第81話:指輪
「私たちの今後……ですか?」
「ああ、そうだ」
ラフさんは相変わらず淡々と話している。
でも、その目から緊張していることが伝わってきた。
「ウェーザ、最近不安にさせてしまっていたようだな。配慮が足りなくて申し訳なかった」
「いえ、お忙しいのはわかっていましたから。私の方こそ、ラフさんに気苦労をかけてしまってごめんなさい」
「いや、ウェーザが謝る必要はないんだ」
ラフさんは真摯に謝ってくれた。
きっと、ネイルスちゃんが話してくれたのかもしれない。
思い返せば、ラフさんはいつも私のことを気遣ってくれていた。
だから、私も思いやりの心が成長したような気がする。
「それで、今後のお話とはなんでしょうか?」
「ああ、そのことなんだが……」
ラフさんは一度口を閉じると、少しの間静かにしていた。
自分の中で言葉と気持ちを整えているのだと思う。
「その前に伝えておくべきことがある」
「は、はい」
少し離れたラフさんの後ろの方で、ネイルスちゃんが手を振っていた。
両手で大きな丸マークを作っている。
バーシルさんがこっちに来ようとしてたけど、ネイルスちゃんに力強く止められていた。
「俺は日頃からウェーザにとても感謝している。何も【天気予報】スキルだけではない。ウェーザのおかげで幸せな毎日が送れているんだ」
「私もラフさんには本当に感謝しています。こちらこそ、いつもありがとうございます」
改めて日頃の感謝を伝える。
ラフさんには感謝してもしきれないのだ。
“重農の鋤”に来た日々を思い出すと感慨深い。
私たちの間を風が通り抜ける。
「ウェーザ……」
「は、はい……」
ラフさんは意を決したように、私の手をそっと握る。
「俺はウェーザが好きだ」
「っ!?」
いきなり好きだと言われ心臓が跳ね上がった。
ドキドキして破裂しそうだ。
「流星群の日、ウェーザは自分の気持ちを伝えてくれた。あれからずっと、俺も素直な気持ちを伝えようと思っていたんだ」
「私も……ラフさんが好きです」
「ありがとう、ウェーザ……」
改めて、素直な気持ちを伝えた。
あの日からずっと変わらない。
いや、もっと強くなっていた。
ラフさんは微笑みながら話を続ける。
「今、俺たちの指輪を造っているんだ」
「ゆ、指輪……ですか? それに、私たちのって……」
まさか、と気持ちが膨らむ。
きっと、ただの指輪ではない。
私の夢が詰まったような指輪なんだろう。
「俺たちの気持ちが結晶になったような指輪だ。俺たちの人生が結ばれたような、と言ってもいい」
「ラフさん……」
その言葉を聞いただけで、嬉しさが目から零れそうになった。
「俺がデザインして、アグリカルに造ってもらっている。指輪は然るべきときに、きちんとした言葉と一緒に渡したいと思っている。だから、もう少し待っていてほしいんだ」
「はい……はいっ……」
嬉しさがこみあげてきて声が出なくなってしまった。
喜びで胸が詰まる。
こんなに幸せな経験は初めてだった。
「それほど遠くない日に指輪も言葉も渡せると思う。楽しみに待っててくれ」
「はい……楽しみに待ってますね」
手を握り合ったまま見つめ合う。
以前とは違う胸の高まりを感じていた。
世界がさらに明るくなっていく気がする。
「……ありがとう、ウェーザ」
「ありがとうございます……ラフさん」
どちらともなくお礼を言うと、私たちは手を離す。
涼しい風が吹いているけど、ラフさんのぬくもりは簡単には冷めなそうだった。
立ち去るラフさんを静かに見守る。
その背中は、いつもよりずっと大きく見えた。




