第49話:作物選び
「フレッシュさん、王国にはどんな作物を持っていきましょうか」
「そうだなぁ……<太陽トマト>はぜひ食べてもらいたいね。何と言っても、ギルドで一番人気だから」
「味ももちろんだが、できるだけ日持ちする作物にしたいな。アグリカルが保存容器を作ってくれているが」
その後、私たちは王国に持っていく作物を選んでいた。
作物の選別はフレッシュさんが執り行い、アグリカルさんは運搬用保存容器を用意してくれていた。
「みんな、これを見とくれ! 運搬用の保存箱さ!」
三人で話し合っていると、アグリカルさんが小さい箱を持ってきた。
見た所、普通の金属の箱にしか見えない。
さっそくフレッシュさんが手に取った。
「これが保存箱ですか。アグリカルさんのことですから、何か特別な能力がありそうですね」
「ああ、こいつはすごい力を持ってんのさ。ちょっと見てごらん」
アグリカルさんが箱を開ける。
すると、中から凍った<太陽トマト>がころりと出てきた。
「「え!? 野菜が凍ってます!」」
「ほぅ、こいつはすごい……」
<太陽トマト>はカチンコチンになっていて、触ると自分の指まで凍りそうになった。
「魔力を込めておくと、入れた作物を凍らせることができるのさ。これなら鮮度を保ったまま運べるはずだよ。もちろん、まだ試作型だけどね」
作物を凍らせる箱など王都でも見たことがない。
こんな物まで作れるなんて、やっぱりアグリカルさんはすごい。
フレッシュさんは納得したように手を叩いた。
「そうか! 作物は凍らせれば長く保存できるのか! 僕は全然気づきませんでしたよ」
「さすがはギルドマスターだな」
「もう少し改良を重ねれば保存時間も延ばせると思うよ。王国にはなるべく美味しいまま持っていきたいからね」
ギルドの人たちはみんな作物を本当に大事にしている。
そんな気持ちがあるから、こういう素晴らしい技術が生まれるような気がした。
「じゃあ、アタシは保存箱の改良をしてくるよ。選別の方はよろしく頼むね」
「「はーい」」
そう言って、アグリカルさんは鍛冶場へ向かっていった。
さて、とフレッシュさんが作物に向き直る。
「メイン料理として使える物、前菜に出せそうな物、あとはデザートに使える物を選んでいきたいな」
「果物ならすりつぶして、ジュースみたいにしてもいいかもしれませんね」
「まぁ、そのあたりは向こうの料理人が考えてくれるだろう。だが、なるべく調理しやすい物にしよう」
「私はこれを持って行ってほしいな」
みんなで考えていたら、ネイルスちゃんが小さなイチゴを持ってきた。
「ああ、<弾けイチゴ>。おいしいよね」
「ネイルスはそれがお気に入りだよな」
<弾けイチゴ>はその名の通り、種を噛んだらパチパチと弾けるイチゴだ。
その不思議な食感に人気があった。
「僕はぜひとも<微笑みかぼちゃ>を食べてもらいたいね。今までこんなにおいしいかぼちゃは食べたことがないよ。ふかしてもいいし、スープにしても美味しくできるはずさ」
「だったら、俺は<さくさくアスパラガス>を勧めたいところだ。歯ごたえ抜群だからな。きっとみんな驚くぞ」
思い思いの感想を述べあうのは楽しかった。
王国へは、みんなが好きな食べ物をメインに持っていくことになった。
「実際に運ぶ前に、冷凍しても味が変わらないかフランクに確認した方がいいね。大丈夫だと思うけど」
「ああ、そうだな。念のため頼もう」
作物を並べてみると結構な量になった。
保存箱の大きさにもよるけど、全部運ぶのは大変そうだ。
『おーい、何やってるんだぁ? なんか楽しそうだな』
農場の方からバーシルさんがやってきた。
「王国に持っていく作物を選んでいるんですよ。ギルドが晩餐会に招待されたんです」
「アグリカルが凍結技術を作ってくれたんだ。だから、日持ちのしない作物でも運べるかもしれん」
『へぇ、そいつはすごいじゃないか。俺様の名声もついにそこまで届いたっていうわけか』
「まったくもう、バーシルちゃんのおかげなわけないでしょ」
ネイルスちゃんにたしなめながらも、バーシルさんはご満悦といった感じだ。
二人の様子をラフさんも優しい微笑みで眺めている。
『もちろん、俺様も連れて行くんだよな』
「いや、バーシルは留守番だ。“重農の鋤”を守っていてくれ。治安は良くなってきても用心に越したことはないからな」
『なんだ、また留守番かよ~』
そう言いながらも、作物を真剣に選んでいるラフさんを見て、とある疑問が思い浮かんだ。
(ラフさんってディセント様のことが嫌いなんじゃ……?)
少なくとも、大好きではなさそうだ。
頭の中で考えていると、ラフさんも気づいたようだ。
「どうした、ウェーザ。なにか考え込んでいるようだが」
「あ、いえ……ラフさんってディセント様のことがあまり好きじゃないのかと思いまして。それなのに真剣に作物を選んでいただいてありがとうございます」
「なんだそんなことか。たしかに、あいつはいけ好かないヤツだ。けど、さすがにそこまで嫌っているわけじゃないさ」
ラフさんはハハハと笑いながら言ってくれた。
そうだったんだ、良かった……と安心する。
「ヤキモチは焼くけどね」
「ネイルス!」
やがて、準備をしているとルークスリッチ王国へ行く日が近づいてきた。
相談の結果、アグリカルさん、フレッシュさん、ラフさん、そして私の4人で行くことになった。
ギルドメンバーのみんなが見送ってくれる。
特にバーシルさんとネイルスちゃんは残念そうにしていたけど、笑顔で手を振ってくれていた。
「アタシらがいない間、“重農の鋤”を頼んだよ」
「だいぶ治安は良くなってきたが、十分用心してくれよな」
「任せといて! 何があっても私たちが絶対に守るから!」
『俺様がいれば心配することはなにもないぞ。安心して行ってこい』
ネイルスちゃんとバーシルさんはふんっ! と気合が入っている。
そんな彼女らを見ると元気が出てくるようだった。
「ロファンティにいる衛兵にも声をかけておきましたから、何かあったら助けを呼んでくださいね」
「『はーい』」
ギルドが用意してくれた馬車に乗り込む。
御者はラフさんとフレッシュさんが担当してくれた。
私とアグリカルさんは作物が落ちないよう支える役割だ。
「「それじゃあ、行ってきまーす!」」
「『行ってらっしゃーい!』」
ギルドのみんなと別れて歩き出す。
「アタシはなんだかんだ言って楽しみになってきたよ。ウェーザが生まれ育った国だからね」
「僕も楽しみですよ。ロファンティに来てから、外に出ることはほとんどなかったですから。またディセント様王子に合うのも楽しみです」
二人はワクワクしている。
この旅が楽しい思い出になればいいなと思った。
「とりあえず、ディセントは要注意人物だ」
急に硬い表情になったラフさんを見て、空にアハハという笑い声が響く。
私たちは王国への道を踏み出した。




