第100話 お礼をしっかりと受け取るのじゃ ~ソフィアサイド~
「勇者はどこだ!
勇者を連れてこい!」
バルバロスとやらはワシに向かってわめきちらしておる。
弱いし、五月蠅いし、まったくなんでこんなやつをここに送り込んできたのじゃ。
ゼドの奴は良くわからんのぅ。
「勇者は今は忙しいのじゃ。
このワシが直々に決勝をぶち壊してくれたお礼をしてやるからのぅ。
しっかりと受け取れよ」
ワシはバルバロスとやらにそう言うと、仮面を外し持っていた剣を構えた。
どんな風にこやつを料理してあげようぞ。
「あの……ねえさま……
別にもう武闘大会ではないので、剣を使う必要はないのでは?」
マリーに言われるまでとんと気づかなかったのぅ。
「おぅ、そうじゃったそうじゃった。
言われてみればそうじゃのぅ。
剣なんて邪魔くさくてしかたない」
ワシは剣を放り投げ、改めてバルバロスとやらと対峙をした。
「お前の事などどうでもいい。
勇者だー、勇者を連れてこい。
お前を倒したところで、俺様には何の得にもならない」
相変わらず勇者、勇者の一点張りじゃ。
どうせゼドのことじゃ、勇者を倒した奴には四天王に取り立てるなどと言っておるのじゃろぅ。
不都合なこと、ワシらがいることは隠してのぅ。
「ワシの首もあいつなら喜ぶと思うがのぅ」
「そんなことは知るか。
俺様は勇者の首を持って、魔王軍の幹部となるんだー」
ん?
その口ぶりからするとどうやらあいつはゼドの回し者ではなさそうじゃのぅ。
そこらに居る野良魔族か。
名前を上げたくて勇者が凱旋してきたこの武闘大会を狙ったようじゃのぅ。
「お前はワシの事を知らんのか?」
「あぁ、知らないな。
あいにく俺様は下っ端なんか興味がないしな」
「ほほぅ。
ワシが下っ端じゃと?」
「そうだよ。
たまたま俺様の不意を突いて勝っただけだろ。
まともに戦えば俺様の圧勝だ!」
なんかこうも自分と相手の力量がわかっていないアホだと……
頭にくるのを通り越して、逆にかわいく思えるのぅ。
「では、その実力を見せていただこうかのぅ。
今度はワシが受けてやるから、さっさとかかってくるがよい」
満面の笑顔でバルバロスとやらを煽って嗾ける。
「そこまで言うなら、俺様の力を見せてやるよ」
バルバロスとやらはようやくワシの方を向いて、槍を構えた。
「ライトニングスピア!」
得意と思われるスキルを発動してワシに向かってくるバルバロスとやら。
ただあまりにも遅いので、ギリギリまで引き付けてから避けてやった。
「遅いのぅ。
これがお前の実力か?
まだ本気をだしておらんじゃろ?
さっさと本気を出すのじゃ」
呆けておる顔がまた滑稽じゃのぅ。
まぁ、ワシのことを理解しないまま倒されるのもまたいいかもしれん。
それとも、倒される直前で、実力差がわかって絶望したまま逝くか……
ワシにとってはどっちでもいいのじゃがのぅ。
どのみち倒されることは確定じゃからのぅ。
どう倒そうかと考えるだけでニヤつきが止まらん。
その後もバルバロスとやらは攻撃をしかけてくるが、話にならんほど遅くて眠くなるわ。
どの攻撃もギリギリのところでかわしてやった。
「おのれ、ちょこまかと逃げやがって。
受けると言うなら逃げずに堂々と受けやがれ!」
バルバロスとやらはまだまだワシの事を理解していないようじゃ。
相変わらずの突進ぶりは泣けるのぅ。
まぁ、堂々と受けろというのであれば、受けてあげようかのぅ。
ワシに向かってきた槍を今度は逃げずに魔法障壁で受け止めた。
呆気にとらて動きが止まった槍を掴むと、上へと放り投げた。
――ドドドドドドドドドッー
控室の天井を突き破り、その上の部屋も、またその上の部屋の天井も突き破り……
バルバロスとやらは空へと舞っていった。
「ウヒャーーーー」
何とも言えない喚き声と共に。
「あっ、言い忘れておったがのぅ……
ワシが得意としておるのは魔法の方じゃ。
物理攻撃は苦手なんじゃ」
「お嬢様……
そこでそんなこと言われても、バルバロスには聞こえていないと思いますが……」
セバスチャンはバルバロスとやらの行方を見て、空を見上げてそう言った。
「別にあいつに聞こえてなくてもよいのじゃ。
ワシが言いたかったから言ったまでじゃ」
「さようでございますか。
お嬢様がそれで満足されておるのであれば、私からは何もございません」
ワシの顔を一見したセバスチャンは頭を下げてお辞儀をした。
「ここからが本番じゃ。
空に飛ばしたのも、ここで魔法使ったら街に危害が及ぶしのぅ。
空なら力加減もいらないしのぅ」
右手の平に魔力を集め、魔法発動のための充填を始める。
黒い炎はみるみるうちに膨れ上がり、控室を覆いつくした。
「黒闇の炎」
右手を高々と上げ空に向かって漆黒の火を打ち上げる。
気分爽快じゃのぅ。
「ねえさま、ちょっとやりすぎではないですか?
あんな小物相手に」
マリーが呆れた顔でワシの近くにきた。
「そうですな。
ただそれがお嬢様の『お礼』なのでしょう」
セバスチャンも服に着いた誇りを払いながらワシの近くに歩み寄ってきた。
「まぁ、今までの鬱憤もたまっておったしのぅ。
それに……
ちょっと負けそう……じゃなくて、苦戦しておった決勝も吹き飛ばしてくれたしのぅ。
小物にしては良くやったほうじゃからのぅ。
多少本気を出させてもらった」
膨れ上がって打ちあがった黒い炎はバルバロスとやらにぶつかった。
その瞬間激しい光と共に大きな爆発が起こった。
「うむ。
きれいじゃのぅ」
夜に差し掛かった空に花火のような光が首都の街中を照らしていた。
「これであやつとの勝負も有耶無耶になったじゃろ」
あやつに負けそうになったなどと絶対にあってはならぬことじゃ。
そんなワシの黒歴史は消し去るのみなのじゃ。
「なんか上空で凄い爆発があったけど、なんだった?」
今になってあやつがワシらのいる控室に入ってきた。
「なんじゃ、おぬしは来るのが遅いのぅ」
「王様やその他の貴族たちを安全なところに誘導していたから……」
遅れてきた理由をあやつはめい一杯、手ぶりを大きくして説明した。
「とりあえず……
このことはおぬしがやったことにしておいてくれ。
ワシらの正体がバレてもしかたないしのぅ」
「えっ?
なんで俺がやったことに?
この悲惨な状況もか?」
周りは焦げた壁や床、家具などが散乱している。
天井は吹き抜け以上に吹き抜けている。
「まぁ、これは、そうそう、あの暴れたやつがやったのじゃ。
そうだよな、セバスチャン、マリー」
実際はワシじゃが、バルバロスとやらの所為にしておこうぞ。
死人に口なしと言うしのぅ。
「……はい、お嬢様のおっしゃる通りです」
「ソウダネー、ネエサマハヤッテナイデスヨー」
ワシの言葉を察したセバスチャンとマリーは同調してくれたようじゃのぅ。
「どうせ、ゾルダが大暴れしたからじゃないのか?
仕方ないなぁ、もう……」
あやつは呆れつつも、今まで通り、全部自分が戦って倒したということにしてくれるようじゃ。
その後、城の衛兵たちがワシらのところにきて事情を聴いていった。
口裏を合わせておいたので、武闘大会の参加者に魔族がいたのであやつが倒したと言うことになった。
騒ぎがあったこともあり、武闘大会もそのまま終了することになったのじゃ。
こうして長い武闘大会の一日がおわったのだった。
「ふぅ……
これで、あやつとの戦いの件はなかったことになったのぅ」
これにて一件落着。
めでたしめでたし。
じゃ!