第60話:いざ、農業大国へ
「じゃあ、みんな行ってくるからね。アタシらが留守の間は頼んだよ」
「行ってらっしゃい……でも、やっぱり寂しいな」
『俺がいるから安心して行ってこい。ギルドはしっかり守ってやるさ』
いよいよ、ラントバウ王国へ向かう日がやってきた。
ギルドのみんなとは暫しのお別れだ。
相談の結果、フレッシュさん、アグリカルさん、ラフさん、私の4人で行くことになった。
ルークスリッチ王国に行ったときと同じメンバーだ。
「ウェーザちゃん、これお弁当だよ。昼ごはんにでも食べてくれ。みんなの好物が入っているからな」
「これ食べて少しでも元気つけて」
「ありがとうございます。大事に食べますね」
フランクさんとメイさんがお弁当を渡してくれた。
でも、あの時と違って見送るみんなの表情は険しい。
晩餐会という楽しい目的ではなく、フレッシュさんの行く末が決まる大事な勝負が始まるからだ。
ネイルスちゃんとバーシルさんがおずおずと前に出てくる。
「フレッシュ、頑張ってきてね。これ、バーシルちゃんと作ったの」
『お前が勝てるように祈っておいたぞ』
ネイルスちゃんが色とりどりのお花で編んだネックレスを差し出す。
フレッシュさんは嬉しそうに受け取った。
首に巻くと笑顔で二人の頭を撫でる。
「ありがとう。どんな相手にも勝てそうな気持ちになるよ」
「“重農の鋤”から祈っているね」
「大丈夫、絶対に優勝してくるよ」
今回も馬車で行く予定だ。
荷台に荷物を積み込む。
食べ物や水、落葉堆肥、特製ろ過板、そして<歌うたいのマーガレット>……。
フレッシュさんは御者席に座るも、やっぱりお花が気になっているようだった。
私がラフさんの顔を見ると、コクリとうなずいた。
「フレッシュさん、御者は私が勤めます」
「え? ウェーザさんが御者をやってくれるのかい?」
「はい、私がやります。フレッシュさんは<歌うたいのマーガレット>をしっかり見ていてあげてください。その方がお花も安心だと思いますから」
そう言うと、フレッシュさんはハッとしたようだ。
「で、でも、御者は結構難しいから大変だよ」
「大丈夫です。ラフさんに馬の操縦を教えてもらっていたので」
「ウェーザはなかなか筋がいいぞ。安心して任せればいいさ」
私からお願いして、ラフさんに御者の訓練をつけてもらっていた。
おかげで、一通りの操縦ならできるようになった。
アグリカルさんも荷台から声をかける。
「お言葉に甘えてればいいんだよ、フレッシュ。こっちにおいで」
「ありがとう、二人とも。それじゃあ、ぜひお願いするよ」
フレッシュさんは荷台に行くと、さっそく<歌うたいのマーガレット>を抱えた。
ちょうど雲が避けて日差しが差してくる。
《ラララ~、良いお花はキレイなお花~、明るい心で明るい明日~》
<歌うたいのマーガレット>が揺れながら楽しそうに歌う。
「ふふっ、言い得て妙ですね」
「明るい心で明るい明日……か。花が言っている通りだな」
「何事も元気が一番ってことさね」
「まさか、<歌うたいのマーガレット>にも励まされるとは思わなかったよ」
《ラララ~、良いお花も元気が一番~》
みんなであはは、と笑う。
御者席に座り、ラフさんと顔を見合わせる。
「では、さっそく向かうか」
「はい、行きましょう。それっ!」
勢い良く手綱を振って馬車が歩き出す。
向かうは農業大国、ラントバウ王国だ。




