第61話:出品登録と再会
「ここが品評会の会場かいね」
「いっぱい人が来ていますね」
その後、私たちは無事にラントバウ王国へ入国でき、会場である王宮まで来ていた。
フレッシュさんが話すとすぐに案内してくれたのだ。
家を出ていても大公爵家の跡取りなんだなと思った。
品評会の会場は、王宮近くの大広間だ。
野外だけどテントの準備もされている。
ルークスリッチ王国とはまた違った服の人たちもいて緊張する。
ほとんどが貴族か使用人だった。
私たちを見てコソコソ話している。
「あそこの一行は見かけない顔だな。品評会に出品するのだろうか」
「見るからに規模の小さそうなグループじゃないか。俺たちの敵ではないな」
「ちょっと待て、あのお方はフレッシュ様じゃないか? 家を出て久しいと聞いていたが戻ってきたのか……」
やっぱり、他国からの参加者は珍しいようだ。
それに、彼らの花がちらりと見えたが、どれも大変に美しいお花だった。
アグリカルさんたちが緊迫する気配が伝わってくる。
「よその花はそれだけでキレイに見えるね」
「どれもこれも珍しそうな花ばかりだな」
「僕たちも頑張って育てたけど、よく考えればそれはみんなも一緒なんだよね」
会場の雰囲気に気圧されたのか、みんないつもより元気がない。
このままでは<歌うたいのマーガレット>までしょんぼりしてしまいそうだ。
「大丈夫ですよ、みなさん。きっと、<歌うたいのマーガレット>にも私たちの頑張りが伝わっているはずです」
「「ウェーザ(さん)……」」
「私たちはこの日のために懸命に努力してきました。他のお花たちもキレイですが、気持ちで負けてはいけませんよ。しっかり準備してきたんですから」
ここまで来たら、あとは勇気を持って望むだけだ。
私が言うと、みんなはハッとした。
「そうだね、ウェーザの言う通りだよ。戦う前から負けてるんじゃ世話ないさ」
「一番大事なことだな」
「僕たちが気持ちで負けてちゃしょうがないね。ウェーザさんのおかげで元気が出たよ、ありがとう」
他のお花たちは確かにキレイだ。
でも、私には<歌うたいのマーガレット>の方がずっと美しく見えた。
きっと、これは気のせいではない。
私たちの努力は見る人にも伝わるはずだ。
「じゃあ、さっそく登録をしてこよう」
フレッシュさんを先頭に受付に向かう。
「すみません、登録をお願いします。出品はこの<歌うたいのマーガレット>です」
フレッシュさんは花が日に当たらないように気を付けてテーブルに乗せる。
「品評会の前に歌わせてしまうとインパクトが弱くなる」とのことで、これも作戦の一つだった。
「<歌うたいのマーガレット>ですか。それはまたずいぶんと珍しいお花ですね……って、フレッシュ様!?」
おそらく顔見知りだったのだろう。
受付の人たちはフレッシュさんを見て驚いている。
「「お、お戻りになられたのですか!? すぐにルーズレス様とシビリア様にお伝えしないと!」」
「いや、その必要はありませんよ。僕は父上たちに言われて品評会に来たのですから」
「「そ、それはどういう意味で……」」
フレッシュさんが説明しようとしたときだ。
辺りの空気が明らかに固くなった。
「どうやら、花は用意できたみたいだな」
「どんな素晴らしいお花を見せてくれるのかしら」
「「ルーズレス様!? シビリア様!?」」
後ろから厳しい声が聞こえる。
フレッシュさんのご両親がやってきた。
“重農の鋤”に来たときと同じような近寄りがたいオーラを出している。
「来ないかと思っていたぞ、フレッシュ」
「花が育たないのかと心配していましたよ」
ギロッと睨むように見ていた。
二人に見られていると、空高くから見下ろされている気分になる。
フレッシュさんも険しい表情で迎え撃つ。
「父上たちこそ、ご自信はあるのでしょうね。僕はどんな花を出されても負けない自信がありますよ」
「ふんっ、あんな痩せた土地で育つ花などたかが知れている。お前には悪いが、私たちが優勝させてもらう」
「私たちだって家をあげて花の栽培に取り組んできたの。あなたたちよりずっと美しい花なのは間違いないわ」
彼らの後ろには、使用人たちがずらりと並んでいる。
それぞれきちんとした園芸服を着ていた。
専門の使用人たちだ。
みんな農業に詳しそうだった。
「この日のために、僕たちはみんなの力を合わせてきたのです」
「私たちは絶対に負けません。フレッシュさんは本当にお花のことを考えています」
一歩前に踏み出て言う。
フレッシュさんのご両親は怖いけど、それだけはきちんと伝えなければならない。
「そちらはウェーザ嬢だったな。遠路はるばるようこそ、ラントバウ王国へ」
「あなたとは違う機会にでもお会いできたら良かったわね」
「フレッシュさんのお花を大事に思う気持ちは、他の誰にも負けません。たとえ、農業大国であろうと。きっと、この“花の品評会”でわかると思います」
そう伝えるも、二人は厳しい表情のまま私を見るだけだった。
さて、とフレッシュさんを見る。
「約束は覚えているだろうな。優勝できなければ私たちの家に戻ってきてもらおう」
「あなたたちの努力が無駄にならなければいいですけどね」
「もちろん覚えていますよ。でも、負けるつもりはありません。優勝するのは僕たちです」
三人の視線のぶつかり合いは火花が散るようだった。
貴族たちも良からぬ事情があると察したのか、会場の雰囲気もピリピリしている。
と、そこで、衛兵の声が響いた。
「「国王陛下がおいでになりましたー!」」
バルコニーに王様とその王妃様が現れた。
王様は長い髭を蓄えていてお年を召した方だ。
王妃様は美しい淑女だった。
そのとたん、辺りは静かになる。
私たちも身なりを整え言葉を待つ。
「よく集まってくれたな。国の威厳を示す一年に一度の“花の品評会”の日が来た。審査は例年通り、各審査員の配点により行うものとする。ルールは……」
王様と王妃様は優しそうな雰囲気でホッとした。
ルーズレスさんたちみたいな怖そうな人だったら、どうしようかと思っていた。
王様からルールの説明が行われたけど、概ねフレッシュさんから聞いていたのと同じだ。
「では、“花の品評会”を始める!」
「「わあああ!」」
参加者たちの歓声があふれる。
いよいよ、フレッシュさんの行く末を決める“花の品評会”が始まった。




