第78話:農業大国からの手紙
「よいしょっ、やっぱり収穫は楽しいですね」
「今までの努力が報われる瞬間だからな」
その後、私たちはいつも通りの日常を送っていた。
作物の収穫の時期なので、ギルド総出で収穫作業だ。
朝から農作業をし、夜にはみんなとお喋りしてから温かいベッドで眠る。
幸せな毎日だ。
もちろん、ラフさんとの関係もいつも通りだ。
相変わらず優しくしてくれるし、一緒にいるのは本当に楽しい。
私たちの身分差の話も、もう出てくることはなかった。
「ラントバウ王国でも<さすらいコマクサ>の畑が出来ているんでしょうか」
「ああ、きっと“重農の鋤”より大きな畑だろうよ。農業のエキスパートが揃っているからな」
<さすらいコマクサ>も、ラントバウ王国から専門の人たちが来て大切に持ち帰った。
アグリカルさんとフレッシュさんが特別な容器を渡すと驚いて感動していた。
「おーい、ラフー! ちょっと来てー! 手紙が来てるよー!」
二人で作業していたら、ギルドの方からフレッシュさんの声が聞こえてきた。
「ん? 俺に手紙? 珍しいな」
「仕立て屋のお仕事でしょうか」
「ちょうど作業も一区切りついたことだし、一旦ギルドに戻るか」
「あっ、私も行きます」
ラフさんと一緒にギルドへ戻る。
フレッシュさんとアグリカルさんが出迎えてくれた。
「俺に手紙って、どこから来たんだ?」
「それがラントバウ王国の国王陛下からなんだよ。アタシは驚いたのなんのって」
「なにっ!?」
「ラントバウ王国ですか!?」
ラフさんは手紙を受け取り注意深く見る。
ラントバウ王国のシーリングスタンプで封じられていた。
つまり、これは国としても正式な文書だ。
「わざわざ手紙を送ってくるとは……なんだろうな。何もないといいのだが」
「また問題が出てきたんでしょうか」
「まずは読んでみよう」
ラフさんは手紙をピリピリと開ける。
「じゃあ、読み上げるぞ。『ラフ殿、“重農の鋤”殿。先日のクライム公爵と薬師の件では大変お世話になった。貴殿らのおかげで、<さすらいコマクサ>も順調に育っておる。国内で流行している“破蕾病”も直に完治するであろう。そこで、特に貢献してくれたラフ殿に爵位を授けたい。もちろん、“重農の鋤”殿にも感謝の証を授けたい。 ラントバウ王国国王』俺に……爵位を授けたいそうだ。にわかには信じられん」
ラフさんは信じられないという顔だ。
手紙を持ったまま固まっている。
「すごいじゃないか、ラフ! 国王陛下から直々に爵位を授けたいと言われるなんてさ! アタシも嬉しいよ!」
「君の頑張りが認められたんだ! “重農の鋤”……いや、ロファンティ始まって以来の素晴らしい名誉だよ!」
「良かったですね、ラフさん! 自分のことのように嬉しいです!」
大切な人の素晴らしさが認められたようで、自分のこと以上に嬉しかった。
ラフさんに出会えて、自分より大切な人が認められることの方が何倍も嬉しいことがわかった。
しかし、ラフさんは本心から喜べないようだ。
少し考え込んでいるような様子だった。
「どうしたんですか、ラフさん?」
「いや、国王がこう言ってくれるのは素直に嬉しい。本当さ。ただ、俺なんかが爵位を貰っていいのだろうか……と思ってな」
「「ラフ……」」
身分差のことは、もちろんアグリカルさんたちも知っている。
「ラフさん」
私は無骨で優しい手を握った。
ラフさんの顔を正面から見る。
「きっと、王様はそんなこと気にしません。それに、ラフさんの活躍は身分のことなんか関係ありません。それら全部をひっくるめた上で、王様は爵位を授けてくださると思うんです」
「ウェーザ……」
ラフさんの顔に少しずつ笑顔が戻ってきた。
「それもそうだな。ウェーザの言う通りだ。さて、早い方がいいだろう。ラントバウ王国へ行くとするか」
「はい、さっそく向かいましょう」
簡単な荷物をまとめ馬車に乗り込む。
メンバーは“花の品評会”に行ったときと同じだ。
そして、私たち4人はラントバウ王国へ向かっていった。




