第31話:探し人(Side:ディセント①)
(さて……あの人たちのおかげで、とんでもないことになってしまったな)
兄さんたちを監獄へ閉じ込めて、ようやく国民の怒りはおさまった。
今、父上たちは国の重鎮を集め緊急の会議を開いている。
今後の方針を決めるためだ。
「皆の者には迷惑をかけたな。プライドたちの件はこれにて終了とする」
「とことん反省してもらいましょう」
「国王様、スタミーニ大臣から怒りのお手紙が届いております」
大臣が一通の文書を差し出す。
(やけに分厚い手紙だな。あの愚かな二人はスタミーニさんを相当怒らせたと見える)
思った通り、父上たちは中身を見ると顔をしかめた。
「スタミーニ大臣はずいぶんと怒っているようだ。今後、我が国を訪れるつもりはないと書いてある」
「困りましたわね。ネイバリング王国とはこれからも仲良くさせていただきたいのに」
みんなで頭を悩ませる。
友好国との良い付き合いもまた国の安定には重要だ。
「ネイバリング王国との関係は我輩たちでどうにかするしかないな。我輩と王妃が謝罪に行くしかあるまい」
「すぐに訪問の日程を組みましょう。腕の立つ医術師も何人か連れて行きましょうか」
(まぁ、そうなるだろう。これは父上たちに任せておけば大丈夫そうだ)
スタミーニ大臣の一件は父上たちが対処することになったが問題はまだある。
天気予報をどうするかだ。
むしろ、こちらの方が難題だった。
大臣たちも相変わらず心配そうな顔だ。
「しかし王様、天気予報はどうしましょう?」
「ウェーザ嬢を出せという声が国中からあがっています」
「騎士隊の演習などにも支障が出始めております」
(天気がわからないのはかなり困るぞ。どうしたものかな)
ウェーザさんがいない今、これは一番の悩み事だった。
毎日の生活を送る上で天気の情報は必要不可欠だ。
もちろん、アローガさんに任せるなんてもってのほかだった。
「ふむ、スキル探しの方はどうなっている?」
「ウェーザさんのようなスキルを持つ人は見つかりましたの?」
その後、国を挙げてのスキル調査が行われていた。
ウェーザさんの代わりを見つけるためだ。
だが、いくら探しても【天気予報】スキルは見つからない。
「それが【天気予報】などというスキルは大変珍しいらしく……」
「ただの一人も見つけられておりません……」
「これ以上探しようがないほど探してはいるのですが……」
大臣たちが申し訳なさそうに言った。
天気予報どころか天気に関するスキルすら見つからないのだ。
(やっぱり、彼女のスキルは貴重だったんだな。長い国の歴史でウェーザさんしかいなかったくらいだから)
「そうか……まいったな」
「どこかに天気がわかる人はいませんかしらね」
父上たちはとても悩んでいる様子だ。
僕にはずっと考えていることがあった。
「父上、母上。ここはやはりウェーザさんを探すべきだと思います。もちろん、スキル探しも大事です。ですが、仮に見つかったとしてウェーザさん並みの力とも限りません」
「うむ、それはそうなのだが……ウェーザ嬢はもう死んでいるかもしれんぞ」
「どこに行ったのか誰もわからないの。姿を見たって人も全然いないわ」
(まったく、迷惑なことをしてくれた。ウェーザさんに何かあったらどうするんだ)
国の中で、ウェーザさんはすでに死んだものとして扱われている。
出国履歴は全て調べて、国を生きて出ていったことは確認できた。
しかし、わかったのはそこまでで、行き先や生死などは不明だ。
また、貴族令嬢が一人で生きていくのは不可能だとみんな考えていた。
王国内ならいざ知らず、ましてや国外追放だ。
山賊や盗賊に襲われてもう死んだと考えられていた。
「私が必ず探し出して見せます」
だとしても、僕にはウェーザさんが死んでいるとは思えなかった。
生存している保証なんてどこにもない。
だが、何もしないよりはマシなはずだ。
もしかしたら、まだどこかで生きているかもしれない。
国外へ捜索の手を広げる前に、同盟国へウェーザさんの入国履歴を確認できたらいいが、追放理由があまりにも理不尽すぎる。
そんな経緯で追い出した人物を探しているなど、国の恥になってしまうから自力で探すしかなかった。
「ううむ、お前の気持ちもわかるが……」
「ウェーザさんはもう亡くなってしまったのではないかしら」
父上たちも諦め顔だ。
悲しみを湛えた瞳から、ウェーザさんを思う気持ちが伝わってくる。
「お願いします、父上母上! 天気を100%予報するなど彼女にしかできないのです! ウェーザさんの捜索は私が指揮します! どうか許可を!」
必死になって頼み込んだ。
これは国の安定に関わる、極めて重要な問題だ。
少しでも生きている可能性があるなら、それに賭けたい。
「わかった。そこまで言うなら任せよう」
「でも、あまり大人数は連れていけないわよ」
「ありがとうございます、父上母上。必ずや見つけ出してみせます」
王国内のスキル探しは継続されるので、ウェーザさん捜索隊の人数は限られている。
それでも十人は確保できた。
さっそく、城の前で鼓舞する。
「いいか? 手当たり次第にウェーザさんを探すんだ! 人が多いところ少ないところ、構わず探し尽くせ! 草の根をかき分けてでも見つけろ! ウェーザさんはこの国にとって本当に必要な人だ!」
「「はい!」」
捜索隊に力強く命じた。
みんな、ウェーザさんがどれほど大切な人かは言わなくてもわかっている。
ルークスリッチ王国のためにも、彼女には何としても戻ってきてほしい。
(絶対にウェーザさんを見つけるぞ!)
そして、僕たちはウェーザさん探しの旅に出た。




