依頼がこない五日目
「ドーナッツってなんであんな形なんか知っとる?」Qちゃんが言った。
「持ち運ぶ時にうっかり落とさない為じゃないすか?」ナナ氏が答える。
「落とさん?関係あるか?」
「だって、リングの部分に、こうやって指を通せば、絶対に落ちないっすから」ナナ氏は右手の親指と中指で輪っかを作った。
「アホちゃうか?そんなしてドーナッツを持つやつがどこにおるんな。見たことないわ」Qちゃんは隣に座っているナナ氏の肩を叩く。
「でも、落ちないっすよ」ナナ氏はニッコリと笑う。
「それは誤用よ。誤算。そんなもんドーナッツ伯爵も考えてなかったで」
「誰っすか?ドーナッツ伯爵って」
「しらんのか?ドーナッツを始めに開発した人よ」
「嘘っすよね」
「ホンマ。ホンマ。サンドイッチは、サンドイッチ伯爵が。ケンタッキーはケンタッキー伯爵が開発したんよ」
「ケンタッキーって州の名前っすよ?」
「あれっ?そうやったか?」
「それに、伯爵ってそんな最近までいたんすか?」
「おるところにはおる。権力者ってのは、簡単には潰れんもんよ。うちかて、何億も持っとったら、2、3億稼ぐくらいお茶の子よ。それが伯爵なんやから、そら、おるところにはおるやろ」
「普段、何して暮らしてるんすか?」
「まず、庭でワニを飼っとる。それが大きくなるまで育てて、ワニ革の鞄を作るわけよ。お金を盗まれんように、防犯用にもなって、一石二鳥やな。この辺が、お金持ちの賢いところよ。無駄がないわ」
「鞄くらい買ったらいいじゃないすか?」
「それやったら、防犯にならんやろ。庶民的な考えやな。まだまだ、浅いで」
「それで、なんの話っすか?」
「伯爵の話やって」
「違うっす。その前の、ドーナッツの形」
「ああ。そうそう。なんで、ドーナッツってあんな形なわけ?」
「中に隙間が空いてる方が、大きく見えるからっすよ」
「なる程な、一理あるわ」Qちゃんは得意気に頷く。
「理由を知ってるんすか?」
「知っとる。試しとったんよ」
「じゃ、なんすか?」
「可愛いからよ」
「可愛い?」
「そうや。ゴマ団子よりも、ドーナッツの方が可愛い。ゴマ団子専門店なんて、日本中探してもなのに、ドーナッツ専門店は、そこら中にあるのも、可愛いからや」
「味が違うからだと思うっすけど」
「大して変わらんよ。小麦粉を揚げて甘くしとるんやから」
「それで、それがどうかしたんすか?」
「ここからが大事よ。可愛いいキャラを作ったら、それで宣伝になるわけよ。宅配便も、動物のマークがあるやろ?プロ野球にも、キャラがおるんやから、意味はあるわけよ。それが利益になるわけよ。やから、便利屋のゆるキャラみたいなのを作ったら、皆に親しまれるわけよ」
「なんかそれっぽいっすね」
「ぽいじゃないわ。大筋。王道。ロード トゥ 伯爵家よ」
「それじゃ、そのキャラが武士の喋り方をしたら、もっと可愛いっすよね」
「武士?どっから武士が来たんや?可愛いわけないやろ。ちょんまげやぞ?罰ゲームかいな?」
「絶対可愛いと思うっすけど?どうっすか?」ナナ氏はミンチを見た。Qちゃんもつられてミンチを見る。
「うん。どちらも却下」ミンチは答えた。