依頼がこない十一日目 3
ミンチがアパートに到着すると、アパートの駐車場に矢島とナナ氏とQちゃんの姿があった。三人は和気あいあいと話している様に見える。
「あっ。ミンチさんっす」ナナ氏がこっちを見て、右手を大きく振った。ミンチは頷いて、階段を上ろうとしたら、ナナ氏に止められた。
「それは冷たいっすよ」ナナ氏は言った。
「荷物を置くだけだから」ミンチは答える。ホントは戻ってくる気など、微塵もなかった。
「それじゃ、ミンチさんの部屋でお茶会をしましょう」
「戻ってくるから」ミンチは直ぐに言った。ミンチは階段を上り、鍵を開けて部屋に入る。ヒカリも美月もそこにいた。ヒカリはチラシの裏にペンでお絵かきをしていた。
「おかえりなさい」ヒカリが言った。
「うん。ご飯は、ちょっと待ってて」ミンチは荷物だけ置いて、外に出た。階段を下りて、三人の元に行った。
「知り合いだったの?」ミンチはきいた。
「僕はちょっと前からっす」ナナ氏は答えた。
「私は初めまして」Qちゃんが続けた。
「ミンチさんのとこに行こうとしたら、いなかったんすもん。そしたら、矢島さんが偶然出て来たんっす」ナナ氏がこっちを見て言った。
ミンチはQちゃんを睨んだ。Qちゃんは、舌をだした。
「でも、おもろい人やね」Qちゃんは矢島を見て言った。
「戦国時代からタイムスリップして来たみたいじゃないっすか?」ナナ氏が答える。
「アホちゃうか?ちょんまげってもっと髪の長さが必要なんよ」
「でも、武士みたいな喋り方っすよ」
「いつからそんな喋り方なん?」Qちゃんは矢島を見た。
「某は昔の事を覚えておらんでござるよ」矢島は上機嫌に答える。
「それって武士道っすか?」ナナ氏がきいた。
「アホ。物忘れのどこが武士道やねん」Qちゃんがつっこむ。
「ちょっと、用があるから、もう帰る」ミンチは言った。
「あっ、じゃ、ついてくっす」ナナ氏が直ぐに反応した。
「話してたらいいよ」
「元々、ミンチさんに用があったんすから」
「なに?ここできくよ」
「親戚の子守りをしてるんっすよね。手伝おうかなって思ったんす」
「大丈夫」
「歳も離れてるんすから、大変なんじゃないんすか?」
「大丈夫」
「ミンチさんは大丈夫でも、年頃の女の子の方は違うかもしれないっすから」
「某は悲鳴などは聞いてはござらん」矢島が会話に入ってきた。
「もうすぐ、晩御飯なんじゃないっすか?僕、おなかペコペコっす」ナナ氏はお腹を押さえて困った顔を作る。
「わかった。でも、ご飯を食べたらすぐに出て行って」ミンチは溜息の後に言った。
「やった。丁度、給料日までが遠いと思ってたんっす」ナナ氏は満面の笑みで言った。
ミンチは階段を上る。ナナ氏とQちゃんに続いて矢島も上ってきた。
矢島には言いたい事が沢山あった。まず、隣人というだけで、友人と仲良くなるのが、気に入らなかった。友達の友達は他人で、会話を一切しないミンチだ。
自分の友人が自分以外と仲良くしているのが気に入らないのではなく、自分との関係を利用して近づいたのが、気に入らないのだろうと、自己分析した。あと、ナナ氏やQちゃんが来た時に、偶然外に出てきたのではないだろう。悲鳴を聞いていないと、わざわざ話に入って来たのも、癇に障る。プライバシィが侵されているのが問題だ。隣人としての適切な関係性は、諦めるしかないだろう。
ミンチは玄関のドアを開けて、二人を招いた。ナナ氏やQちゃんに続いて、当然の様に入ろうとした矢島に「それでは」と言ってドアを閉めた。
「バイバーイ」ナナ氏がドア越しに挨拶をしていた。
ミンチは先に部屋の奥に入り、友人が来た事を二人に話した。四人はそれぞれ、挨拶を交わした。
「美月ちゃんって、中学生?」Qちゃんがきいた。
「高一」美月が答えた。
「ひぇー。女子高生とこんな狭い部屋で一緒なんて、犯罪ですよ」Qちゃんが睨んできた。
「親戚の子だから」ミンチは答える。
「なんか触られたりしてない?」Qちゃんは美月に言った。
「一緒のベッドで寝た事がある」美月は、いたずらっぽく笑った。
「おい」ミンチは言う。
「それはアカンですよ。ミンチさん。一線を越えてます」Qちゃんは言った。
「勝手に入ってきてただけで」ミンチは言い訳を言った。
「お世話になったからった、体を安売りする事はないんやで」Qちゃんは、美月に言った。
「なんもしてないって」ミンチは溜息をついた。




