依頼がこない十四日目 3
ミンチはレンタカーを借りた。
行き先は、二つしか思い浮かばない。一つは、山内が殺された殺人現場。もう一つは、水道管の工事に訪れた屋敷だ。赤井グループの手掛かりになる場所は、そこしか知らない。信号で停まったタイミングで、伊藤に電話を掛けた。ただ、しばらく掛けっぱなしにしていたが、彼は出なかった。
距離の問題で、殺人現場から見る事にした。ここに来た事は無い。それなりに車通りがある道沿いの古いビルの一室が殺人現場だ。今は、近くに車を寄せて眺めていたが、特に変わった所は無い。警察と思われる人も、見えなかった。事件の発覚が四日前だから、現場の捜査は既に終えたのだろう。
ミンチは車から降りて、傘を持たずに小走りで現場となったビルの中に入った。複数の会社がこのビルを使っているようで、一階のロビィには、会社名が書かれた案内板みたいなものが設置されている。七階建ての建物で、ロビィにはエレベータとその横に階段がある。現場となったのは、二階の一室だ。二階には、他の企業も存在している。
階段で二階に上った。簡素な廊下があり、ドアがいくつか見える。古いタイプの円柱形の蛍光灯が廊下を照らしている。現場となったのは、右に曲がって突き当たりの部屋だ。
反対側の奥からスーツを着た人が出てきた。別の会社の人のようだ。一瞬だけこちらを見ただけで、階段を下りて行った。現場となった部屋を、ドアのガラス越しに中を覗いたが、平均的なオフィスが見えるだけで、誰もいなかった。室内は電気が消えている為、薄暗く、道に面した窓ガラスから、どんよりとした光が入っているだけだった。ドアの横には、社員証を確認するのであろう、機械が設置されている。さっき出てきたスーツの男も、首から社員証をぶら下げていた。さっき、すれ違った男が出てきたドアを右に曲がり、その突き当たりには、非常階段へと繋がるドアがある。確認すると、重そうな扉が施錠されていた。こちら側から鍵を開けて簡単に出入り出来るようだ。ホテルなどでよく見る、緊急時にしか使えないような、ガラスか樹脂で出来たドアノブや鍵をロックする機構はついていない。
ミンチは戻る事にした。建物に入ってから、この現場に来るまでに、カメラの類は一つもなかった。犯人や被害者は、自由に出入り出来ただろう。エレベータにはカメラが備え付けられているだろうが、二階なら階段を使う人が多いはずだ。
ただ、現場は、あのどんよりとした部屋の中なので、そこに入るには社員証か鍵が必要になるだろう。身内の犯行の可能性は高い。社員証を使ったなら、その記録が残るだろうから、犯行時刻や犯人を絞れるだろう。
ビルの入口には、ガラスのドアがある。今は鍵が掛かっていないが、深夜や早朝は、出入り出来ないだろう。ビルの反対側に回ると、非常階段があった。各階に入るには、ドアがあるので、鍵が閉まっていれば、当然出入り出来ない。
ミンチは車に乗り込み、もう一カ所に向かった。
しばらく車を走らせて、高級住宅街に入る。そして、何度目かの屋敷の門を見た。屋敷を一周して、門の近くに車を停めた。
わかっていたが、美月が見つかるはずもない。城向に連絡するか迷った。彼ならなにか知っているかもしれない。ただ、預かっていた人がいなくなり、危険に晒されているとなると、信用に関わる。一応、彼からの仕事は全て、問題なくこなしてきた。その実績があるから、新しい仕事を貰っている。面倒な依頼が多いが、金額が良い。それが城向の依頼の特徴だ。
行く当てもないので、しばらく車を停めていたら、門を開けて入る人がいた。傘をさしていたので顔は良く見えなかったが、中学生くらいだった。ただ、美月より少し小柄で、歩き方が違った。赤井グループの幹部の男とその妻が住んでいるはずだが、娘がいるのだろうか。
数分後に、門が開いて、黒の高級車が出てきた。身構えたが、車は反対方向に進んでいった。後部座席はスモークガラスだったので、運転手以外に人が乗っているのかは、わからない。
ミンチは、一瞬だけ迷った。このままここにいても、収穫は望めないだろう。
そして、直ぐに決断した。




