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便利屋に依頼がこない  作者: ニシロ ハチ
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依頼がこない十六日目 3

「えっと、取り敢えず、状況を整理してみるか」伊藤が運転しながら言った。

「どうぞ」助手席のミンチは促した。

「殺された山内は、一人であのオフィスに侵入した。彼を迎い入れる準備は既に出来ていた事から、犯人が既に中にいたか、鍵をどこかに隠しておいて、それを山内に教えていたんだろう。犯人として有力なのは、御堂筋だ。御堂筋はあのビルに詳しく、オフィスへの二つしかない鍵の一つを持っていたわけだから。ただ、御堂筋が計画的に殺人を行ったのなら、相当頭の悪いやつだ。自分が殺したと言っているみたいな状況だからだ。だから、計画的じゃなかった可能性もある。山内と話している内に、話がこじれて殺してしまった。殺すつもりじゃなかったから、死体を処理出来なかった。御堂筋は、死体が見つかるまでの猶予を使って、隠れる事にした。それには成功して、現在も隠れ続けている」伊藤はそこで間を開けた。「一応、これで矛盾はない。ただ、お前が言うには、山内は同じ赤井のグループだが、内部を探っていた。そして、その関係で揉めて、殺される事になった。更には、御堂筋は、まだ、殺人を企んでいる」

「そうきいた」ミンチは答えた。

「そうなってくると、話が変わってくる。御堂筋は、短期決戦というか、自暴自棄というか、殺しを済ませば、あとはどうでも良いと考えている。もしかしたら、それが組織にとって必要で、御堂筋は英雄として祀られるのかもしれない。だとしたら、御堂筋の望みは、英雄視される事にある。だから、山内を殺して、潜伏した。次のターゲットは、お前が匿っている、子どもたちなんだろ?」

「そう」

「ホントに狙っているのか?」

「御堂筋の部下が、その子たちを追っているのは確かだ。俺も殴られたし、隣人はもっと殴られた。その目的は、ターゲットの居場所を吐かせる為だ」

「その子たちは、お前の家にいるんじゃないのか?」

「いる」

「だったら、もうバレているんじゃないのか?」

「いや、家がどこにあるのかは、知らないみたいだ。家までは来ていない。このエリアにいるだろうと、知ってはいるみたいだが、そこから絞り込めていない。隣人が襲われたのは、近所でその隣人と親しく話していたからだ」

「………そんな状況は、ちょっと考えられないな」伊藤は長考の末に言った。

「同じく。でも、そういう状況なんだから、吞み込むしかない」

「御堂筋に部下は、お前の顔を知っていたのか?」

「知っていた」

「……そうか」

「なにか心当たりは?」ミンチはきいた。

「はっ?無い」

「俺が子守りをしているのを、お前は知っていた。どこかで情報が流れてるんじゃないのか?」

「いや、それはない。俺が知ったのは……偶然というか…まぁ、その件には関係ない」

 ミンチは頷いた。でも、どこかには、情報が漏れているのだろう。だから、藤井や岩谷が襲ってきた。こちらの顔を知っていたし、ヒカリと美月との間に関係がある事も気付いていた。ヒカリと美月の目撃情報を探している内に、あの近辺を嗅ぎつけたのだろうか?伊藤だって知っていたのだから、漏れてはいるのだろう。

 疑問は残るが、現在の状況を受け入れるしかない。その上で対処するしかない。おかしい、理不尽だ、と抗議したって、それを聴く審判はどこにもいないのだから。

「話を戻して、その場合は、御堂筋の殺人の黒幕は、赤井になるのか」伊藤は言った。

「たぶん。赤井を裏切ったのなら、英雄にはなれないだろ?」ミンチは答える。

「それじゃ、御堂筋を捕まえても、意味がないな」

「そうなる」

 しばらく、無言のまま車は走った。ラジオも音楽もつけていないので、エンジン音だけだ。

「その二つの場合、状況が変わってくる」伊藤が言った。「うっかり殺してしまったのなら、御堂筋は逃げるだけだが、英雄になりたいのなら、殺す為に潜伏している。で、お前や隣人に被害があったって事は、後者になるんだろ?最悪だな」

「ああ」ミンチは肯定した。

「御堂筋と山内に女がいたのだから、そのもつれだと思ったんだがな」伊藤は大きく息を吐いた。

「同一人物とは限らないだろ?」

「それが殺しの理由なら限る。それに、英雄になりたいからって、十数回にわたって刺すか?」

「確実に殺したかったんじゃないか?直ぐにその場を離れる必要があったなら、何回も刺すのが、一番確実だ。一度刺してから、脈を測って、動いていたら、また刺すよりは、効率的だから」

「かもな。傷口が何カ所もあれば、最悪でも出血死だ」伊藤は答えた。

 しばらく、沈黙になった。二人きりの空間で、沈黙のままでも、気まずくなる事はないミンチだった。それは、伊藤と友人だからではなく、誰とでもそうだ。天気の話をするよりは、お互いに喋らない方が良いと考えている。車は、ミンチのアパートの周辺にきた。

「気になるのは、佐藤って警備員の反応だな」伊藤が言った。「山内を知っているかって問いに、狼狽していた。あれは、知っている反応だ」

「だろうな」ミンチも肯定する。

「佐藤と殺された山内についても、少し調べておくか」

「優先順位を知っているか?」ミンチは少し心配になった。

「こう見えて、辞書は持っている。問題ない」伊藤はこちらを見て、少し笑った。


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