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第3話:新たな出会い

「や、やっと着いた……疲れた」


 何日も歩きに歩いてロファンティに行き着いた。

 王都とまったく違う雰囲気の街だ。

 道は舗装されていないし空気は土っぽい。


(だけど、何だか明るい街だな)

 

 道行く人々は笑顔で元気そうだった。

 商店街からは威勢のいい声が聞こえ、街全体が活気にあふれている。

 思ったより、ここは過ごしやすそうだった。


 ――ぐぎゅるるる。


(お、お腹すいた……)


 歩きどおしで食べ物はおろか、水もろくに飲んでいない。

 お金だって底をついていた。

 重い足取りで街の中をさまよう。

 空腹のため倒れそうでフラフラだ。

 歩いていると、料理屋さんから良い匂いがしてきた。

 引き寄せられるようにお店へ入る。


「あ、あの……」

「いらっしゃい、お嬢ちゃん! 何食べる? 何でも作れるよ!」

 

 はつらつとしたおばさんが出てきた。

 たぶん、店主だろう。


「申し訳ないのですが、食べ物を分けてくれませんか? ずっと何も食べていないのです」

「何だい! お金がないんなら何も出せないよ! お断りだね! ほら、出てってくれ!」


 パッパッと手を振られ、雑に追い払われてしまう。

 でも、懸命に食い下がった。


「私には明日の天気がわかるんです。あなたに天気予報をお教えしますから、どうか食べ物を……」


 お金がないので、スキルで何とかするしかない。


「うるさいね! 明日の天気なんてどうでもいいよ! いつまでそこにいるんだい! あんたに渡す食べ物なんかないよ!」

「ご、ごめんなさい!」


 乱暴に追い出されてしまった。

 店にいた客たちも私を嫌そうな顔で見ている。


(天気なんてどうでもいい……か)


 今まで頑張っていたことが否定されたみたいで悲しかった。

 泣きそうになったけど涙を流す気力すらない。

 少し道を進んでみたけど、疲れ切って裏路地に座り込んでしまった。

 ぐったりして力が出ない。


(天気予報以外に取り柄のない私は、この先どうやって生きればいいんだろう)


 胸が惨めな気持ちでいっぱいになった。

 天気予報なんかじゃここでは生きていけないのだ。


「おっと、女の子発見~。しかも、なかなか美人なんじゃねえの?」

「たまには街に出てくるもんだな。こういうカワイ子ちゃんに会えるんだからさ」

「ラッキー、掘り出し物ゲットだぜ。逃げないでくれよ~」


(え?)


 気がついたら、三人組の男に囲まれていた。

 皆、屈強な身体をしている。

 見るからに怪しい人たちだった。


「あ、あなたたちは誰ですか!?」


 周りには人の気配が全然ない。

 今さらながら、自分の置かれている状況に身の危険を感じた。


「お嬢ちゃん。こんなところにいたら危ないよ~? おっかない大人もいるからねぇ~」

「人攫いだっているんだぜ? まぁ、俺たちは違うんだけど。迷える女の子たちを保護しているのさ」

「おっ、赤色の髪なんて珍しいな。こいつは高く売れるぞ」


 男たちは私に触ろうとしてくる。

 これまで感じたことがないくらいの不快感を覚えた。


「や、やめてください! 触らないで!」


 思いっきり振り払おうとしたけど、お腹が空いて力が入らない。

 いとも簡単に腕を掴まれてしまった。

 ぐいっと引っ張られる。


「抵抗しちゃってかわいいなぁ。そんなに怒らなくてもいいじゃんよ」

「どうせ、行く当てすらないんだろうに。俺たちがいい所に連れてってあげるよ」

「おい、あんまり傷つけるなよ。大事な商品になるんだから」

 

 男たちの大きな腕輪には、特徴的な模様が描かれていた。

 王都では同じような腕輪をした人を見つけては捕まえている。


(こ、この人たちは奴隷を売る人だ!)

 

 自分が何をされるのか嫌でもわかった。


「やめて! ちょっと、離して! 誰か助けて!」


 手を振り回して必死に暴れる。

 ここで捕まったら人生が終わってしまう。


「おいおいおい、抵抗するとひどい目にあわせるぞ。優しくしているうちに言うこと聞いた方がいいと思うけど」

「連れ去る前に楽しもうや。その方がおとなしくなるって」

「さんせ~い、ちょっとくらいなら良いだろ。なんか、俺もめんどくさくなってきた」

 

 何の躊躇いもなく、着ている服をビリッと破かれ腕がむき出しになる。


「いや!」


(もうダメだ!)


 覚悟を決めて目をつぶった。そのとき……。


「おい、やめろ」


 野太い声が聞こえてきた。

 声がした方を見ると大きな男性が立っている。

 ちょうど、奴隷商人たちの後ろだ。


(え? だ、誰?)


 背は彼らよりも高いが、逆光で顔は見えなかった。


「ああ? 何だよ、お前。俺たちが誰かわかってんのか?」

「邪魔すんじゃねえよ、いいところなんだからさ」

「外野はすっこんでな。お前も痛い目にあいたいのか?」


 奴隷商人たちは構わず私に手を伸ばしてくる。

 下品に笑いながら私を見ていた。

 嫌悪感と恐怖とで背筋がゾッとする。


「へへへ、お楽しみタイムだ。こいつは俺好みのタイプだな。なかなかに上玉の顔をして……がっ!」


 もはやこれまでと思ったときだった。

 手を伸ばしてきた人が勢いよく吹っ飛んだ。

 路地の奥の方でピクピク痙攣している。

 何が起きたのかわからないほどの一瞬だった。


「だから、やめろって言ってるだろうが」


 さらにもう一度、野太い声が聞こえた。

 声だけでもまったく動じていないのがわかる。


「てめえ! 何しやがる! もう容赦しないからな!」

「調子に乗ってんじゃねえぞ!」


 奴隷商人たちはスラリと剣を抜いた。

 その一方で、大きな男の人は丸腰だ。

 力に自信がありそうだけど、武器もないんじゃ勝ち目はない。

 奴隷商人たちはニタニタ笑っている。


「武器も持たないとは、いい度胸……ごっほ!」


 瞬きしたら、奴隷商人の腹へ男の人の拳が食い込んでいた。

 そのまま拳を引くと、奴隷商人はドサッと地面に倒れこむ。

 目が追いつかないほどの早業だった。


「す、すごい!」


 思わず驚きの声を上げてしまった。

「て、てめえは、な、何者だ!?」


 最後に残った奴隷商人はビクビク震えている。

 さっきまでの血気盛んな感じは、どこかに消えてしまっていた。

 よく見ると、男の人は飾りのついたグローブをはめている。

 陽の光を受けて装飾がキラリと光った。


(あれは……鋤?)


 農工具の鋤みたいな紋章が刻まれている。

 装飾に気づくと、奴隷商人は態度が一変した。


「も、もしや……てめぇ! "重農の鋤"のラフか!?」


 全身がブルブル震え、顔は真っ青だ。


「ああ、そうだが」

「ひ、ひいいいい! 頼む、勘弁してくれええ!」


 奴隷商人は仲間を引きずりながら走り去っていった。

 あっという間に、路地から見えなくなる。

 あまりの出来事に言葉も出なかった。


「おい」

「は、はい!」


 ラフと呼ばれていた男の人が私に近づいてくる。

 とても威圧的なオーラだった。

 思わず、最悪の事態を考えてしまう。


(も、もしかして、この人も奴隷商人なんじゃ)


「大丈夫か、お前?」


 どうやら、無駄な心配みたいだった。

 私の前に無骨で大きな手が差し出された。

 ホッと一息つく。

 危機は去ったのだ。

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Mノベルスf様より、第1巻2022年11月10日発売します。どうぞよろしくお願いいたします。画像をクリックすると書籍紹介ページに移動いたします。 i000000 i000000 i000000
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