第75話:流星群と願いごと
「予報通り雲が晴れて良かったです」
「これなら流れ星もたくさん見渡せそうだな」
しばらくして、流星群の日がやってきた。
すっかり日も暮れて空は濃い青色に変わりつつある。
昨日は雨だったけど、今日はちゃんと晴れてくれた。
空気もスッキリ爽やかだ。
アグリカルさんの言うように、雨の後にして良かった。
いつもこの時間はギルドでお話をしているけど、みんな外に集まっている。
各々、流星群を楽しみに待っていた。
特にネイルスちゃんとバーシルさんは待ちきれないようで、農場を走り回っている。
「早く流れ星出てこないかなぁ。ねえ、いつになったら降ってくるのー?」
『もう夜じゃないか。早く出てこーい。楽しみにしているんだぞー』
二人とも空に向かって叫んでいた。
待ちきれない気持ちはとてもよくわかる。
私も子どもだったら同じことをやりそうだ。
思い返せば、幼い頃からずっと空を見ていた。
「ほら、ネイルス、そろそろ降り注ぐ時間だ。危ないから座って見るんだ。バーシルもな」
「『はーい』」
そう言って、ネイルスちゃんたちは草原のようになっている場所に寝転んだ。
みんな思い思いの場所に寝っ転がる。
私はラフさんと一緒だ。
柔らかい草が優しく受け止めてくれた。
「ラフさん、お願いごとはもう決めましたか?」
「ああ、決めてある。と言っても、毎年同じなんだがな」
「そうなんですね。私はロファンティで流れ星にお願いごとをするのは初めてなので楽しみです」
「まぁ、毎年同じではあるが、今年は違うことも祈りそうだ」
夜空の星たちも控えめに瞬いている。
彼らもこれから始まる素敵なショーを楽しみに待っているようだった。
やがて、夜空に一筋の線が光った。
農場から歓声が沸く。
「うわぁっ、キレイ! 本当に星が流れているんだねぇ!」
『おお! また光ったぞ! 流星群だ!』
線を引くように、次々と流れ星が降り注ぐ。
まるで、天使が藍色のキャンパスに輝く線を引いているようで、とても美しい。
元々この辺りは空気が良いのだろう。
肉眼でもくっきりと見える。
そのうち歓声も少しずつ小さくなり、みんなは静かに見つめていた。
たとえ日が沈んでも、空は本当に色んな表情を見せてくれる。
ネイルスちゃんは懸命にお願いごとを祈っていた。
「あ、あっ! 消えちゃった! まだ最後までお願いしていないのに……!」
「ネイルスちゃん、焦らなくて大丈夫よ。流れ星はたくさん降ってくるから落ち着いて祈れば大丈夫よ」
少し離れていたからか、ネイルスちゃんには聞こえていないようだった。
その間にも、流星群は絶え間なく降り注ぐ。
時間が経つにつれ、どんどん数を増していた。
同じ空なのに昼間とまるで表情が違う。
自然の世界は不思議だなと感じる。
ロファンティの新たな一面を見ているようだった。
(あっ、そうだ! 私もお願いごとしないと……)
願いも忘れて見とれていた。
慌ててお祈りのポーズをとる。
焦らなくていいと言いながら、いざ自分がとなるとどうしても焦ってしまう。
空を見つめ心の中でお願いごとをする。
(みんなと、ラフさんといつまでも一緒にいられますように……“重農の鋤”がもっと発展しますように……ルークスリッチ王国とロファンティがいつまでも平和でいられますように。それから……)
ちらりと横のラフさんを見る。
無表情で空を眺めていた。
その様子を見ていると胸が熱くなってきた。
二人で毎日を過ごしているうち、私の心はハッキリした想いを持つようになっていた。
青空で輝く太陽のように尊い気持ちだ。
(……ラフさんとけっ)
「ウェーザ」
「ひぃぇあっ!? は、はい!」
静かだったラフさんがいきなり話しかけてきてビックリした。
思わず変な声を出してしまった。
ものすごく恥ずかしかったけど、ラフさんは気にもしていないようだ。
「星がキレイだな。例年よりたくさん降り注いでいるかもしれん」
「え、ええ、そうですね。まさか、こんなにたくさん見られるとは予想していませんでした」
「ああ……そうだな……」
ラフさんは何か話すのかと思ったけど、また黙ってしまった。
そのまま、私たちはしばしの間空を見つめる。
流星群は音もなく降り注ぐ。
「ウェーザ、お前に伝えておかないといけないことがある」
少しして、ポツリとラフさんが呟いた。
暗くても、例の浮かない表情をしているのがわかる。
心なしか少し緊張してきた。
「はい……何でしょうか?」
「その前に、ウェーザは公爵家の出身だったよな」
「ええ、一応そうですね」
どうしてそんなことを聞くんだろう? と思ったときだ。
ラフさんが静かに一息に言った。
「俺は呪われた一族……“彷徨の民”の末裔なんだ」




