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ちょっとだけオチのある短編集(ここを押したら短編集一覧に飛びます)

無人島に水じゃなくて氷のような冷たい態度で接してくる女子持ってった。

作者: よっきゃ

 修学旅行で離島に向かっていた途中の出来事だった。


 俺たちを乗せた船が突然沈没した。

 船が沈没する直前、俺が手に掴んだのは水や食料が入ったバッグではなく、俺に氷のような冷たい態度で接してくる同じクラスの女子の町田さんだった。


 俺が町田さんから嫌われていることは知っている。

 いつも話しかけても素っ気なくて冷たくてキツい態度だったから。


 だけど船が沈んで死ぬかもしれないってときに、好きな人を見捨てて自分だけが生き残るために水の入ったバッグを選ぶなんて、そんなこと俺にはどうしてもできなかった。


「あの、ちょっと話しませんか?」


 町田さんが俺の方を一瞬だけ見たあと目を逸らし、顔を背けて海を眺めながら尋ねてきた。いつ聞いても冷めた声だ。


 しかし、運良く流れ着いた無人島の浜辺に二人並んで制服姿のまま座って、これから何を語ろうというんだろうか。


「話すって、何を?」


 俺は返事をして、ふと空を見る。

 真夏の太陽が眩しく照りつけていた。


「どうしてあの時、私の手の方を掴んだんですか?」


 なるほど。

 俺が水じゃなくて町田さんを選んだ理由が知りたいのか。


「どうしてって、流石にもう気づいてるだろ?」

「いえ、全然わかりません。だから教えてください」


 そっぽ向いたまま抑揚のない声で町田さんが話す。

 町田さんは教室でもいつも無表情でひとりぼっちで、黙々と読書と勉強ばかりしていた。

 友達とつるんでバカなことやってる俺とは全然違う人種のようだった。


 だから他人とほとんど接してこなかった町田さんは、本当に気づいてないのかもしれない。俺の気持ちというやつに。


 それか気づいているけどあえて俺に何かを言わせたいのか。何かを言わせたいほうだったら、なかなかのやり手だと思うが。


 でも、いいだろう。

 こんな状況だし、いつ死ぬかもわからないし、周りには俺を茶化す仲の良かった男子どももいないから、その何かを言ってやる。


「町田さん、教えるから俺を見て」

「え、なんで」

「いいから」

「あ、ちょっ」


 抵抗しようとする町田さんの手を抑え、俺は町田さんの顔を両手でやさしく触れて俺の方にくいっと向かせた。


 そしたら、町田さんの顔がめっちゃ赤くなってた。

 これは日に焼けて赤くなったんじゃなく、照れて赤くなっている。少なくとも俺にはそう見えた。


 こんな顔、初めて見たよ。めっちゃかわいいじゃん。こんなにかわいい魅力的な顔なら、もっとずっと昔から見ていたかったよ。


「町田さん、好きです。大好きです。無人島に水じゃなくて町田さんを持っていきたくなるくらい好きです。あと数日で飢えたりして死んじゃうかもしれないですけど、よかったら俺と死ぬまで一生付き合ってください。よろしくお願いします」


 俺は素直な気持ちを伝えて、頭を下げた。


 人生初の告白。

 ぶっちゃけこの修学旅行の期間に告白しようとは思っていたけど、まさかこんなシチュエーションで告白することになるとは思ってもいなかった。


 しばらく待ったものの町田さんからの返答がないので、俺は顔を上げて町田さんを見る。


 すると町田さんは見るからにあたふたとしていて、俺の目をチラチラ見てきて、かわいかった。


「あ、あの、あの」


 これまで見たこともない慌てようだ。かわいい。

 さっきからかわいいって感想しか出てこないくらいかわいい。

 あと数日の命かもだけど、それでも付き合いたいよ。だって好きなんだもん。


 まあ、町田さんからは嫌われてるから、この告白は失敗に終わるとは思ってるんだけどね。


「あの、わ、わたしも……。わたしも、好きです! 大好きです! 水よりわたしを選んだことを後悔させないように、その、頑張りますっ!」

「…………え?」


 まさかの告白成功だった。


 それから町田さんが、これまで幾度となく冷たい態度を取ってきたことを謝ってきた。

 なんでも、俺に好きな気持ちを悟られるのを怖がって、ああいう態度を取ってきたということらしかった。

 あとさっき照れてたのは好きすぎてもう無理ってなってたらしい。


 そして町田さんは本で読んだとかいうサバイバル知識と勉強で培った知識を駆使しまくって、無人島で生き抜くための水やら食料やら火起こしやら寝床やらを俺と一緒に作ったりして、なんとか二人とも無事に生き残った。


 無事に街に帰ってきてからは、奇跡の二人として俺たちはメディアから連日のように取り上げられたりした。


 で、あの時のことをこの前久しぶりに話したら、「水じゃなくてわたしを選んでよかったね」と、ちょっと照れながらもやさしく雪解け水のように微笑んでくれた。

 それを聞いていた俺たちの娘も「よかったね」ってお母さんのまねをして言ったりなんかして。

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