依頼がこない十四日目 2
ミンチは少しの間、外に出ていた。ちょっとした用事の為だ。
昨日から雨は降り続いている。ミンチは尾行に警戒しながら、家に帰った。
玄関の鍵を回して入ろうとすると、鍵が閉まっていた。鍵の習慣がなかったので、間違えたのだろうと気にせず、鍵を反対に回してドアを開けた。今度は、開く。玄関には、自分の靴以外は置いていない。誰かが来る度に、靴を隠すのが面倒だから、彼女たちの靴はビニル袋に入れて、ベランダに置いてある。
奥の部屋に入ると、直ぐに異変に気付いた。
「あれっ?美月は?」ミンチはヒカリにきいた。
ヒカリは一人で人形遊びをしている。彼女の持ち物で、着せ替えが出来るタイプの人形を、二体両手で持っていた。ヒカリは人形遊びに夢中なのか、こっちを見ない。ミンチは、トイレと浴室を確認したが、どちらにもいなかった。
「美月はどこ?」ミンチは、少し大きな声を出した。
ヒカリはゆっくりとこっちを見上げた。
「おかえりなさい」ヒカリは言った。
「美月はどこに行ったか知ってる?」ミンチはきいた。
「わかんない」彼女は首を左右に振った。
ミンチは奥の窓のカーテンを僅かに開けて、ベランダの靴を確認した。そこには、ヒカリの靴しかない。
「どこかに出かけたの?」ミンチはきいた。
「そうみたい」ヒカリは答える。
「何か言ってた?」
彼女は首を左右に振った。
ミンチは溜息が出た。今朝の話を思い出す。もしかしたら、御堂筋を見つける為に、一人で出て行ったのではないだろうか?
「お腹はまだ空いてない?」ミンチはきいた。
「大丈夫」
「ここで待ってて、誰かが来ても、絶対に鍵を開けないで。あと、もし、無理やり入って来る人がいたら、昨日、練習した様に隣のベランダに移動して」
「うん」
「ちょっと、出掛けてくる」
「うん」
「どれくらい前に出て行った?」
「ミンチが出て行ってすぐ」
「そっか」
ミンチはグラスに水道水を注いで、それを一気に飲み干した。雨が降っている。この家に傘は一つしかない。その唯一の傘は、自分が持って出ていったので、彼女は濡れる事になる。でも、そんな事よりも、もっと心配すべき事はある。
彼女は、御堂筋やその仲間について、ある程度の知識を持っている。だから、普段、彼らがいる場所を知っているのかもしれない。頼りない便利屋を見限って、そこに一人で乗り込んだ可能性だってある。もし、そうだったら、かなり危険な状態だ。
「それじゃ、待ってて」ミンチはヒカリに言った。
「ねぇ」ヒカリが呼び止めた。
「なに?」ミンチは振り返ってきいた。
「お姉ちゃんを止めて」ヒカリは、真剣な眼差しで言った。
「うん。見つけて帰って来るから」ミンチは玄関に移動して、少し湿っている靴を履いた。靴下も湿ったままだから、不快感は無い。
「お願い」ヒカリの声がきこえた。
ミンチは外に出て、鍵を閉めた。
姉が心配なのだろう。もしかしたら、美月が暴走している事に気付いているのだろうか。いつもと様子が違うくらいは、敏感に感じ取るだろう。あれくらいの年齢の方が、周りの人の機嫌に敏感だったりする。母親が怒っている事を、ちゃんと察知している。悲しいけれど、それが生きる為に必要な技術だからだ。
ミンチは傘をさして走りだした。




