依頼がこない十二日目 1
ミンチが目を覚まし、静かに布団を畳んでいると、美月も起きた。彼女は腕を伸ばして携帯端末を探し、横になったままそれを見ている。
「コーヒーいる?」ミンチは眠っているヒカリに気を使って小声できいた。
「うん」端末から目を離さずに美月は答える。
テーブルと椅子を移動させてから、二人分のコーヒーを淹れた。テーブルにカップを置くと、彼女は静かに起きて、椅子に座った。向かい合ってコーヒーを飲む。彼女はまだ眠そうだ。
「御堂筋って男を知ってる?」ミンチは小声できいた。
一瞬、美月は目を見開き、明らかに驚いた表情をした。彼女はコーヒーを飲んで、カップをテーブルに置いた。表情はいつものポーカフェイスに戻っていた。
「なんで?」彼女はきいた。
「その男の話をきいたから」ミンチはわざと探りを入れる。彼女の反応に引っ掛かるものがあったからだ。
「なにをどこまで知ってるの?」彼女は睨む様に見てきた。
「そいつが、君を追っているらしい」
「それだけ?」彼女は注意深く観察してくる。
「ニュースになっていた殺人事件の犯人も、そいつらしい。そんな危険な男が、君を探している」彼女の防御が硬そうなので、あっさりと白状する事にした。
「知ってたんだ」彼女は言った。
「君も知ってるの?」ミンチは少し驚いた。
「うん」
「なんで?」
「御堂筋とは、昔から会った事がある。危ないやつで、殺人を犯しても不思議じゃない。四日前の殺人現場になったのは、御堂筋の仕事場だったから、あいつだろうと思った」
「四日前?」
「えっ?なにが?」
「いや、なんでもない」ミンチはニュースの記事を思い出した。ニュースが報道され、ネットで記事になったのは、一昨日からだ。でも、被害者が見つかったのが、一昨日というだけで、殺されたのはそれ以前だとされていた。死亡推定時刻は、四日前とかそれくらいらしい。彼女もこの事件について、熱心に調べているようだ。
「その犯人が君を追っている理由は知ってる?」
「私を捕まえる為?」彼女は首を傾げた。
「殺す為らしい」
彼女は目を細めた。睨まれているのかと思ったら、背後のもっと遠くにピントがあっているようだ。
「そうなんだ。それじゃ、そいつが捕まるまで、安心して外も出歩けない」彼女は言った。
「そうなるね」
「私たちで見つけて捕まえない?」
「はっ?」
「そしたら、怯えて生きてく必要もなくなるわけだし」
「君が殺されるかもしれないのに?」
「ここがシェルタの中ってわけでもないんだし、危険な目に合う確率は、そんなに変わらないと思うけど」
「人を殺して逃亡中の犯人に命を狙われているのに、積極的というか、命知らずというか、馬鹿なの?」
「私、こういう時に、ジッとしてられない性格だから」
「日本の警察は優秀だから、直ぐに見つかるよ」
「うん。でも、私たちから、なにか出来ないかな?」
「無理だと思うけど」
「囮捜査とか」
「その場合の囮は君になるけど」
「私、大丈夫」
「いいわけがない」
彼女は明らかに不満気な表情を浮かべた。
「どうしてそんなに捕まえたいの?」ミンチはきいた。
「人を殺したんでしょ?許せないから」
「殺された山内って人は知っている?」
「知らない。下っ端じゃないの?」彼女は興味なさそうに答えた。




