表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】追放された公爵令嬢ですが、天気予報スキルのおかげでイケメンに拾われました  作者: 青空あかな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/84

第9話:特別な作物

【天気予報】スキルを使うと、現在の空に未来の空模様が映し出されていくように見える。

 空は黒くて不気味な感じの雲でいっぱいだった。

 だけど、私には見慣れた光景だ。


(よくある雨雲ね。雲の色が暗いところが多いから、そろそろ雨が降り始めるはず)


 雨雲は何層にもわたって、空を覆っていくのがわかった。

 だんだんと、雲のすき間がなくなっている。

 空の低いところまで雨雲に覆われつつあった。

 これはもうじき雨が降る合図だ。

 そして、上空でぬめっとした風が流れているのが見えた。

 南からの風だ。


「明日は朝から雨が降りますね。ですが、すぐに晴れます。南からの風が雨雲を吹き飛ばすからです。温かい空気なので気温も上がるでしょう。少し歩いただけで汗ばむくらいです。そして、風がやや強いので歩くときは注意が必要です」

 

 天気の説明は何度もしてきたのでスラスラ話せた。


「へえ、ずいぶん詳しくわかるんだね……そうだ、アグリカルさん。明日雨が降るのなら、ちょっと早めに準備しておきましょうか」

「そうさね。雨に濡れるとまずいからね」


 二人は何か相談しているけど内容は良くわからなかった。


(う~ん。なんだか、空気の水分が濃いな)


 肌がねっとりしている。

 雲が抱えきれなくなった水分が、地上まで落ちてきているようだ。

 つまり、今日から雨は降り始める。


「それと、雨は三十分後から降り出しますね」


 今からきっかり三十分後に雨が降ってくる。

 これで明日の天気予報は終わった。

 予報は終わったのに、アグリカルさんとフレッシュさんはポカンとしている。


「今のが私のスキル【天気予報】で……」 二人はぼんやりしていたけどすぐにハッとした。

「それは本当かい、ウェーザ! あと三十分で雨が降るだって!?」

「た、大変だー! アグリカルさん、急いで雨避よけの準備をしましょう!」


 彼らは叫びながら大慌てで外へ走り去ってしまった。

 取り残されたように呆然とたたずむ。


「あ、あの、ラフさん。アグリカルさんたちはどうしたんですか?」

「あいつらは畑に行ったんだよ。そういや<太陽トマト>の収穫が近いって言ってたな。俺たちも行ってみるか」


 ラフさんの口から初めて聞く食べ物の名前が出てきた。


「<太陽トマト>?」

「見ればわかる」


 ラフさんに連れられ部屋から出ると、酒場とは反対方向に案内される。

 途中、通路の脇には小麦粉をしまうような袋が積んであったり、鋤やクワなどが立てかけてあったりした。

 やっぱり、ここは農業のギルドなのだと実感する。


「色んな道具がたくさん置いてありますね」

「積んであるのはほとんどが肥料だな。収穫した作物は地下にしまうことが多い。道具もちゃんとしまう場所があるんだが……ったく、誰かが置きっぱなしにしちまったらしい」


 裏の畑に行くと何人か集まっていた。

 みんなで大きな布を畑の一角に被せている。

 その辺りだけ赤く輝いている丸い物があった。


「何か光っていますね。ここが畑ということは、あれも作物なんですか?」

「あれが<太陽トマト>だ。喰うと結構うまい」

 目を凝らして見ると、確かにトマトのようだ。

「普通のトマトと何が違うんでしょう?」

「知らん」


 ラフさんはぶっきらぼうに即答した。

 どうやら、細かいことには興味がないらしい。


「そう……知らないんですか」


 皆が布をかけ終わった後、ポツリポツリと雨が降ってきた。

 空を見てラフさんは驚く。


「すげえ、ほんとに雨が降ってきたぞ」

「だから、100%当たる予報って言ってるんですが」


 畑の方からアグリカルさんとフレッシュさんが戻ってきた。

 ずぶ濡れなのに二人とも笑顔だ。


「ウェーザ、よくやった! 大手柄だよ!」

「いやぁ、助かった! もうすぐ<太陽トマト>の収穫だってのに、今までの苦労が台無しになるところだった!」


 二人は私の手を握ってブンブンと振り回す。


「役に立てたなら良かったです。あの、<太陽トマト>って何ですか?」

「ウェーザさんにはまだ説明していなかったね。その名の通り、太陽みたいに輝くトマトさ。普通の物より栄養が十倍くらい多いんだ。食べると日向ぼっこしているみたいに身体があったまるんだよ。見せてあげるからちょっとこっちにおいで」


 フレッシュさんが畑の布をそっとめくってくれた。

 <太陽トマト>が赤く輝いている。


「わあ、ピカピカ光っていてキレイですね」

「この実は水に弱いんだ。育っている間、少しでも水が当たると穴が開いてしまうんだよ」

「え? 水が苦手なんですか?」


 疑問に思ったとき、アグリカルさんにポンポンと肩を叩かれた。


「ウェーザ、これを見てみな」


 アグリカルさんは別の<太陽トマト>を持っていた。

 それはしわしわで黒ずんでいる。

 よく見ると、表面に細かい穴が開いていた。


「あっ、光ってないですね。それに小っちゃい穴がたくさんあります」

「こうなっちまったらもうダメさ。食べられないよ」


 アグリカルさんは残念そうな顔をしたまま説明を続ける。


「水やりをするときは、絶対に実に水がかからないようにしないといけないのさ。だから、収穫するまでは雨番っていう係があるさね。一日中、畑の横で待機しているんだよ。雨が降ったらすぐに水避け布を被せられるようにね。それでも、何個かはダメになっちまって、ほとほと困ってたんだよ」

「僕たちも色々対策は考えていたんだけどなかなか難しくてね。<太陽トマト>はここの稼ぎ頭だから、なるべく損害は出したくないんだよ」


 フレッシュさんも大事そうに畑を見ている。


「こういう作物は貴重ですね。王都にもないですし私も初めて見ました」


 畑は広いから、特別な作物が他にもたくさんあるかもしれない。


「種を集めたりとかもアタシたちの大切な仕事さ」

「<太陽トマト>は、無事に生えている野生の苗を少しずつ持ってきて育てているんだ」

「なるほど、そうだったんですか……ちょっと確認したいのですが、この辺は天気が変わりやすいんですか?」

 

 王都にいたときより空の表情がよく変わっている。

 天気を外したことはないけど、気をつけないといけない。


「よく気づいたね、ウェーザ。その通りだよ。雨が降ったかと思いきやカンカンに晴れたりしてね。困ったもんさ」

「ロファンティの周りには大きな山が多いんだ。その影響なんじゃないかと僕は予想しているよ」


(大きな山?)


 畑のさらに遠くでは高い山々がそびえている。

 その辺りの気流は激しく動いていた。

 フレッシュさんが言うように、山の影響は大いにありそうだ。

 眺めていると、ギルドからラフさんが歩いてきた。


「そろそろ食堂に戻ろうぜ。飯が冷めちまうぞ」


 ラフさんの一言で私たちは食堂へ戻った。

 食堂は閑散としている。

 お客さんがいたときは気づかなかったけどかなり広かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mノベルスf様より、第1巻2022年11月10日発売します。どうぞよろしくお願いいたします。画像をクリックすると書籍紹介ページに移動いたします。 i000000 i000000 i000000
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ