依頼がこない九日目 1
ミンチは、いつものベッドで目を覚ました
隣にヒカリがいるが、それにも慣れた。でも、この日は、もう一人いた。ヒカリの奥で規則正しい寝息をたてている。見たことの無い少女だ。中学生か高校生くらいの年頃。ベッドから下りて、周りを確認する。ヒカリの荷物の傍に、見慣れない鞄があった。玄関を見ると、知らないスニーカがある。
知らない人だが、一人だけ心当たりがあった。でも、眠っている内に入り込むのは、礼儀知らずだろう。起こそうか迷ったが、コーヒーを一人分淹れて、椅子に座って飲んでいた。鍵は開けたままだ。防犯の為に閉めた方がいいかもしれないと、ミンチは僅かに思った。
コーヒーを飲んでいると、年上の方が起きてきた。まだ眠いのか、薄い目を擦りながら、こっちを見ている。ミンチは、彼女から目を離さない。
「どうも」少女は言った。
「どうも」ミンチはカップを置いた。
「私もコーヒーが欲しい」彼女は言った。
「その前に言う事があると思うけど」
「えっと、例えば?」
「名前とか、どうしてここに来たのかとか」
「うん。そう。美月。この子が私の妹。ここに来たら住む所と食べ物に困らないらしいから来た」彼女は眠っているヒカリの頭を優しく撫でた。
「挨拶も無しに?」
「どうもってさっき言ったけど」
「勝手に入って、勝手にベッドに侵入するかな?」
「あまり迷惑を掛けたくない」
「そう。学校は?」
「今は行ってない」
「義務教育じゃないの?」
「高校生」
「でも、学校には行った方がいい」
「私の問題。お前には関係ない」彼女は鋭い眼差しで睨んだ。
ヒカリが目を覚ました。
「おはよう。お姉ちゃん」ヒカリは姉を見つけて、抱き着いた。
「おはよう」美月はヒカリの背中を擦る。
「おはようございます」ヒカリはこっちを見た。
「おはよう」ミンチは挨拶をする。
ミンチは立ち上がって、コーヒーと牛乳の準備をした。先に牛乳をテーブルに置いて、コーヒーも淹れてからテーブルに置いた。二人は並んで椅子に座っている。対面にミンチが座る。
「三人で住むには狭いと思う」ミンチは言った。「どこか行く当てはある?」
「ない」美月は答える。彼女はブラックでも問題ないようだ。
「お金は持ってる?」
「残り少ない」
「近くのホテルの一室を借りるから、そこでしばらく二人で生活したらいい。朝と夜はホテルで食べられるし、昼食代もある程度は出せる」
「私たちがいたら迷惑?」
「僕はそれほどでもない。でも、ベッドも一つしかないから、ここで三人が生活するわけにはいかない」
「私は気にしないけど」美月が言った。
「私も」ヒカリも同意した。
「僕も気にはしない。でも、人から見たら犯罪に見えるから、少し困る」
「でも、高校生と子どもが、平日からずっとホテルで生活してたら、怪しまれるんじゃない?それで警察に連絡されたら、困るんだけど」
「ああ。そっか」
「そのお金があるんなら、布団とマットを買って床に敷いたら?」
ミンチは何も言わずにコーヒーを飲んだ。
ヒカリが一人でシャワーを浴びている時に、(彼女は明るい時間帯にしかお風呂に入らない)美月と話す事にした。
「親元を離れた理由は?」ミンチはきいた。
「言いたくない」美月は答える。
「ここに住むなら、ある程度の事情を知っておきたいけど」ミンチは譲らない。
「あんなクソ親の所にいたら、虫唾が走るから」美月は眉を寄せた。
「でも、ずっと逃げ続けるわけにはいかない」
「うん。だから、終わらせる」
「なにを?」
「あいつらの悪事を」
「どうやって?」
「それを探してる。おじさんって何している人?」
「おじさんって歳じゃない」
「二十代じゃないの?」
「二十代だよ」
「おじさんじゃん」
「ミンチって名前。便利屋をやってる」
「ミンチ?便利屋?」彼女は首を傾げる。「便利屋ってどんな仕事?」
「依頼された事なら、なんでもするつもり」
「それじゃ、手伝ってよ」
「それは無理かな」
「なんで?」
「未成年からの依頼は、全て断るつもりだから」




