第5話:辺境の街は
「……おい、何をそんなに怒ってんだよ」
「怒ってません!」
ラフさんに連れられ、ずかずかと路地裏を歩く。
くさ……ではなく、香りが強いと言われたことはそう簡単には許せなかった。
「なんで機嫌悪くなってるんだよ。よくわかんねえなぁ」
ラフさんは不思議そうな顔で呟いている。
「いいですか、ラフさん。女の子に、く……いなんて言っちゃダメですよ。デリケートな問題なんですから」
「そうかぁ。デケリ……デチリケートねぇ」
懸命に話したけど、話半分にしか聞いていないようだ。
全然反応が薄いので途中で諦めた。
「はっくしゅん! す、すみません」
急に体が寒くなってきて、思いっきりくしゃみをする。
日が落ちて徐々に気温が下がっていた。
路地裏は石畳なので、足元からも冷えてくる。
服も破かれたせいで結構寒い。
身体がブルブル震え鼻水まで垂れてきた。
「お前なぁ、寒いんなら寒いって言えよ。ほら、これ着てろ」
ラフさんがバサッと乱暴にマントを渡してきた。
生地はザラザラしているけど、とても柔らかい。
なぜだか、裏にはかわいい動物たちの刺繍がしてあった。
「え? いいんですか?」
「だから、それ着てろって言ってるだろ。寒いんじゃねえのかよ」
ラフさんは無骨な雰囲気だけど、とても優しく気遣ってくれる。
「さ、寒いです。でも、ラフさんが風邪ひいちゃったら大変ですから……」
「俺は平気だ」
強がりじゃなく、本当に寒くなさそうだ。
着ている服は薄そうなのに鳥肌一つ立っていない。
私より身体が丈夫そうで羨ましかった。
お言葉に甘え、ラフさんのマントを羽織る。
「あったかい……」
ふわふわしているマントにくるまっていると、身体がポカポカしてきた。
「俺たちのギルドはもうちょっと先にあるからな。離れるんじゃねえぞ」
路地裏を進んでいると少し大きな通りに出た。
改めて見ると、街の雰囲気は王都と全然違う。
豪華な家はまったくないし、道にはゴミが落ちたりしていた。
もちろん、貴族みたいな人は一人もいない。
その代わり、鎧を着ていたり剣や槍を持っている人がたくさんいた。
「あの、ラフさん。街を歩いているのは、ほとんど冒険者なんですか?」
「だいたいはそうだ。中にはガラの悪いヤツもいるがな。ロファンティの周りにはモンスターが多いんだよ。最初は腕自慢の野郎どもが集まって、自然とギルドやら何やらができていったん
だ」
「へぇ、そうだったんですか。だから怖そうな人たちもいるんですね」
街を眺めていたら、あることを疑問に感じた。
「ラフさんもそんなに強いのなら、有名な冒険者なんですか? 剣を持っている相手を素手で倒してましたし」
素人の目から見ても、ラフさんの動きは一流だった。
もしかしたら、名の知れた人かもしれない。
「まあ……な」
何となく話したくなさそうだったので、それ以上聞かなかった。
やがて、大きな建物が見えてきた。
ラフさんはその前で立ち止まる。
「ウェーザ、着いたぞ。ここが農業ギルド"重農の鋤"だ」
「ここが"重農の鋤"……」
重厚感がある木造の建物だった。
三階建てでかなり頑丈そうだ。
入口の上には、鋤の大きな装飾が掲げられている。
ラフさんのグローブと同じデザインだった。
そして、建物の後ろには広大な畑が広がっている。
(農業ギルドって、どんなところなんだろう)
これまでの人生で、ギルドに入ったことなどない。
それどころか、ギルドに出入りするような人と関わったこともなかった。
怖い人ばかりだったらどうしよう、お前なんか出て行けと言われたらどうしよう、と嫌な想像ばかりしてしまう。
「じゃあ、中に入るからな」
「え? は、はい!」
倒れそうなくらい緊張してきた。
心臓がうるさいくらいドキドキしている。
ラフさんは私を認めてくれた。
だけど、ギルドの人たちはまだわからない。
(ラフさんみたいに、私を受け入れてくれるかな)
私の心配などいざ知らず、ラフさんはガチャリと扉を開けた。




