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便利屋に依頼がこない  作者: ニシロ ハチ
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依頼がこない十六日目 4


 家に帰ると、美月とヒカリが話していた。

 内容は聞き取れなかったが、それなりに真面目な話だったかもしれない。美月は少し不機嫌そうだ。ミンチはグラスに水道水を注いで、椅子に座った。対面に美月がヒカリはベッドに腰かけている。

「ねぇ、ここって安全?」美月がこちらを見ている。

「古い建物だけど、耐震に関しても、水害に関しても、安全基準を満たしている」ミンチは答える。

「そうじゃない」彼女の声はいつもより低い。機嫌が悪いのかもしれない。

「まだ、見つかっていないはずだけど」

「そうじゃなくて、隣の人が怖いって話」

「隣?」ここは201号室なので、隣は矢島しかいない。隣の建物の話をしているのか、と範囲を広げた。

「昨日、隣のベランダに無駄に移動したけど、その時に、カーテンの隙間から見えた」

「なにが?」

「人形」

「ああ。そのことか」

「知ってたの?」彼女は眉を寄せて、信じられない、と顔で表現した。

「うん。珍しい趣味だとは思うけど」

「おかしいと思う。普通じゃない」

「野球観戦とか、音楽鑑賞よりはマニアックな趣味だね」

「人形のサイズがマネキンくらいあった。あんなの見たことない。それに、制服着てたし」

「大きい方が服を買うだけで着せ替えが出来て楽なんじゃないかな。珍しいけど、悪いわけじゃない」

「ベッドで寝てたけど?」

「あー………。まぁ、そっか。そういう日もあるか。でも、趣味だし、他人が口出しする事じゃないよ」

「そんな人と、ベランダで繋がってるのが問題なの。覗かれてると思うと、安心出来ない」

「いや、でも、人形を見たならわかると思うけど、対象が違うんじゃないかな?ロックが好きだからって、全てのロックが好きなわけじゃないし」

「人形しか愛せないってこと?」

「わからない。でも、少なくとも、人形と似ている人が好きなんじゃないかな?」

「どっちにしても怖い」

「鍵はしているし、カーテンも閉めているし、実害はないよ。電車に乗る方が、怖いと思うけど」

 美月は溜息をついた。

「犯人が捕まるまでの我慢だから」ミンチは言った。「それより、捕まった後の事は、どうするつもり?」

「考えてない」美月は答える。

「住む場所も必要だし、学校にだって行かないといけないし」

「だから、考えてない」

「なんで?」

「この件が片付くまで、私の人生は始まらないから」彼女は覚悟を決めた表情だ。

「お姉ちゃん」ヒカリが言った。

「黙ってて」美月がそれを制す。

 自分の親が詐欺を働いて、その部下が殺人事件を起こした。さらに、犯人は、自分をも殺そうとしている。それも親の命令で。

 確かに、目の前の事を処理しないと、前には進めないだろう。

 でも、それでも、未来を想像した方が良い。

 自分の親が捕まる事になっても、構わないのか、それがききたいミンチだったが、言葉は口から出なかった。確かに、親がいなくなった後なんて、想像もつかないだろう。たぶん、親戚の家に住まわせて貰って、学校に通うのだろう。学校では親の事でいじめにあうかもしれない。生まれた環境のせいで、理不尽な思いをするのは、可哀そうだけど、仕方がない。

 二人といると、どうも説教っぽくなってしまうな、と自覚する。人は、自分が他人に影響を与える事を、悦と感じてしまう。自分の思考が自分の外にもある事で、安心出来るのだろう。種の存続ではなく、意思や思考の存続だ。子どもはなんでも吸収するから、影響を受けやすい。だから、つい、喋ってしまう。意識して距離をとらないと。

 この件が終われば、二人に会う事もない。その後の事は、どうとでもなるだろう。自分には関係ない。

 でも、この件だけは、きっちりと、終わらせないと。



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