依頼がこない十一日目 2
城向から電話があった。
「はい」ミンチは電話に出る。
「マズい事になった」城向の低い声が聞こえる。
「どうしました?」
「今は一人か?」
「はい」
「娘たちは?」
「僕の家です」
「今すぐに戻れ」
「どうしたんですか?」
「昨日のニュースを見てないのか?」
「ニュース?いえ。テレビがないので」
携帯端末越しに、城向の溜息が聞こえた。
「殺人事件が起こった」城向は言った。「殺されたのは、山内隆。赤井の幹部の一人だ。殺した犯人の行方はまだわかっていないが、恐らく、同じグループ内の人間だ。内部抗争か権力争いか、そんなところだ。問題はここからだ。殺した犯人とその周りのやつが、今度は赤井の娘の暗殺を計画している」
「暗殺?おだやかじゃないですね」
「そんな呑気な事を言っている場合か。お前には、娘たちを守って貰いたい」
「警察に頼ればいいですか?」
「相手にして貰えないだろう。殺人予告が出ているわけでもない。それに、警察の警備付いたとしても、その警備の男は暗殺を信じていない、馬鹿な仕事を押し付けられたと思っている男だ。役に立たん。それどころか、もし、親元に返されては、やつらのやりたい放題だ。死体も残らないだろう」
「どうして暗殺なんかするのですか?」
「知るか。邪魔になったのから消すんだろう」
「それは、彼女たちの親も知っているのですか?」
「基本的に、幹部は赤井の指示に従順だ。つまり、そういう事だろう」
「暗殺の指示を出したのが、彼女たちの父親だと」
「ああ」
「あなたは、どうやってそれを知ったのですか?」
「殺された山内とちょっとした繋がりがあった。やつに頼んで内部を探って貰っていたんだが、ヘマをしたらしい。それで殺された」
それは権力争いとは関係ないのではないだろうか?裏切りがバレたから、殺された。つまり、城向にも責任があると考えられる。その責任を遠ざける為に、権力争いや内部抗争と言った言葉を使ったのだろう。それくらいの自衛は、誰だってする。彼は、責任がある事を無意識化で認識しているからこそ、自分から遠ざける言葉を選んだのだろう。
「赤井の幹部や組織全体が動いたわけじゃないんですね?」ミンチは確認した。
「そうだ。あくまで、過激派の一つのグループだ」
「人数は?」
「多くて五人。ただ、実行犯は一人だろう」
「彼女らが僕の元にいる事はバレていますか?」
「今の所はバレていないはずだ。ただ、時間の問題かもしれん」
ミンチは、昨日つけられていた事を思い出す。
「それはいつまで続きますか?」ミンチはきいた。
「そいつが警察に捕まれば、取り敢えずは安全になる。やつらは詐欺やら宗教で金を巻き上げているが、暗殺者集団ってわけじゃない。赤井の命令でも、殺人は躊躇するだろう」
「その犯人の名前はわかりますか?」
「御堂筋力也。若い時に、ちょっとした不良グループの頭をやっていたらしい。頭のネジが外れているから、気を付けろ」
「何にですか?」
城向の乾いた笑い声が聞こえて、電話が切れた。
暗殺。馴染みのない言葉だ。あの二人を殺そうとしている。それは、止めないといけないだろう。ミンチは溜息をついた。
初めは、ちょっとした美術品を預かるだけだと思っていた。それが、二人の少女を預かる事になり、その二人を暗殺から守らなきゃいけなくなった。割に合わない。
でも、選択肢はなさそうだ。




