第76話:出自(Side:ラフ③)
俺はウェーザと釣り合う男なのだろうか。
いつからか、そんなことを考えるようになった。
俺は呪われた一族、“彷徨の民”。
やはり、この特殊な体質は今でも疎まれることが多いようだ。
この旅で改めて自覚させられた。
ルークスリッチ王国の晩餐会でも、このことが気にかかっていた。
ウェーザと俺の間に立ちはだかる身分の差。
晩餐会では貴族ばかり集まっていた。
もちろん、ウェーザは身分の差なんて何とも思っていないことはよくわかっている。
ウェーザは本当に優しいヤツだ。
お前と出会ってから、貴族に対する偏見のような物が消えた気がする。
今では、よその貴族とも気兼ねなく話せるようになった。
一方で、ウェーザはメイドの子とはいえ公爵家の出身だ。
お前はあまり気にしていないようだが、やっぱり貴族は貴族だ。
俺たちの間には身分の差という、どうしても超えられない大きくて分厚い壁がある気がしてならない。
無論、ウェーザのことは一生をかけて守り続けていくつもりだ。
お前とずっと一緒にいることが、俺の一番の喜びかもしれない。
だが、流浪の民の男と貴族出身の令嬢では釣り合わないことは明白だ。
たぶん、ウェーザはそんなことは気にしないと言ってくれるだろう。
言われなくてもわかっているさ。
それでも、俺はどうしても気になってしまう。
お前は“呪われた一族”だ……。
悪徳薬師に言われたときも、小さな傷が心に刻まれるようだった。
気にしないようにしていても、やはり心のどこかでは負い目に感じていたのかもしれない。
普段から平静を装っていても誤魔化すのは難しいようだ。
貴族たちを見るほど、自分が平民であることを突きつけられるように感じてしまうんだ。
かといって、このまま心の内にしまっておくのもウェーザに悪い気がする。
ずっと秘密を抱えているようで気持ちも暗くなる。
考えないようにしても考えてしまうんだ。
明かさずとも、ウェーザは心配してくれたな。
嬉しかったが、そのときは詳しく説明できなかったんだ。
正直に言うと、ウェーザからどう思われるかとても怖い。
嫌われるんじゃないか、避けられるんじゃないか……嫌なことばかり想像してしまう。
そして……大切に想うからこそ、俺が気にしていることも伝えておきたい。
だから、さっき伝えたんだ。
ウェーザ、お前とはこの先もずっと一緒にいたい。
だが、俺たちの間には大きな壁があるようでならないんだ。




