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便利屋に依頼がこない  作者: ニシロ ハチ
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依頼がこない十三日目 2


 ミンチは傘をさしたまま自宅まで歩いていると、ハザードをたいて停まっていたワゴンから、男が降りてきた。金髪に瞳が見えないサングラスをかけている。顔の向きからして、こちらを向いている事がわかった。

「話がある。車に乗れ」男は言った。

「僕はありません」ミンチは男とワゴンを避けて、歩き続けた。

「待て。ゴラァ」男はミンチの進行方向に立ちふさがった。

「なんですか?」ミンチは立ち止まる。

「車に乗れ。調子に乗るな」男の眉間が寄っている。

「チョーシって乗り物は、危険なんですか?」

「はぁ?」

「あなたが誰かもわからないのに、車に乗のわけないでしょ」

「美月って女を知ってるだろ」

「いえ。知りません」

「嘘つけ」

「話はそれだけですか?」

 男がいきなり殴りかかってきた。傘を盾に一発目は防いだが、二発目は体を掴まれて、そのまま殴られた。そして、強引にワゴンの中に乗せられた。

 大勢が乗っていると予想していたが、意外にもさっきの金髪の男と、運転手の二人だけのようだ。運転手の男は黒髪の短髪だった。体の大きさと筋肉量は、運転手の方が上だ。

「正直に質問に答えろ。美月はどこにいる?」隣に座った金髪の男が言った。力で車に押し込めた事実からか、先ほどより自信に満ちている。立場が上だと勘違いしているのだろう。

「誰ですか?どんな人なのか知らないので、答えようがありません」ミンチは言った。

「また、殴られたいか?」

「写真かなにかありませんか?それを見れば、答えられるかもしれません」

「なめてんじゃねーぞ」金髪の男は胸ぐらを掴んできた。

「おい。見せてやれ」運転席に座っている短髪の男が低い声で言った。

 金髪の男は舌打ちの後、プリントされた写真を鞄から取り出した。ミンチはそれを受け取り、観察する。

 そこには美月が写っていた。今よりは、少しだけ若い。一年か二年前に、旅館かどこかで、撮られたものだった。写っているのは彼女一人だが、撮影した誰かがそこにいるのは、確からしい。彼女には珍しく、笑顔で写っていた。

「知らない人ですね。この人がどうかしたんですか?」ミンチは写真を返した。

「知らねーはずはねーだろ」金髪の男が、顔を近づけてきた。

「それくらいあり得ると思いますけど。有名な人ですか?」

 金髪の男は、顔を殴ってきた。ミンチはドアにぶつかる。

「殴ったら思い出すか?」金髪の男は言った。

「そうだったら、今頃、大金持ちになってた」

「はぁ?」

 意味は通じなかったみたいだ。

「人間ってのは不思議で、殴ってたら思い出すやつがいるんだ。ただ、賢いやつなら、殴られる前に喋るがな」金髪の男は笑みを浮かべながら言う。

「試してみたらいい。この程度の怪我なら黙っているが、これ以上殴られたら、警察に頼る事になる。そう出来ない様に、徹底的にする事をお勧めする。賢いやつなら、言わなくてもわかっていると思うけど」ミンチはわざと笑顔をつくってやった。

「そうしてやるよ」金髪の男は血管が浮き出る程、顔に力を込めている。

「待て」短髪の男は言った。「そいつはなにも知らないみたいだ」

「いや。…でも」金髪の男は短髪を見て言った。

「悪かったな。兄ちゃん。人違いだった」短髪の男は、初めて振り返って言った。目が鋭く、目の横に刃物の傷の痕が残っていた。

「だったら、僕の他にいる、思い出すまで殴られる人が可哀そうだ」ミンチは答えた。

 短髪の男は目を逸らさない。年齢は短髪の方が上だろう。三十代後半くらいか。金髪は二十代だ。

「では、帰ります」ミンチは車から降りた。開いたまま地面に落とした傘に、僅かに雨水が溜まっている。雨に濡れながら、それを先に捨てて、傘をさして歩き出す。

 ワゴンのナンバは金髪の男が出てきた時に覚えているが、役に立つだろうか?いつもと違う道を歩く為に、次の曲がり角で左に曲がった。

 たぶん、つけられるだろう。ミンチは溜息をついた。

 わかった事はいくつかある。

 美月を探しているやつらがいる。そして、そいつらは、美月と自分に関係がある事に気付いている。短髪の男が写真を見せるように言ったのは、美月が偽名を使っている可能性を考えたからだろう。つまり、美月が、自分に対して美月と名乗っていない場合だ。だから、写真を見せる事を許可した。

 そして、美月を探しているやつらは、美月の居場所はわかっていない。つまり、このまま帰った先に美月がいる事を知らない。なのに、自分が美月と関わっている事を知っている。

 これは一体、どういう事だろうか?

 どうなれば、そんな状況になるのか?

 あとは、このまま家に帰るか、ホテルに向かうか。ホテルに向かえば、あいつらは、自分を黒だと断定するだろう。かといって、素直に家に帰るわけにもいかない。

 面倒な事になってきた。

 ただ、向こうも焦っているみたいだ。金髪の男は、どこか余裕がなかった。なんとしても、美月の居場所を見つけなければならない、といった感じだった。

 二発も貰ったが、得られたものもある。

 仕事の割に合わないけれど。


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