第71話:作戦
「みなさん、お話ししたいことがあります」
「俺とウェーザで水源地に行ったところ、泉の中央に不気味な像があったんだ」
その後、私たちは誰かに見つかることもなくお屋敷に戻ってきた。
お部屋にはみんなが勢ぞろいしている。
婦人と男の子は症状が治まったようで、一度自分たちの家に帰っていた。
ラフさんの言葉を聞いて、ルーズレスさんは呟くように言う。
「やはり、婦人の言っていたことは本当だったか……」
「ああ、像からは毒々しい液体が漏れ出ていたぞ。ひょっとしたら、“破蕾病”を引き起こす毒だったりするかもな」
「その像なんですが、普段は透明になる魔法がかけられているみたいなんです。最初は、像も液体もまったく見えませんでした」
泉で見た状況を事細かに説明する。
みんなは食い入るように聞いていた。
婦人の目撃情報がなかったら……と思うとゾッとした。
「そうか……そんな像が造られていたとは思わなかった。それが諸悪の根源である可能性が高いな」
「なんとかしてとっちめてやりたいね。そんな像ぶっ壊してしまえばいいのさ」
「でも、アグリカルさん。大事な証拠ですから壊してしまうのはまずいですよ。しっかり証明いないと」
今のところ、きちんとした裏付けは泉にあった像だけだと思う。
今すぐ証拠として突きつけたいけど、まずは入念な準備が必要だ。
「ところでウェーザ嬢、ラフ殿。見えないという像をどうやって見つけたのだ?」
「偶然、お天気雨が降ったとき姿を現しました。もしかしたら、お天気雨のような気象条件では魔法が解けるのかもしれません」
「ふむ……その可能性は考えられるな。物を隠すような魔法は非常に高度だ。何かしら制約がつく。ある条件のときだけ姿を現してしまうというのは、十分考えられる」
「俺も四六時中、存在を隠せる魔法なんて聞いたことがないな」
あのような魔法は誰にでもできるわけではない。
それなりの専門的な知識が必要なはずだ。
敵は厄介な相手かもしれない。
でも、私たちだって負けてないのだ。
「さて、クライム公爵のことだ。言い逃れできない証拠を出さないと認めないだろう」
「そこで、俺に考えがある」
みんなの視線がラフさんに集まる。
「知っての通り、ウェーザは天気が100%わかる。その力を借りて、天気雨が降る日に彼らの秘密を暴こう」
「はい、私がお天気雨の降る日にちを予報します。そうすれば、毒の像が置かれていることを目の前で証明できると思います」
ルーズレスさんは私たちの話を静かに聞いていた。
そして、納得したように言った。
「よし、その作戦が良いだろう。像が実際に現れれば、言い逃れはできないはずだ。大公爵の名において水源地の視察をする、と連絡しておこう。“破蕾病”の原因を調査するためだとな」
「お願いします、ルーズレスさん」
みんなと話し合い、お天気雨が降る日にクライム公爵の水源地へ行くことになった。
「では、ウェーザ。天気の予報を頼む」
「はい、わかりました。すぐに予報しますね」
私とラフさんはお屋敷の外に出る。
お部屋にいたみんなもついてきた。
爽やかな風が顔を撫でる。
(空だけはどこにいても見えるのね)
魔力を集中して空を見上げた。
雲が浮かび風に流されている。
私たちがこんな状況にあっても、空は変わらずいつも通りだった。
時間が進むにつれて、南の方で小さな雨雲が出来ていく。
風に乗って、2週間後にこの辺りまで来る。
昼頃に弱い雨を降らすけど、すぐに強い風に吹かれて雲は消えてしまう。
晴れているのに雨が降る。
お天気雨だ。
「お天気雨は2週間後の正午に、数分だけ降ります」
「クライム公爵の水源地へ行く日が決まったな。私の方ですぐに準備を整える」
「アタシにできることがないかい? 何でも手伝うよ」
「父上、僕にも何か仕事をください」
さっそく、みんなは準備を始める。
傍らのラフさんがそっと話した。
「ウェーザ、俺たちで“破蕾病”に苦しんでいる人たちを救おう」
「ええ、みんなで力を合わせればきっとうまくいくはずです」
私たちは空を見上げる。
勝負は2週間後の正午だ。
そのときに全てが明らかになる。




