第73話:終結
「ク、クソッ、お前ら逃げるぞ! とんずらだ!」
像が出てきた瞬間、ヴァイスが叫んだ。
それを合図に、手下たちは森へ向かう。
「あっ、待ちなさい! た、大変です、薬師たちが……!」
「大丈夫だ、ウェーザ」
ラフさんの言葉を待っていたように、木陰からたくさんの衛兵が出てくる。
ルーズレスさんがここにも配置してくれていたのだ。
「もう逃げられないぞ、クライム公爵、ヴァイス。お前たち、捕まえるんだ!」
「「うぐっ……! こ、こら、離せ!」」
彼らのおかげで、あっという間にクライム公爵たちは捕まった。
「さて、ラフ殿。この像を壊してもらえるか? 王国の民を苦しめてきた悪意の像だ」
「ああ、もちろんだ」
ラフさんはフッと息を吸うと、目を閉じた。
白い光が両手を包んでいく。
まるで、光の玉が集まっていくようだった。
非常に美しい光景で思わずため息が出るほどだ。
(キ、キレイ……)
「<魔導拳>!」
ラフさんが力の限り像にパンチする。
たった一撃でガラガラ……と壊れてしまった。
クライム公爵たちの驚きの声が聞こえてくる。
「そ、そんな……おい、あの像は壊れなんじゃないのか!?」
「壊れないなんて言ってねぇ! 強固に造ったと言ったんだ!」
「こうなったのも全て貴様のせいだ! どうしてくれる!」
「ふざけんな! 人のせいにするんじゃない!」
取り押さえられているというのに、彼らは喧嘩を始めた。
「そいつらを連れて行け! しっかり取り調べろ!」
「「うぐッ!」」
連行されていく直前、薬師がヤケになった様子で叫んだ。
「お前、“彷徨の民”の人間だな! ちくしょう! お前さえいなければ全て上手くいったんだ! この……“呪われた一族”め!」
「「うるさいぞ! 早くこっちに来るんだ!」」
「クソッ! もう少しで大金が稼げるはずだったのに!」
クライム公爵たちは悪態をつきながら連行された。
後は王宮の人たちに任せておかえば大丈夫だろう。
厳しく取り調べてくれるはずだ。
「「やった! これでみんなも救われるはずだ!」」
森の中は歓声で包まれる。
新しく“破蕾病”になる人はもう出てこないはずだ。
ギルドから<さすらいコマクサ>を渡せば、本物の治療薬もすぐにできるだろう。
「ウェーザ嬢、ラフ殿、本当にありがとう! 貴殿たちのおかげで彼らの悪事を暴くことができた!」
「い、いえ、お役に立てて良かったです」
「まぁ、俺はただ像を壊しただけだがな」
ルーズレスさんと固く握手を交わす。
「やりましたね、ラフさん! 悪い人たちを捕まえられました!」
喜びながらラフさんを見上げる。
だけど、その顔は喜んではいなかった。
むしろこわばっている。
何度か見たあの表情だった。
「あ、あの……ラフさん?」
「……あ、ああ悪い公爵と薬師を捕まえられて良かったな。俺も嬉しいぞ」
嬉しいと言いつつ、繕ったような笑顔だった。
ラフさんが今までこんな風に笑うことはなかった。
きっと、ヴァイスという薬師が放った言葉が原因な気がする。
(“彷徨の民”……“呪われた一族”……)
どちらも初めて聞いた言葉だった。
薬師の口調には侮蔑がこもっていた。
ラフさんの悩みは解消してあげたい。
私の苦しみでもあるのだ。
「あの、ラ……」
「良くやったよ、ラフ! さすがは“重農の鋤”のラフさね! もちろん、ウェーザもだよ! アンタたちのおかげだね!」
「君がいてくれて本当に良かったよ! これで王国も平和になるね! ウェーザさんもありがとう!」
話し出そうとしたら、アグリカルさんとフレッシュさんが抱き着いてきた。
「お、お前ら、もうちょっと静かにしろよ」
「静かにできるわけないだろう! 大手柄だよ!」
「そうだよ! 静かになんてできるもんか!」
ラフさんは……笑顔だ。
その顔を見て話すのはやめようと思った。
少なくとも、今話すべきことではない。
「ウェーザ嬢、今日は祝杯を上げなければならないな!」
「父上、その前に王様へ諸々お伝えしないと」
周りから称賛を受けてお屋敷へ戻る。
みんなのおかげで、無事に悪い貴族と薬師を捕まえることができた。




