第35話:天気予報士のウワサ(Side:ディセント②)
「クソっ、いったいどこにいるんだ!」
僕たちは王国からだいぶ離れた街にいた。
今日の捜索を終え、大衆向けの酒場で休んでいる。
残念なことだが未だに成果はゼロだ。
探しても探してもウェーザさんが見つからない。
少しでも繋がりのありそうなところは全て探した。
ポトリー家の遠縁や彼女の実母の知人など、上げればキリがないほどだ。
「ディセント様。これだけ探しても見つからないということは、やはりウェーザ嬢は……」
「そろそろ王都に戻られた方がよろしいのではないでしょうか」
「国王様も王妃様もご心配でいらっしゃいます」
騎士隊は諦めムードでいっぱいだった。
無理もない。
これだけ探してもどこにもいないのだから。
「ウェーザさん……あなたはどこにいるのですか……!」
それでも諦めきれなかった。
王国の安定には彼女の力が必要だ。
しかし、これ以上はもう無理かもしれない。
騎士隊は疲れ果てている。
もちろん、僕だってそうだ。
みんな心身ともに限界だった。
「ディセント様。お気持ちはよくわかりますがここは一旦出直しましょう」
「ずっと国外にいるのも危険でございます」
「もしかしたら、国内で同じようなスキル持ちが見つかっているかもしれません」
騎士隊の言うように、一度王都へ戻る方がいいかもしれない。
自分たちの身の危険もあった。
ウェーザさん探しの途中、山賊や盗賊なんかの襲撃を何度も受けていた。
いくら騎士隊が手練れとはいえ、疲労が溜まった状態では危ない。
ウェーザさんも大事だけど騎士隊も大切な部下だ。
彼らに何かあったらそれこそ王の資格が問われる。
「……そうだな。しかたがない、王宮に帰るか。僕は自分の無力さがうらめしいよ……」
ノロノロと立ち上がり店の出口へ向かう。
歩き疲れもあるだろうがやけに足取りが重かった。
父上たちに残念な報告をすると思うと気持ちが沈む。
(やっぱり、ウェーザさんは死んでしまったのだろうか……)
「ディセント様は大変努力なさいました」
「むしろ、よくここまで頑張られたと思います」
「国王様もわかってくださいます。体力を回復したら再度探しに行きましょう」
騎士隊が励ましてくれるが、僕の心が明るくなることはなかった。
「うむ……」
あとは国内のスキル探しにわずかな望みを賭けるしかない。
店のドアに手をかけたときだった。
酒に酔った客の話し声が聞こえてきた。
ざわついた酒場の中でも、不思議と耳に入ってくる。
「おい、聞いたか!? "重農の鋤"にいる魔女の話!」
「はあ? "重農の鋤"? なんだそれ」
「ロファンティにある農業ギルドだよ! そこに魔女がいるんだってさ!」
彼らが話しているのは、ここから少し離れた辺境の街のことだった。
ウェーザさんとは関係ない話なのに、なぜかドアにかけた手が動かない。
「魔女? そんなのどこにでもいるじゃねえか。女の魔法使いだろ」
「違うんだよ! その魔女は天気がわかっちまうんだってよ!」
天気がわかると聞いて、今までの疲れが吹っ飛んだ気がした。
騎士隊もハッとしたように彼らを見る。
「ああ、はいはい。そういえば、そういうウワサがあったな。天気予報でレアな野菜育てるのを手伝ってるんだっけ? よくやるよ。でも魔女じゃなくて、ただのスキル持ちだろ。お前はそんなこともわかんねえのか」
「すげえよなぁ! 天気が100%わかるなんてよぉ! それだけで一生食っていけるんじゃねえ?」
男たちはのんきにギャハハハと笑っている。
僕は居ても立っても居られなくなった。
「「ディセント様! おやめください!」」
大慌てで彼らのテーブルに行く。
「お前たち! 今の話を詳しく聞かせろ! 天気のわかる魔女とは誰のことだ!? どこにいる!?」
ダンッと勢いよくテーブルに手をついた。
男たちは僕を品定めするように見ている。
「あぁ? どうした、兄ちゃん。ずいぶんと威勢がいいね」
「ここいらじゃ情報は金になるんでね。タダじゃ教えてやれねえなぁ。それ相応の対価ってヤツを払ってもらおうか」
男たちはヘラヘラしている。
ウェーザさんに関わるような情報は一刻も早く知りたい。
グイッと彼らの胸倉を掴み上げた。
幼い頃から訓練しているのでこれくらい造作もない。
「うわぁ! なんだ、こいつ!」
「ぐっ、なんて力だ!」
空中でジタバタと足を振っているが、腕の力は少しも緩めない。
「どうした! 早く教えるんだ! もっと締めつけてもいいんだぞ!」
男たちを持ち上げたまま問いただした。
とにかく早く知りたいのだ。
ギリギリと締め上げていく。
「がはっ! だ、誰か助けてくれ!」
「び、びくともしない! く、苦しい! 助けて!」
僕らを見て騎士隊が大急ぎでやってきた。
「ディセント様! おやめください!」
「目立つようなことはなさらない方が良いです!」
「どうか、その手をお離しください!」
騎士隊が僕を引き剥がそうとするが、構わず男たちに問いかける。
「言え! 言うんだ! さもないと……!」
「に、兄ちゃんっ! 悪かった、勘弁してくれ! 話す……話すよ!」
「な、何でも話すから下ろしてくれよ!」
男たちをドサッと落とした。彼らはゼイゼイハアハアと荒い息をしている。
「その女の名前はなんだ!?」
「ゴホっ……し、知らねえよ」
「天気がわかるヤツがいるってことしか知らねえんだ」
こういう輩は大したことを知らないくせに大きな態度を取る。
せめて、決定的な情報だけでも手に入れたい。
「その者の髪は何色だ!?」
僕が望む色はたった一色だった。
「あ、赤だよ! めっちゃキレイな赤色らしい!」
「それ以外は知らねえ! 頼むから見逃してくれ!」
男たちは一目散に逃げて行く。
赤色と聞き心の中で神に感謝した。
(見つけた……! やっと、見つけたぞ!)
嬉しくて叫び出しそうだった。
急いで騎士隊に指示を出す。
「お前たち! 大至急ロファンティに行くぞ! 目指すは"重農の鋤"だ!」
「「はっ!」」
僕たちは馬に乗り全速力で走り出した。
ようやく、ウェーザさんの手がかりを見つけたのだ。




