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【書籍化】追放された公爵令嬢ですが、天気予報スキルのおかげでイケメンに拾われました  作者: 青空あかな


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第55話:勝負

「……わかりました。その勝負を受けます」


 フレッシュさんは一呼吸置くと、静かに答えた。


「本来ならば、国外から参加するのは非常にハードルが高い。だが、私たちの方から国王陛下に口利きしておこう」

「審査は他の方と同じようにしますからね。それほどまでに農業が好きなのであれば、あなたが優勝できるはずよ。もちろん、手を抜くつもりはありませんけどね」

「はい、わかっております」


 相変わらず、彼ら三人の表情は険しい。

 すでに見えない戦いが繰り広げられているようだった。


「では、私たちはこれで失礼する」

「次会うのはラントバウ王国かしらね」


 そう言って、ルーズレスさんたちはギルドの前に停まっていた馬車に乗った。

 全体は黒っぽく、金色の装飾がセンスよく施されている。

 ルークスリッチ王国でもなかなか見ないほど、大変豪華な馬車だった。

 私たちが挨拶する間もなく、さっそうと走り出す。

 フレッシュさんは硬い表情で見送っていた。

 真っ先にラフさんとアグリカルさんが駆け寄る。


「大変だったな、フレッシュ。少し休もう」

「アンタが気に病むことはないよ。何を言われたって、フレッシュの功績はアタシが一番よく知っているよ」

「ありがとう……ございます……」


 どっと疲れた様子のフレッシュさんと一緒にギルドへ向かう。

 吹き抜ける風は爽やかだけど、不穏な気持ちは拭えなかった。


□□□


 みんなは一旦仕事をやめ、ギルドの酒場に集まった。

 先ほどのやり取りを整理するためだ。

 バーシルさんもネイルスちゃんも来ていた。

 まずは、フレッシュさんの話を聞くことになった。


「みんな、さっきはごめん」


 開口一番、フレッシュさんは謝った。


「何言ってるんだい、アンタが謝る必要なんかどこにもないんだよ」

「お前は何も悪くないだろうが」

「そうですよ。フレッシュさんが責められることはありません」


 みんなは優しくフレッシュさんを慰める。


「僕の両親は元々ストイックな性格なんです。みんなにもひどいことを言ったかもしれません……」

「私たちのことは気にしないでください。一番辛いのはフレッシュさんですから」

「アタシらはなんとも思ってないさ。たしかに、少しはイラッとしたけどね」

「お前の苦労はここにいる全員が知っているさ」


 フレッシュさんは嬉しそうに涙を拭っていた。


「それで、“花の品評会”って何なんだい?」

「ご両親は優勝する自信がすごくおありだったみたいですが」

「絶対に手を抜かないとも言ってたね」


 “花の品評会”の話に戻ると、フレッシュさんは真剣な表情に戻った。

 

「みんなも知っての通り、ラントバウ王国は農業大国なんだ。そこで、国の威厳を示すために毎年花の出来を競い合う大会がある。それが“花の品評会”さ。この大会で優勝することは大変に名誉なんだ」

「「なるほど……」」

「品評会って、どういう審査をされるんですか?」


 私は大会とかはあまり知らないけど、ルールの把握が大事なことはなんとなくわかった。


「王国から選ばれた審査員による投票だよ。彼らは一人当たり3点、2点、1点の投票用紙を持っていてね。1グループ辺り1度だけ点数を入れるんだ」

『だったら、ギルドメンバーをたくさん連れて行けばいいんだ。みんなでフレッシュに投票すればいいだろ。俺様も協力するぞ』

「なかなかそう上手くはいかないんだ、バーシル。審査員以外が投票することはもちろん禁止されている。過去にもズルをしようとした人たちがいたけどね……みんな終身刑になったよ」

「『しゅ、終身刑……』」

「それに……僕は正面から父上たちと戦いたいんです。とはいえ、これが結構シビアな大会でね。毎年激しい争いになる。どこの家も優勝目指して必死に努力をしているからね」


 フレッシュさんはポツリと呟く。

 その様子から、本当に難しい大会なのだと想像がついた。


「ルーズレスさんたちはどれくらい強いんですか?」


 彼らは大変に自信がありそうだった。

 自分たちが優勝することを信じて疑わないほどに。

 

「グーデンユクラ家は最多優勝回数を誇る家だよ。ちなみに、去年優勝したのも父上たちだった」


 やっぱり、ルーズレスさんたちは強豪の家だったのだ。

 アグリカルさんが何かを考えながら呟く。


「なるほどねぇ……でも、そこまで農業に真剣なら、フレッシュが農業をすることに賛成だと思うけどね」

「昔から、両親には貴族としての心構えを叩き込まれていまして……社交界やマナーの勉強を送る子ども時代でした。父上たちがあのような性格ですからね。家庭教師たちも非常にストイックな人たちでした。少しでも間違えると鞭で叩かれたり、冷水を浴びせられたり……父上たちも止めることはありませんでした。それが正しい教育だと思っていたようです」


 こちらまで辛い気持ちになるような身の上話だった。

 ラフさんたちも厳しい顔で俯いている。


「そのような毎日を癒してくれたのが農業でした。父上たちに隠れて花や作物育てるのは楽しかったです。初めて小さな果実が実ったときの感動は今でも覚えていますよ。それに、みんなの食も豊かにできる。こんなに素晴らしい世界があるのかと思いました」


 農業に対するフレッシュさんの原点がわかったような気がする。

 そういった辛い環境にいたからこそ、フレッシュさんは農業で人を幸せにしたいのだ。


「もちろん、父上たちの気持ちもわかります。むしろ、二人の言う通りにした方がいいのでしょう。それでも、僕は自分で農業をやりたかったんです」


 フレッシュさんは固く拳を握りしめる。


「品評会も優勝する気でいますが……正直に言って、父上たちに勝てるかわかりません。僕はまだ“重農の鋤”に……みんなと一緒にいたいです」

「「……」」


 ギルドの中を重苦しい空気が包む。

 “重農の鋤”の農業レベルはとても高いことは知っている。

 でも、相手は農業大国の、しかも大公爵家だ。

 相当厳しい戦いになることは容易に想像できる。


「私たちはずっと……フレッシュさんの味方です」


 気がついたら、自然に言葉を紡いでいた。

 そうだ、どんなことがあろうと私たちはフレッシュさんのために行動する。

 大切な仲間なのだから。


「そうだよ、アタシらがついているじゃないか。何も心配することはないんだよ」

「いつもお前に頼ってばかりだからな。たまには俺たちの力を借りてくれ」

 

 みんなが一つになるのを感じる。


「なんなら、俺が父ちゃんたちにガツンと言ってやるさ!」

「オヤジが言い負かされる光景しか思い浮かばないね」

「なんだと、メイ!」

「うるさいね、あんたたちは!」


 ギルドをアハハという笑い声が包む。

 もう大丈夫だ。


「ありがとう……みんな」

「ほら、泣くんじゃないよ。ナンバー2がそんなに泣いてるんじゃ示しがつかないだろうが」

「お前も涙もろくなったな。遠慮なく俺たちを頼ってくれ」

「みんなでフレッシュを優勝させよう」


 さっそく、“花の品評会”への準備を始めることになった。

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Mノベルスf様より、第1巻2022年11月10日発売します。どうぞよろしくお願いいたします。画像をクリックすると書籍紹介ページに移動いたします。 i000000 i000000 i000000
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