第83話:いつまでも
「よし、間に合った」
「ここは……」
その後、ラフさんに案内され小高い丘に着いた。
左右と後ろはこじんまりとした草むらに囲まれているけど、前だけはぽっかり開けている。
街から少し離れていることもあって、ここだけ特別な空間みたいだった。
「ウェーザ、今から面白い物が見れるぞ」
「面白い物……ですか?」
「待ってればわかるさ」
ラフさんは小さく笑みを湛えながら空を見ている。
なんだろう? と思っていたら、どこからかヒュルルルル~……と音がして、ドンッ! という衝撃音が伝わってきた。
空には色とりどりの光の花が打ちあがっている。
「面白い物って、花火ですね!」
「ああ、毎年祭りの最後には花火が打ちあがるんだ。ウェーザにはどうしても見せたくてな」
「すごく……すごくキレイです」
こんなに素敵な花火は見たことがない。
その美しさももちろんだけど、連れて来てくれた感激で胸がいっぱいだった。
「どうやら、ここは穴場らしくてな。アグリカルたちに教えてもらったんだ」
ラフさんはにこりと笑っている。
花火の明るさに照らされ、いつもよりさらに魅力的に見えた。
「私……とっても嬉しいです」
「そして、見せたい物はこれだけじゃないんだ。ちょっと待っててくれ」
ラフさんは地面に筒を置いたかと思うと、手をかざした。
魔力を込めているようだ。
「ラフさん、それは何ですか?」
「見てからのお楽しみだ。さあ、ちょっと離れるぞ」
ラフさんに促され、筒から少し離れる。
パーンッ! と光の玉が打ちあがった。
夜空で水しぶきが舞ったかと思うと……美しい虹が咲いた。
「キ、キレイ……! ラフさん、虹が出てきましたよ!」
「これは“虹花火”と言ってな、空で虹を作れるような花火なんだ。まぁ、ちょっとしたサプライズプレゼントだな……喜んでくれたか?」
「は、はい……もちろん、喜んでいるに決まっています。すみません……感動して涙が……本当に美しくて嬉しいです」
夜空の尊い虹を見ていると、自然に涙が零れる。
心の底から感動した虹だった。
さて、とラフさんが私の方を向く。
見たことないくらい真面目な顔でドキッとした。
「ウェーザ、お前に渡したい物がある」
そう言って、ラフさんはポケットから小さな箱を取り出した。
静かにそっと開ける。
そして、そこには……。
「こ、これは……指輪ですか?」
「ああ。俺がデザインしてアグリカルが造ってくれた。裏には俺とウェーザの名前が刻まれている」
指輪には小さなうねりがあって、シンプルだけど美しいデザインだった。
ラフさんの言う通り、裏面に私たちの名前が刻印されている。
名前の間には“重農の鋤”の紋章もあった。
ラフさんは跪くと、静かに私の手を取る。
「これが俺の素直な気持ちだ。ウェーザ……受け取ってくれるか?」
その真剣な顔を見ていると、自然と頬に涙が伝った。
今までで一番温かい涙だった。
「ええ……もちろんです、ラフさん」
ラフさんはスッと丁寧に指輪をはめてくれる。
私の薬指にピッタリだった。
「こんなに嬉しいことは……今までで初めてかもしれません」
涙をぬぐいながらぐすぐすと答える。
笑顔で答えたいのに、ぬぐってもぬぐっても涙が止まってくれることはなかった。
ラフさんは立ち上がると、優しく私の肩を抱いてくれた。
「ウェーザ、俺もこんなに嬉しいことは初めてだ。今思えば、俺はお前に出会うために生まれてきたのかもしれない」
「ラフさん……私も同じことを思っていました」
どちらともなく目を閉じて顔を近づける。
いつからか、この瞬間をずっと待っていたような気がする。
心が膨らむような幸せな気持ちだ。
(本当に……本当に嬉しい……)
喜びを胸に顔を近づける。
ラフさんの唇を感じたような気がしたとき、横の方でガサゴソ音がした。
何度も聞いたことのある小さな声が聞こえてくる。
「……こら、フランク! あんたは本当に邪魔だね! 全然見えないじゃないか!」
「いてっ……! マスターこそ、もうちょっと後ろに下がってくれよ!」
「だから、オヤジは来ない方がいいって言ったんだ……!」
『おい……俺様にも見せろ! あいつらは何をやってるんだ!?』
「お兄ちゃんたちは大人の階段を登るんだね……!」
「静かにしてよ、みんな……! 今いいところなんだから!」
目を閉じたまま必死に考えていた。
(こ、こういうときって……どうしたらいいんだろう?)
全てが初めてのことで勝手がわからない。
このまま進めてしまっていいのだろうか。
(そうだ、ラフさんの様子を見てみよう。チラッと)
そぉっと薄目を開ける。
ラフさんは呆れた様子で草むらを見ている。
何とも言えない表情でため息を吐いていた。
「……聞こえてるぞ」
「「うわぁっ!!」」
草むらがビクッとしたと思ったら、ドドドドッとたくさんの人が転がり出てきた。
“重農の鋤”のみんなだ。
ラフさんが力の抜けた様子で近寄る。
「お前らなぁ……」
「「あ、いや、ちょっとバランスが崩れて……」」
みんなはモゴモゴと言い逃れていた。
ラフさんは呆れた顔のまま話を続ける。
「穴場と言ってこの場所を提案してきたのも、このためだったんだな」
「「……はは」」
アグリカルさんもフレッシュさんも、みんなきまり悪そうに笑っていた。
「ウェーザ、すまん……」
「いいえ」
がっかりした様子のラフさんの手を握る。
大きくて優しくて温かい。
私もいつか、これくらい安心できるような手になりたいと思った。
涙も止まり正面からラフさんの顔を見ることができた。
「ラフさんの気持ちは……十分過ぎるほど伝わってきました。本当です。これからも一緒に歩いて行きましょう……今まででと同じように」
「ウェーザ……ありがとう」
ラフさんにぎゅっと抱きしめられる。
みんなの喜ぶ声が天に向かって響いていった。
夜空には美しい虹がいつまでもかかっている。
私はこの瞬間を永遠に忘れないだろう。
ひと際大きな花火が打ち上がり、左手の指輪がキラリと輝いた。
最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。
これにて第二部はおしまいとなります
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