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便利屋に依頼がこない  作者: ニシロ ハチ
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エピローグ 2

 ミンチ、ナナ氏、Qちゃん、伊藤の四人で麻雀をした。

 伊藤の荷物の正体は、麻雀道具一式だった。

 話のネタは、この数日に起きた殺人事件についてだった。

「なんか、悲しい話ですね」Qちゃんが言った。「もし、その御堂筋って人に、ホンマにお腹の中の赤ちゃんを殺されたなら、殺したくもなるんちゃいますか?」

「殺したくなってもいい、でも、殺しちゃ駄目だ」ミンチは牌を切りながら言った。

「そうですか?子どもの為やったら、ええと思いますけど」彼女は既に、アルコールをグラス五杯分飲んでいる。

「関係ない。愉快犯に両親も子ども兄弟もパートナも殺されても、その愉快犯を殺しちゃ駄目だ」

「それやったら、ええと思いますけど」Qちゃんは納得していないようだ。

「映画なんかだと、家族を奪われた復讐の為に、相手を殺す事を美化されている。日本だと武士道とか、忠誠心とかも、それに絡んでいる。でも、どんな理由でも、相手を殺しちゃ駄目だ。相手を裁くのは、法律に則って行わなければならない」

「なんでですか?その結果、懲役十年とかやったら、許せますか?」

「許せないだろうね。でも、仕方がない。それが法律だったら、従うしかない」

「なんでですか?おかしいと思います」

「なんで?なんでって、僕は人から恨まれる事を結構やってるけど、その仕返しに殺された困るからかな」

「はぁ?アカンですよ。そんな自己中な。どんな綺麗な言葉が飛んでくるんか、待ち構えとったら、なんやねん。それ」彼女は少し怒っている。

「でも、仕方がない。それが正しいんだから。悪事への復讐であれば、殺してもいいなんて暗黙の了解があったら、社会が崩壊してしまう。何があっても、何をされても、人を殺しちゃいけない。それを全員が従わないと、外を出歩くなんて、怖くて出来なくなる。宗教や法律だって、自己中心的で、自分勝手に創られたものだ。でも、社会の中で生きるなら、それに従わなきゃいけない」

「全然、わかってないんですよ。ミンチさんは。奪われた人の悲しみとか、憎しみを」

「そうかもね。つい最近も、同じ話題で、同じ事を言われた」

「その子と気が合いそうやわ。どんな子ですか?うちと同じで、頭が良いと思います」

「人を殺して捕まったよ」

 お金が掛かっているとはいえ、一瞬だけ珍しく沈黙が訪れた。

「でも、子どもが死んだからって、付き合っていた男を殺そうと思うか?」伊藤が口をはさんだ。

「別に普通やと思うけど」Qちゃんが答えた。

「でも、子どもは流産だ。まだ、生まれてはいない。百万円の宝くじが当選したと思ったら、勘違いだった。それはショックを受けるだろうが、諦める事も出来る。手に入ると想像した分だけ、失ったと錯覚するだろうけど、初めからなかったんだから」

「ホンマに言っとる?」Qちゃんは伊藤を睨んだ。声のトーンも低い。

「いや、不謹慎だとは思う。でも、まだ、人間じゃない。腕とか足とか細胞の塊だ。付き合った相手のせいで、歯が全部抜けたら落ち込むと思うが、だからといって、好意を寄せていた相手を殺したい程憎みはしないだろ」

「信じられへん。この人」Qちゃんは嫌悪の表情を浮かべる。

 ミンチは伊藤の言葉が理解出来る。でも、この話に触れるほどバカじゃない。それに、同じ意見でもない。

「お腹の中にいるんやったら、それはもう、子どもやよ。人間やよ」Qちゃんは言った。

「それを言ったら、五歳位の女の子は、将来、子ども生む可能性が高い。でも、その子がいなくなる事は、その将来の子どもも一緒に亡くなるとは、誰も思わない。可能性の話をしたってしょうがない。人は、生まれた時から、人になる。だから、誕生日を祝うんだろ?妊娠した日を祝う人はいない」伊藤が補足する。

「セクハラ。サイテー。バカお兄」

「違う。えっと、言いたい事は、人間未満が死んだからと言って、人間を殺すのかってこと」

「人間未満なわけがないやろ。バカ。母親は、お腹の中の赤ちゃんの為なら、全世界の誰だって殺せるわ」

「そういうものか」伊藤は引き下がった。

「Qちゃん」ミンチは言った。

「なんですの?」彼女はグラスの中のアルコールを飲み干した。

「最初に、イカサマに対する説明を言わなかったから、今回は見逃すけど、次、同じイカサマをやったら、役満分の点棒を全員に支払わせるから」

 Qちゃんは、手の中の牌を隠す為に拳を強く握った。

「えっと、あらら。でも、いつも通りやっても勝てへんのやもん」Qちゃんは困った顔を作った。

「あんな真剣な話の最中にイカサマっすか?」ナナ氏は、Qちゃんを呆れた表情で見つめた。

「まだ、やってへんよ。でも、ちょっと、本気にならんとアカンな。これ。でも、うちのイカサマって、疑ってかからな、絶対バレへんのに、ミンチさん、酷い人やわ」Qちゃんは言った。

「面子が悪かった。こいつと一緒にやる時は、目を光らせるようになったんだ」ミンチは伊藤を睨んだ。

「妹相手には、イカサマはしない」伊藤が言った。

「兄妹だな」ミンチは笑った。

「お兄ちゃんのせいやん」Qちゃんは言った。

「イカサマする方が悪いっすよ」ナナ氏が指摘する。

「あーもう。手癖を出したら楽に勝てる。でも、それを封じられても、結局、勝つのがうちの人生よ。自分に合った枕が無くても、眠ってみせようホトトギス」


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