依頼がこない十七日目 1
肩を揺らされて、ミンチは目を覚ました。
薄暗い部屋の中、ミンチの目の前には、美月がいた。鼻の前に人差し指を立てて、見下ろしている。ミンチは直ぐに察して、頷いた。
「ごめん。いびきが五月蠅かった?」寝起きなので発音が怪しいが、ジョークを言って、目を瞑った。
今度は、強めに叩かれる。勿論、動き出す準備をしているが、寝起きの体は、自由には動かない。時間が必要で、その間を埋めるジョークだった。ゆっくりと起き上がり、周りを見渡す。ヒカリはまだ眠っている。
「外に出て」美月はそういって、立ち上がった。彼女はゆっくりと忍び足で玄関へ向かった。
ミンチも体を起こし、立ち上がる。グラスに水道水を注いで飲み干した後、おぼつかない足取りで、外に出た。
まだ、朝日は昇っていないが、東の空は少し明るくなっている。暗黒物質の親戚の、深海みたいに青い物質が世界を包んでいる。その物質は、メザシみたいにカラッとしていて、砂漠みたいに全てを浄化してくれる。
こちらを振り返り、無言で歩く美月に付いて行く。アパートの駐車場に来た。彼女は立ち止まり、振り返った。ミンチは、目を擦りながら、彼女の前で止まる。
「今日、御堂筋を捕まえる」美月は言った。
「えっ?今日?」ミンチはまだ頭が働いていない。
「御堂筋が女に会うわけだけど、その女は現場には来ない。でも、それだと怪しまれるから、囮として、一人用意して欲しい。あいつが誘き出された所を、ミンチが捕まえる。私はその傍でサポートする」
「警察は?」
「捕まえた後に連絡すればいい」
「そっか」ミンチは頭を無理やり働かせた。朝が苦手なミンチだ。
「えっと、なんで、そんな事を知ってるの?」ミンチはきいた。
「御堂筋の女は、綾部って名前なんだけど、その綾部さんと私は知り合いだから。綾部さんが御堂筋の逮捕に協力してくれるわけ」
「そっか」
「前にも言ったけど、絶対に現れるわけじゃない。十パーセントくらいかな」
「捕まえるって、押さえつけるって事だよね?」
「そう」
「囮って女性が必要なんじゃないの?」
「そう」
「その綾部って人を知らないから、背格好でバレると思うけど」
「この前いた、関西弁の女の子と同じくらい」
「Qちゃん?」
「たぶん。その人に協力して貰ったら?」
「いや、そんな危ない事には巻き込めない」
「じゃ、知り合いを用意して」
「いないよ」
「便利屋じゃないの?」
「便利屋の仕事をした事は一度もない」
「なにそれ?」
「依頼がこないんだ。で、それは、今日の何時頃?」
「夕方。六時くらい」
「わかった」
「なんとか出来そう?」
「さぁ。とりあえず、コーヒーを飲まないと」
呆れた視線で、美月は睨んできた。




