に頭が上がりません。
ありがとうございます」
「いえいえ……
それでも一部を壊したことには変わりがありませんので……」
そこまで遜らなくてもいいのに。
もっと『俺が倒したんだー、敬え』ぐらい言ってもいいのに。
まぁ、そこがアグリのいいところでもあるのですがね。
「状況は国王陛下にもお伝えはしますが、被害を最小限度に抑えていただいたので……
特に何か言われることは無いかとは思います。
説明いただきありがとうございました」
そういうと近衛兵はアグリの下を去っていきましたわ。
「ねぇ、アグリ。
あんなに焦って話さなくても良くって。
もっと堂々としたらいいのに」
「性分なんで、仕方ないよ。
向こうの世界では極力そういう状況にならないように避けていたし。
最低限しかやってこなかったからね」
「それでもですわ。
じゅ……十分……強いのに、弱い奴にペコペコ頭を下げなくても……」
「人族の世界では強さだけではないから。
誰でも分け隔てなく接しないと。
その方がトラブルにならなくていいし、自分が下の立場として振舞った方が丸く収まるよ」
「そういうものなんですかね。
人族の世界は面倒ですわね」
「は……は……は……
それを言われると言い返せないなぁ。
人の方がしがらみやらなんやらあるので、面倒なことは認めるよ」
魔族からしたら力が示せれば、それで屈服するし、上に立てる。
上に立ちたかったら、力をつけるしかない。
分かりやすい世界ですわ。
そうしてまで人の世界にいる意味はあるのでしょうか……
「おぬし、説明は終わったかのぅ」
ねえさまがアグリの近くに来ましたわ。
「終わったよ。
説明するのが大変なんだからさ。
なるべく街で暴れないでくれよ」
「それを言うのか。
暴れたのはあの……誰じゃったか……」
「バルバロスっ」
「バルバロスですわ」
思わずアグリと一緒に言葉が出てしまいましたわ。
ちょっと気恥ずかしさがこみ上げてきました。
「そうそう、そのバルバロスとやらが先に暴れたんじゃからのぅ。
すべてはあいつの所為じゃ」
「そうは言ってもなぁ……
何もないところなら見逃すけど、今回は街中だし……」
「じゃから、考えてじゃのぅ。
上へ投げて倒したじゃろ」
「まぁ、そこはきちんと考えてくれたようで助かったけど……」
「そうじゃろ、そうじゃろ。
ワシもしっかりと考えておるじゃろ」
「はいはい」
ねえさまとアグリの話が軽快に続きます。
こういう感じになると、割り込めなくて……
ねえさまを取られた気分になりますわ。
話が続いている中で、ねえさまに寄り添い、腕をぎゅっと掴まえます。
「そう言えばじゃ……
人族相手に戦ってみてどうじゃった?
おぬしも強くなっているのは実感できたかのぅ」
「……
確かに相手は凄く遅く感じたよ。
今までの戦いでそんな感じはなかったから、全然強くなっている気がしなかったけど……
これで実感は出来たかな」
「うむうむ。
そう感じさせたのもワシがあのじじいをそそのかして、武闘大会を開催させたおかげじゃのぅ」
「そうなのか?
単にお前が戦いたかっただけじゃないか?」
「そ……そんなことはないのじゃ。
というか、ワシは出ておらんぞ」
「まだ白を切るのか」
いつまでも続くねえさまとアグリの会話に嫉妬しか出てきませんわ。
「ねえさま……
マリーはもう疲れましたわ。
そろそろ帰りませんか」
思わず会話に割り込んで、疲れたアピールをしてしまいました。
「おぉ、そうか。
悪かったのぅ、マリー。
ワシもいろいろあったから、そろそろ休みたいのぅ」
「ですわよね。
ねえさま、早く帰って休みましょう」
アグリからねえさまを奪えましたわ。
マリーからねえさまを取らないでいただいたいですわ。
「ほれ、おぬしも終わったのじゃろ。
さっさと帰るぞ」
「説明は終わったけど、このままでいいのかな」
「いいのじゃ、いいのじゃ。
あとはじじいたちに任せればいいのじゃ」
「そうなのかな……」
アグリは申し訳なさそうな顔をして、後ろ髪をひかれるようにしていました。
「おぬしも一緒じゃないと、ワシらは戻れんのじゃ」
そんなアグリをねえさまは強引に引きずって、その場を後にしていきました。
マリーもねえさまと腕を組んで一緒に帰っていきましたわ。