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【書籍化】追放された公爵令嬢ですが、天気予報スキルのおかげでイケメンに拾われました  作者: 青空あかな


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第59話:キレイなお水が必要

「では、さっそく落葉堆肥を与えるか」

「早くキレイな声になってほしいですね」


 <歌うたいのマーガレット>を、落葉堆肥を敷き詰めた鉢植えに植える。

 こうしておけば、悪天候になってもすぐに避難できるというフレッシュさんの案だった。

 鉢植えもアグリカルさんがデザインしてくれた。

 マーガレットの模様と、“重農の鋤”のシンボルマークがセンス良く刻まれている。

  

《ボエッ!》


 新しい鉢植えに入れたら、<歌うたいのマーガレット>は嬉しそうな声を出した。

 風は吹いていないのに体が微妙に揺れている。

 ネイルスちゃんが楽しそうに呟いた。


「なんだかお花も嬉しそうだね」

「きっと、みんなが作ってくれた肥料がおいしいんだよ」


 さて、とフレッシュさんが本を開く。

 <歌うたいのマーガレット>についてまとめてくれた本だ。


「肥料は定期的に補充するとして、あとはキレイな水がどうしても必要なんだ」

「キレイな水か。いつも使っている農業用水じゃダメなんだな」

「ロファンティの水も十分キレイなんだけど、できればもっと上流の水にしたいんだよ。この辺りの環境だったら、ザリアブド山の湧き水がベストだと思う」

「「ザリアブド山……」」


 ラフさんと一緒に遠方の山々を見る。

 威圧感を持った山が変わらずそびえていた。


「なるべく不純物の入っていない水を与えたいんだ。良い肥料と水が<歌うたいのマーガレット>を歌わせるのに必須でね」


 他の作物を育てるときは、いつも川のお水を使っている。

 やっぱり、<歌うたいのマーガレット>を育てるのは難しいようだった。


「となると、採りに行く必要があるな」

「今回もしっかり準備して行かないとですね」


 ザリアブド山の険しさは今でも覚えている。


「大丈夫、登山する必要なんてないさ」


 と、そこで、アグリカルさんが小さな円盤みたいな物を取り出した。

 見たところ、金属でできているようだ。

 

「アグリカルさん、それはなんでしょうか?」

「こいつは特製のろ過板かばんだよ。これをつければ、どんな水も大変にキレイになっちまんだ、ちょっと見てなね」


 アグリカルさんはバケツに土とお水を入れ、ぐるぐるとかき混ぜる。

 茶色い泥水ができた。

 それをジョウロに入れ、先っぽに特製ろ過板をつける。

 下に向けるとキラキラした透明なお水が出てきた。


「え!? ど、どうして!?」

「なんだ、これは! 泥水じゃなかったのか!?」


 ジョウロの中に入っているのは茶色い泥水だ。

 でも、出てくるお水は透明に澄んでいる。

 川のお水と違って、ひとりでにキラキラと輝くほどだった。


(あの泥水がこんなキレイになるなんて……)


 驚いている私たちに、アグリカルさんはろ過板を持ちながら説明してくれた。


「こいつは水の中の汚れや不純物を全て吸い取ってくれるのさ。ザリアブド山の雪解け水にも負けないくらいキレイだと、自信を持って言えるね」

「こんなすごいろ過装置なんて僕も初めて見ました! アグリカルさん、ありがとうございます! これでみんなを危険な目に遭わせなくて済みます!」

「それなら良かったよ。徹夜した甲斐があったってもんだね」


 私たちの中でも、フレッシュさんが一番喜んでいた。

 だけど、アグリカルさんは目の下にクマができている。

 いつもは疲れなんて感じさせないのに、疲労感が滲み出ていた。 


「アグリカルさん、少し休んだ方が」

「フレッシュ。アンタにはずっと世話になってばかりだからね。これくらいはなんともないよ」


 二人は何の気なしに笑い合う。

 絆の強さが見えたようだった。


「さあ、まだまだやることはたくさんあるよ! ギルドの仕事もあるからね! とっとと片付けちまうよ!」

「「はい!」」


 アグリカルさんの元気な掛け声でみんな仕事に戻る。

 そして……。


《ラララ~、おいしいご飯とおいしいお水で良いお花~》


 いつものようにお世話をしていたときだ。

 ある日突然、<歌うたいのマーガレット>が歌い出した。

 体を揺らしながら楽しそうに歌っている。

 聞いているだけで心が明るくなるような美しい歌声だった。

 私たちは大慌てでフレッシュさんを呼ぶ。


「フレッシュさん、来てください! <歌うたいのマーガレット>が歌っています!」

「おい、こいつはすごいぞ!」

「ちょっと待って、今行く!」


 フレッシュさんが大慌てで走ってきた。

 <歌うたいのマーガレット>を見ると驚愕した様子で叫ぶ。


「こ、言葉を話しているじゃないか! これは驚いた……」

「お前でも聞いたことはないのか?」

「こんな報告は今までないはずだよ。よっぽど肥料と水が良かったんだろうね」


 驚く私たちをよそに、<歌うたいのマーガレット>は楽しそうに歌っている。


《ラララ~、私は良いお花~、毎日楽しい嬉しいな~》


 その歌を聞くと、耳が離れなくなる。

 ずっと聞いていたくなるような美しい歌声だ。

 今までこんなにキレイな歌声を聞いたことはないほどだった。

 しばらく歌声に浸っていると、アグリカルさんがやってきた。


「誰だい、そんなキレイな声で歌っているのは。もっと聞きたくなっちゃうじゃないか」

「アグリカルさん! それが<歌うたいのマーガレット>なんですよ! こっち来てください!」

「なんだって!? ……こりゃあ、おったまげたね。まさか人間の言葉を使って歌うなんて」

「これもアグリカルさんが色んな道具を作ってくれたおかげですよ」


 そうこうしているうちに、少しずつラントバウ王国へ行く日が近づいてきた。

 移動中に<歌うたいのマーガレット>が枯れないよう、落葉堆肥や濾過水をたくさん用意する。

 いよいよ明日出発という夜、ギルドの酒場で宴が開かれた。

 英気を養ってほしいという“重農の鋤”からの贈り物だった。


「さあ、長旅になるからな。好きなだけ喰ってくれ」

「たくさん作ってるから遠慮しないでね」


 フランクさんとメイさんが次から次へとお料理を運んでくれる。

 みんなは楽しそうにしているけど、フレッシュさんは表情が険しかった。

 話そうとしたら、アグリカルさんが先に話しかけた。


「大丈夫かい、フレッシュ」

「あっ、すみません。ボーっとしちゃって。他の参加者のことを考えると、どうしても不安になってしまうんです」

「なに、ここまで来たらやるだけさ。できることは全部やったんだからね」


 二人は強い絆で結ばれている。

 それが何よりの武器な気がした。


「じゃあ、そろそろ寝ようか。みんな、今日はありがとうね」

「「はーい」」


 そして、宴は早めに終わり、みんな自室へ戻る。

 ベッドに入るとこれまでの日々が思い出された。

 肥料作りやキレイなお水の用意など、できることは全てやったと思う。


(いよいよ明日出発なのね……)


 “花の品評会”でフレッシュさんのご両親と戦う。

 今までのみんなの努力を見せるときが来たのだ。

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Mノベルスf様より、第1巻2022年11月10日発売します。どうぞよろしくお願いいたします。画像をクリックすると書籍紹介ページに移動いたします。 i000000 i000000 i000000
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