依頼がこない十七日目 2
ヒカリの面倒は、矢島に任せた。
彼は快く引き受けてくれた。美月は心配していたが、問題ないだろう。スイカは好きだけど、キュウリは嫌いな人だっている。矢島の好みが違うだろうし、彼にだって善悪の判断は付くはずだ。
三人で昼食を済ませた後、ヒカリを置いて、現場の下見に、レンタカーで美月と向かった。レストランや人の多い場所だと、怪我人が出るリスクがあったので心配したが、幸いにも住宅での待ち合わせだった。相手は指名手配こそされてはいないが、逃亡犯なのだから当然かもしれない。
ただ、その住宅に問題があった。そこは、赤井のグループの所有物らしい。普段は、幹部が出入りしているそうだ。ただ、人を払って、密会するのにもよく使われるとのことだ。今は、十四時なので、人がいる可能性が高いと、美月が言った。美月は、この屋敷を利用した事があるらしい。
中を探るわけにもいかない。周囲に高層マンションがあったので、そこのロビィに二人で入った。オートロックだったので、それ以上は入れない。非常階段から侵入しようかと考えていたら、中から人が出てきた。軽く挨拶をして、扉が開く前に中に入った。オートロック付きマンションの非常階段の入口には、鍵が掛かっている事が多いので、ラッキィだった。エレベータで最上階へ。
「なんか、慣れてるね」エレベータの中で、美月が横目で睨んできた。
「実家がこんなマンションだったから」ミンチは嘘をついて誤魔化した。
エレベータから降りて、方角を確認する。北側が現場なので、そちらに向かう。廊下には外側に手摺壁があり、そこから眺める事が出来た。遠いのではっきりとは見えない。鞄から静かに双眼鏡を取り出し、覗いた。目当ての屋敷は直ぐに見つかり、侵入経路の確認も出来た。
「ねぇ、なんで持ってるの?貸して?」美月が肩を揺すってくる。それを無視して観察する。
「ねぇってば」美月が双眼鏡の前で手を振った。
双眼鏡から目を離して、そちらを見る。不機嫌そうな美月の顔があった。
「どうぞ」ミンチは美月に貸した。その間、周囲の建物をぼんやりと眺めていた。
「あんまり長居しても怪しまれるから、そろそろ車に戻ろう」ミンチは言った。彼女は頷き、双眼鏡を返した。鞄に閉まってから、エレベータに乗り、ロビィから外に出た。
現場は、平屋で庭には植物も多い。建物の間取りを、美月から聴いた。彼女は何度か屋敷を訪れたらしく、しっかりと覚えていた。わかりづらい所は、質問して、それに答えて貰い、頭に入れた。
「御堂筋は、もうあの屋敷にいるの?」ミンチはきいた。
「知らない。でも、いないと思う」美月は答える。
「綾部って人が御堂筋と会う時は、他の人が屋敷にはいないんだよね?」
「綾部さんが言うにはそう」
「だったら、囮はいらないかな。先に侵入して、その場で取り押さえたらいい」
「ふーん」
「でも、御堂筋に逮捕状が出ていないなら、その後が問題だけど」
「その後?」
「こっちは不法侵入に暴力まで振るわけだから」
「でも、向こうは人を殺しているし」
「まだ、確定したわけじゃないよ」
「殺した」
強い言葉だな、と気になり隣を見た。彼女は前を向いたまま座っている。
「その可能性は高い」ミンチは同意した。
「まだ疑ってるなら、なんで協力してくれるの?」
「僕は殴られたし、隣人はもっと殴られたし、安全に暮らすのに障害になるからかな」
「ふーん。ミンチが取り押さえたら、私が警察に通報する」
「いや、君は家で待っていて欲しい。一人で十分だから」
「はっ?無理。信用出来ない」
信号で止まり、隣を見ると彼女がこちらを睨んでいた。
「それに、これは私の問題だから」




