依頼がこない十五日目 1
ミンチは目覚めた。
結局、昨日は美月を見つけられなかった。彼女は家に帰らず、どこかへ出かけたままだ。ニュースをチェックして、物騒なものは見つからなかったのが救いだ。ヒカリのご飯を用意する必要もあり、捜索は諦めて帰ったミンチだった。
眠っているヒカリを起こさない様に布団を畳み、コーヒーを淹れた。椅子に座ってコーヒーを飲んでいると、ドアがノックされた。玄関のドアだ。インターフォンがあるのに、ノックをされるのが不自然だ。ヒカリを起こすか迷ったが、先に足音を消して覗き穴から外を伺った。
ドアの外には美月が立っていた。ミンチは驚き、鍵を開けて彼女を招いた。彼女は静かに部屋の中に入る。衣服が汚れてはいない。でも、髪は少し乱れていた。
「どこに行ってたの?」ミンチはドアを閉めてから言った。
「先にシャワ―浴びたい」彼女は冷たい目で言った。
言いたい事は沢山あったが、それはシャワーを浴びた後でも構わない。美月がシャワーを浴びるのを、コーヒーを飲みながら待った。こうやって待つのは久しぶりだ。
浴室から出た彼女は、ラフな服を着て、ミンチの対面に座った。髪はタオルで拭いただけで、完璧には乾かさないみたいだ。ヒカリを起こさない配慮だろう。
「お腹は空いてる?」ミンチはきいた。
「ちょっと。でも、ヒカリが起きてから一緒に食べる」美月は穏やかに眠っているヒカリを横目で見た。
「どこに行ってたの?」
「色々と」
「勝手に出て行くのは、危ないと思う」
「ここにいる事を強制されているわけじゃないし」
「でも、外よりは安全だ」
「御堂筋を捕まえられるかもしれない」彼女は話を切り替えた。
「…どうやって?」叱ろうかと思ったが、そんな関係性でもない。
「あいつが現れる場所がある。そこで待ち伏せていたらいい」
「どこ?」
「まだわからない」
「どういうこと?」
「複雑ってこと」
「どうやってそれを知ったの?」
「調べた。自分の足で」
「もし、現れる場所が決まっているなら、警察に張って貰えばいい。捜査状況はわからないけど、御堂筋を怪しんでいるなら、それくらいの人員を配備するはずだから」
「警察なんて駄目。信用できない」
「それじゃ、どうするの?」
「私たちで捕まえる」
「私たちって?」
「私とミンチ」
「どうしてそんな危険な目にあう必要があるの?」
「それが一番確実だから」
「そうは思えない」
「それに、確実に現れるかどうかはわからない。十パーセントくらいだから」
「もっと詳しく教えてくれないと、賛同するわけにはいかない」
「でも、これ以上は言えない。今は言えないわけじゃなく、わからない」
「だったらどうする事も出来ない」
「御堂筋を無力にする方法を考えといて。縛ったり押さえつけたりする方法」
「場所もわからないし、何人で来るかもわからないから、何も考えられない」
「それでも、考えといて。この事は、ヒカリには内緒」彼女はヒカリを見た。
ヒカリは規則正しい寝息をたてている。
「断ったら?」ミンチはきいた。
「ここを出て行く。もっと頼りになる人がいるだろうし」
それでも構わない、と言いかけて、何とか堪えた。
「わかった。出来る限り協力する。だから、勝手には出て行かないで欲しい」
「うん。協力するならそうする。一つだけわかっているのは、御堂筋には女がいる。そいつに会う為に現れるかもしれないってこと」




