依頼がこない八日目 2
ドアを開けたら城向が立っていた。
暑くなってきたのに、背広を着ている。ミンチは覗き穴から確認した時から、身構えていた。
「どうしました?」ミンチは城向を見た。
「上がっていいか?」城向は低い声で言った。
「どうぞ」
ヒカリをベッドに追いやって、そこに城向を座らせた。
「何か飲みますか?コーヒーかコーラかエナジィドリンクかミネラルウォータか牛乳があります」ミンチは座らずに言った。
「構わない。すぐに出て行く」
「そうですか」ミンチは城向の向かい側に座った。「それで、どうしてうちまで?」
「依頼についてだ」
「電話を何度も掛けましたが」
「ちょっと忙しくてな」
「要件は?」
「その子の事は、何か聞いてるか?」城向は横目でヒカリを見た。
「いえ。わからない事が多いみたいです」
「しばらく預かって欲しい」
「僕以外にも適任はいると思いますが」
「いたら、そっちに頼んでいる」
「どういった子なんですか?」
「親が訳ありでな。それで、親元に居られなくなった。ただ、行く当てもないんでうちで預かる事になったが、子どもがうろつくには、物騒な場所だ。それで、依頼したわけだ」
「美術品か宝石だと思っていました」
「そうは言っていない。勘違いしたのはお前だ」
「訳ありというのは、具体的には何ですか?」
「ガキの前でする話じゃない」
「警察から逃げているらしいですが」
「それは、警察に捕まったら、親元に返される。それを嫌って逃げているんだろう」
「彼女の苗字は赤井らしいです。あの赤井と関係ありますか?」
「………ある」沈黙の後、城向は頷いた。
なるほど。
あの赤井の子どもか。
「匿うのは構いません。ただ、いつまでも続けるわけにはいかない。彼女にも真っ当な生活を送る権利があるはずです」
「そうだ。だが、今は返すわけにはいかない」
「具体手にいつまでですか?」
「いつまでなら面倒がみれる?」城向は睨む様に見てきた。
沈黙。
「僕にも仕事がある。付きっ切りで見ていられるわけじゃありません」
「いつまで?」
「僕の後任はいるんですか?」
「今はいない」城向は溜息をついた。「なるべく早くケリをつける」
「なんのですか?」
城向は黙ったまま、片目だけ大きく開いた。
「もう、時間が無い」彼は立ち上がった。「電話には出られない。メッセージを送ってくれ」
彼はヒカリを一度だけ見て、そして、そのまま出て行った。
二人だけになった部屋を沈黙が優しく包んだ。
「私がここにいたら迷惑?」ヒカリがこっちを見た。どこか悲しそうな表情だ。
「そんな事はないよ」ミンチは精一杯笑顔を作ってやった。
子どもは嫌いなミンチだ。それに一人でいるのが好きなので、迷惑でないはずがない。ただ、そんな事を、子どもが心配する必要はない。
毎日楽しい環境を用意するのが、大人の義務だろう。ただ、自分には向いていないと、心から思う。




