依頼がこない十日目 2
買い物帰りに気配を感じて振り返ると、Qちゃんがいた。
「やっぱりミンチさんやん。今から家に行こうと思ってたんですよ」Qちゃんは笑顔で駆け寄って来た。
「今から?」
「なんかマズいですか?」横に並んだQちゃんは、顔を覗いてきた。
「いや」ミンチは言葉を濁した。もう夕方である。
「大学は終わり?」ミンチはきいた。
「終わりです」
「ナナ氏は?」
「部活やと思います」
「部活?なんの?」
「演劇部か茶道部か弓道部かのどれかです」
「そんなにやってたんだ」ミンチは意外だった。
「どれかは辞めたかもしれませんけど。あの子、いっぱい勧誘されて、断らんかったから」
「Qちゃんは部活をやってないの?」
「うちはギターサークルに所属してますけど、飲み会にしか参加しません。他の大学と一緒に飲む時に、女の子はタダで飲み食い出来るんですよ」
「へぇ」
「あと、演劇部にも一応所属してますが、新歓の飲み会以外に顔を出してないです」
「飲み会が好きなの?」
「そんな事もないですけど。ただ、ちやほやされるのは、悪い気はしないですね。それよりも、タダなんが良いです。うち麻雀が出来るんで、先輩に呼ばれて麻雀した時も、ご飯出てきますし。それに、うち、結構麻雀が得意なんです。だから、それで儲けてしまって、バイトなんか必要ないんです。先輩も負けるとわかってても、女の子がいた方が楽しいから、呼んでくれますし。まさに、鴨がネギをしょってきたって感じです」
「麻雀が出来るんだ。僕も出来るよ。最近はあんまりやってないけど」
「ホンマですか?ナナ氏も出来るんで、あと一人いたら、面子が揃いますね」
「うん。ただ、麻雀牌がないから、持っている人を探さないといけないけど」
「絶対やりましょうよ。うち楽しみです」Qは楽しそうに言った。
「もしかして、勝つ気でいる?」
「はい」Qちゃんは、蛙の子どもはオタマジャクシか、という問いに答えるかのように、返事をした。
ミンチは突然、振り返る。後方五十メートル程の所に、男がいる。さっきも、いたので同じ方向なのだろうか?それとも…。
ミンチはポケットの中で、携帯端末のタイマをセットした。画面を見ないでも操作出来る様に、準備をして、練習もしていたから簡単だった。十秒後にタイマが鳴った。それは、着信音と同じ音に設定してある。
「ちょっとごめん」ミンチはそう言って、Qちゃんから離れた。そして、小声で会話をしている振りをする。少ししてから、電話を切る振りをした。Qちゃんを見ると、携帯端末をいじっていた。
「ごめん。この後、用事が出来た」ミンチは追いついて言った。
「…そうですか。それは残念です」
「うん。あと、ちょっと、しばらく、家を留守にする事が多くなるから、今までみたいに突然来られても、会えない可能性がある。だから、来る前に連絡して貰えると助かる」
「わかりました」返事だけして、Qちゃんは一緒に付いてくる。
しばらく沈黙のまま、並んで歩いた。こちらとしては別れの挨拶をしたつもりだったのだが。
「あの、ミンチさん。なんか、隠し事してませんか?」Qちゃんは心配そうな顔をしてきいてきた。
「隠し事なら、幾つもあるけど」
「最近、女の子の誘拐っていう怖い事件も聞きますし」
「えっ?」ミンチは思わず声に出た。Qちゃんは、それを見逃さずに、ジッと睨んでくる。
「なにか、見た?」ミンチはきいた。
Qちゃんは、コクリと頷いた。
トイレに行ってから、Qちゃんの顔は曇っている様に見えた。もしかして、ヒカリを見たのだろうか?
「なにを?」ミンチは一応、探りを入れる。ここで墓穴を掘るわけにはいかないからだ。
「女の子」Qちゃん言った。
「うん。実は、親戚の子なんだ」ミンチは言った。
「親戚の子を浴室に隠すんですか?」
「かくれんぼをしている最中に、二人が来た。それで、二人の相手をしてたら、うっかり忘れていて」
「靴も鞄も一緒に浴室にありました。かくれんぼするのに、靴まで隠す必要ないはずです」
Qちゃんは、ガサツっぽく見えるが、頭は良く細かい所まで見ていたりする。
「……。うん。ごめん。それは嘘だ」ミンチは溜息をついた。「ちょっと、訳ありの子なんだ。あの子がうちにいる事を、誰かにバレたら、あの子が困る事になる。だから、二人には隠していた。二人を信用していないわけじゃなくて、巻き込みたくなかったからだ。これは、信じて欲しいんだけど、僕が誘拐したわけじゃない。それなら、二人が来た時に、居留守を使っている」
「ホンマですか?」
「うん。これはホント」
「今もその子は家にいますか?」
「いるよ」
「会ってもいいですか?」
「今日は、ちょっと良くない。仕事があるから。また、今度なら、いつでも」
「わかりました。もしかして、その子って、便利屋の仕事関係ですか?」
「似た様なものかも」
Qちゃんとは、曲がり角で別れた。
少ししてから、振り返ると、男は五十メートル程後ろについて来ていた。つけられているのは自分だと、確信したミンチだった。




