第39話:私の大事なお姉ちゃん(Side:ネイルス①)
「ウェーザ・ポトリーって言います。よろしくね、ネイルスちゃん。さっきはごめんなさい。言い訳になっちゃうけど、事情を知らなかったの」
(この人は誰だろう? とてもキレイ……ギルドの新しい人かな?)
ウェーザお姉ちゃんと初めて会った日も、私は部屋に閉じこもっていた。
お日さまが怖いから。
強い日光に当たると身体が痛くなってしまう。
"破蕾病"っていう珍しい病気なの。
気がついたときには、お外に出るのをやめていた。
空がいつ晴れてくるか怖い。
病気を治すには<さすらいコマクサ>という植物から作った薬が必要なんだって。
お兄ちゃんたちが一生懸命探してくれているけど全然見つからない。
「この人はすごいんだぞ。天気がわかるんだぜ」
そんなお兄ちゃんが嬉しそうに言っていた。
(どういうことなんだろう? 魔法使いみたいな人なのかな?)
それから、私たちは一緒に過ごすことが多くなったね。
ウェーザお姉ちゃんはスキルで天気がわかるって聞いた。
しかも、100%当たるって。
最初は信じられなかったよ。
だって、そんなすごい力が世の中にあるとは思えなかったから。
「ネイルスちゃん、農場を見てごらん。バーシルさんがいるよ」
(かわいいな)
ある日、"重農の鋤"にやってきた魔狼のバーシルちゃん。
お兄ちゃんが連れてきた。
モンスターに襲われそうになっていたところを助けてあげたんだって。
お外で一緒に遊びたかったけどなかなかできなかった。
それでも、だんだんお外に出られるようになった。
これもウェーザお姉ちゃんのおかげだね。
ここだけの話、バーシルちゃんはウェーザお姉ちゃんのことばっかり話しているよ。
「ねえ、今度の満月の日、みんなでムーンボウを見に行ってみない? その日は小雨が降るから、運が良かったら虹が出ると思うわ」
(虹かぁ、また見たいな)
外の世界は思ったより広かったんだね。
ウェーザお姉ちゃんは一度も天気を外さなかった。
すんごい細かいところまで合ってるんだから驚いてばっかりだったよ。
そのうち、窓の近くなら行けるようになった。
ウェーザお姉ちゃんの予報は絶対当たるから、雨の日や曇りの日とかは安心して過ごせた。
「今日はやめて、また今度にする?」
(やっぱり、ウェーザお姉ちゃんは優しいな)
ムーンボウの日、私はこれまでにないくらい頑張っていた。
ウェーザお姉ちゃんと過ごしているうち、外に出たいと強く思うようになっていた。
今までは、心のどこかで諦めていたのかもしれない。
もう怖い気持ちは消えていたし、応援してくれている人たちのためにも外に出たかった。
みんなで見たムーンボウは本当にキレイだったね。
大きくなっても絶対に忘れないよ。
「うん、<さすらいコマクサ>を探しに行くのよ」
(<さすらいコマクサ>……)
それからしばらくして"重農の鋤"に情報が入ってきた。
旅の商人たちがザリアブド山の頂上で咲いてるのを見たらしいの。
ウェーザお姉ちゃんとお兄ちゃんが探しに行ってくれるって。
でも、おっかないモンスターがいるって聞いたことがあるよ。
お兄ちゃんがいるから大丈夫だと思うけど……。
「行ってきます!」
(気をつけてね、ウェーザお姉ちゃん! 危なくなったら、すぐに帰ってくるんだよ!)
私は笑顔で送り出したけど本当は心配だった。
もちろん、お兄ちゃんもいるけど相手はモンスターだから何をしてくるかわからないわ。
ウェーザお姉ちゃんたちが帰ってくるまで毎日お祈りしていたよ。
<さすらいコマクサ>が見つからなくても、ケガとかしなければそれで良かった。
「ただいま帰りました」
(ウェーザお姉ちゃんの声だ!)
少ししてひょっこり帰ってきたね。
急いで下りるとウェーザお姉ちゃんたちがギルドの入口に立っていた。
大きなケガもしてなさそうだし本当に良かったわ。
そして、ウェーザお姉ちゃんたちはちゃんと見つけてきてくれたんだね。
私のために怖い山まで行ってくれて、ウェーザお姉ちゃん、お兄ちゃん、本当にありがとう。
「ふふっ、ありがとうございます。私も……ラフさんのことがとても大事です」
それにしても、二人にはヤキモキさせられるね。
さっさとくっつけばいいのにって、みんな思っているよ。
ようやく結ばれそうになったとき、あのディセントって人が"重農の鋤"にやってきた。
「ディセント様、ウェーザ・ポトリーでございます」
(あの人って、王子様!?)
私、王子様って初めて会ったよ。
お付きの人たちもたくさんいて怖いくらい威厳がある人だった。
ルークスリッチ王国って名前は私も聞いたことがある。
そういえば、ウェーザお姉ちゃんは他の人たちと違う雰囲気があったね。
王子様と繋がりがあるなんてびっくりしたよ。
でも、どうしてこんなところに来たのか、そのときはまだわからなかった。
「……王国に戻って来てほしいって言っていました」
("重農の鋤"からいなくなっちゃうの……? そんなのヤダよ)
どうやら、王子様はウェーザお姉ちゃんを探していたみたい。
こんなにすごい人は、代わりがいないんだろうね。
他に天気予報できる人がいないんだって。
国民の人もみんなウェーザお姉ちゃんの帰りを待っているらしい。
たぶん、ウェーザお姉ちゃんじゃないとダメなんだと思う。
だから、ひとり占めすることはできないの。
でも、やっぱり……私はウェーザお姉ちゃんと離れたくないよ。




