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便利屋に依頼がこない  作者: ニシロ ハチ
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依頼がこない十七日目 4

 二人は屋敷の前に来た。

 目的の屋敷の塀が高いので、ミンチは隣の家の塀に登り、目当ての塀の上に手を掛け、そのまま飛び越えた。そのまま門まで歩き、内側から門を開けて美月を入れた。庭を横切り屋敷の玄関へ移動する。玄関の鍵は閉まっているが、最新式のタイプではなかった。

 ミンチはポケットから専用の工具を取り出し、十秒も掛からずに開けた。

「泥棒みたい」後ろで見ていた美月が呟いた。

「昔、家の鍵を無くした時に練習したんだ」ミンチは嘘をついた。

 屋敷に入り、内側から鍵を閉める。

 玄関は広い。二人は靴を脱いで、それを鞄に閉まった。ビニル袋にいれると、音が鳴るので、直接だ。

廊下が伸びていて、左手のドアを開けた。聴いていた通り、そこがリビングだ。Lの字のソファは、大人二人がゆったりと眠れるサイズだった。大型のテレビが壁際にあり、間にはガラスのローテーブル。照明や壁紙は落ち着いた雰囲気だ。木製の家具が多い。どれも、高級感に溢れている。リビングに入って右側の壁にはドアがあり、そこはキッチンだった。立派なキッチンで、冷蔵庫は大きく、オーブンやコンロも充実している。ワインセラもあり、ワインが綺麗に並んでいる。

 ミンチは他の部屋も一通り見て回った。どの部屋も広く、雰囲気が統一されている。寝室やゲストルームと思われる部屋は、ベッドのシーツがホテルの様にセットされていた。そして、屋敷内に誰もいない事を確認した。

 御堂筋が現れるのが、十八時なら、電気を消しても、室内は視認出来るだろう。暗闇に乗じて襲う事は出来ない。

 美月にはキッチンに隠れて貰っている。キッチンからは裏口へのドアがあり、そこから外に出る事も可能で、もしもの時は、逃げられるからだ。

 ミンチは、玄関右手直ぐの部屋のカーテンの隙間から外を見ている。門から来たやつは、直ぐに確認出来る位置だ。心臓の鼓動がいつもより速いのを自覚する。他人の住宅に侵入した時は、いつもそうだ。この緊張感は、ここでしか味わえない。大勢の前で発表するのとも、バンドのライブ前とも全く違う、スリリングさがここにはある。

 電話のバイブが鳴った。十七時四十五分だ。相手は伊藤だった。

 少し迷った後、イヤフォンを付けて、電話に出た。

「時間がない」ミンチは小声で言った。

「わかってる」伊藤の声。「今回の殺人現場周辺に、綾部って女の姿もあったらしい。それも、山内の死亡推定時刻と重なる時にだ」

「それで?」ミンチはきいた。

「綾部って女はお前にだけ、その場所を教えたのか?」伊藤はきいた。

「いや、預かっている子に連絡があった」

「預かっている子?」

「赤井の娘だ」

「えっ?お前が預かっている子は、赤井の子どもなのか?」

「言ってなかったか?」

「聴いてない。家出をしているってのは聴いたが」

「それで、うちで匿っていた。だから、組織の内部もある程度知っていたんだ」

「まだ、子どもじゃないのか?」

「子どもだ」美月は高校一年生だし、ヒカリは来年から小学校に通う。

「綾部がその子に連絡したのか?」

「そう。御堂筋が狙っているのが、その子だから、綾部が危険を知らせたんだろう」

「違う。綾部って女が怪しいんだ。そいつが山内を殺した可能性がある。今は、送ってきた住所にいるのか?」

「ああ。もうすぐ御堂筋が来る」

「そこに綾部って女はいないか?」

「いない。屋敷の中は一通り確認した。誰もいない」

「どこかに隠れているかもしれない。綾部って女に気を付けろ。そいつは御堂筋……」

 門が開いた。ミンチはワイヤレスイヤフォンを外して、ポケットに入れた。

 息を殺したまま深呼吸した。やはり、電気を消したままでも、カーテン越しに光が漏れている。

 男が現れた。

 短髪でサイドを刈り上げている。薄着でサイドバックを片手に持っている。身長は百八十センチ程。筋肉がしっかりとついている。美月から聴いた通りの風貌だ。

 御堂筋力也だろう。

 ミンチは息を殺したまま深呼吸した。

 玄関を開ける音。

 足音がリビングに続いた。

 ミンチは静かにドアを開けて、玄関を移動した。

 リビングは電気が付いていた。

 ソファに座る音。

 ミンチはリビングのドアを開けた。

 ソファには、御堂筋が座っている。

 目が合う。

 ミンチは室内に入った。


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