第7話:重農の鋤
「おーい、帰ったぞー」
「し、失礼しまーす」
ギルドの中はちょうど夕食どきだったようだ。
あちこちの机に美味しそうな料理が並んでいる。
どのお皿からもあたたかい湯気が立っていた。
たぶん、食堂も兼ねているのだろう。
次から次へと料理が運ばれていた。
「あっ、ラフじゃん! お帰り! 街は変わりなかった?」
料理を運んでいた女の子が笑顔で振り向いた。
茶色いショートヘアの明るそうな娘だ。
メイドっぽい格好だからここで働いている人かもしれない。
「メイ、ちょっと服貸せ」
いきなり、ラフさんは誤解されるようなことを言った。
「はあ!? アンタ、いきなりなに言ってんの! ラフってそんな趣味だっけ!?」
「ちげーよ。こいつに服を貸してやれって」
ラフさんにグイッと押された。
「こ、こんばんは、私はウェーザ……」
「は?」
メイという子と目が合った瞬間、彼女は持っていたお盆を落としてしまった。
お盆がカランカランと床に転がる。
周りにいたお客さんたちも、ギョッとした顔で驚いていた。
メイさんは悲鳴に近い声で叫ぶ。
「オ、オヤジー! ヤバい! ラフがめっちゃ美人を連れてきたぞー! 早くこっち来い!」
「ラフが女の子を連れてきたあ!? ウソ吐くんじゃねえ! んなわけねえだろがよ!」
キッチンみたいなところからオジサンが出てきた。
エプロンをしているからシェフのようだ。
スキンヘッドで左目にざっくりと大きな傷痕があった。
私が何か言う前に、ラフさんが話しかける。
「フランク、こいつにも飯を食わせてやれ。腹減ってんだって」
「何言ってんだ。女の子なんてどこにもいねえじゃねえか」
フランクと呼ばれたオジサンは食堂をきょろきょろしていた。
ラフさんは呆れた様子で私を押し出す。
「だから、こいつだよ」
「うわっ!」
転がるように前へ出ると、フランクさんは目を見開いて固まってしまった。
さっきからみんなに驚かれてばかりだ。
(やっぱり、私みたいな人は来ちゃいけなかったんだろうな。"赤い髪"をしているし"メイドの子"だし……いや、せめて挨拶はちゃんとしないと)
暗い気持ちを振り払って自己紹介する。
「こ、こんばんは。私はウェーザ……」
「いいいいい一大事だー! ラフが、おおお女の子を連れてきたぞー!」
フランクさんがすごい大声で叫んだ。
食堂はシーン……と静かになり、お客さんがいっぺんに私を見た。
緊張してゴクリと唾を飲む。
「お食事中失礼します、私はウェーザ……」
言い切る前に、お客さんたちはわあわあ騒ぎ出した。
「ま、まさか、あのラフが本当に女の子を! おい、みんな集まれ! これは一大事だぞ!」
「そんなかわいい子どこから攫ってきたんだよ! ああ、とうとうラフが人攫いになっちまった!」
「しかもボロボロじゃん! もしかして、ラフにひどいことされたの!? 大丈夫!? ケガはない!?」
どんどん大騒ぎになっていく。
皆、口々に色んなことを言っていた。
(ど、どうしよう。できれば大事ごとにはしたくない……)
「あ、いや、私が悪い人たちに襲われそうになったところを、ラフさんは助けてくれて……」
「おい、フランク! 追加の酒をくれ! こいつは面白くなってきたぞ!」
誰かが言ったことに、すかさずフランクさんが乗っかる。
「俺も一緒に飲ませてくれ! 飯なんか作ってられるか! ……かああ、うめえ!」
あっという間に、酒盛りまで始まってしまった。
ラフさんはそんな彼らを手当たり次第に締め上げていく。
「うるせえ! お前ら調子に乗りすぎだ! 俺はウェーザを攫ってもないし、ひどいこともしてねえ! 好き勝手言いやがって!」
「「うわあ! いてえ! 助けてくれ!」」
今や、ギルドの中は飲めや歌えやのお祭り騒ぎになっていた。
(わ、私はどうしたらいいんだろう……?)
完全にタイミングを逸してしまい、ぼんやりと立つしかなかった。




