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【書籍化】追放された公爵令嬢ですが、天気予報スキルのおかげでイケメンに拾われました  作者: 青空あかな


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第27話:旅の準備

「ラフさん、他に必要な物はありますか?」

「そうだな、そこに置いてあるロープを取ってくれ」


 その後、農作業の合間を縫って登山の準備を進めている。

 温かいマント、十分な食料、簡単なテントなど、色んな道具が必要だった。

 山登りのことはあまりわからないので、基本的にラフさんの手伝いをしている。


「それにしても、ラフさんはさすがですね。とても手際が良いです」

「まぁ、慣れてるからな」


 きっと、何度も山に登っているのだろう。

 つまり、それだけ<さすらいコマクサ>は見つけるのが難しいということだ。

 ラフさんが荷物をしまっているのを見てあることに気がついた。


(あっ、私はカバンとか持ってない)


 身一つで王都から出てきたので、登山に使えそうな物は何も持っていない。


「ウェーザ、受け取れ」


 買いに行こうか迷っているとラフさんが何か持ってきた。

 少し大きめのカバンだ。


「あの、これはなんですか?」

「お前専用に作ったバックパックだ。ちょっと背負ってみろ」


 背負ってみると私にピッタリのサイズだった。

 大きいのに驚くほど軽い。

 布地もしっかりしていて見た目以上に頑丈そうだ。


「す、すごい背負いやすいです」

「そうか、なら良かった。お前に渡す物は他にもまだあるんだ」


 ラフさんはそれとは別にいくつかの道具をくれた。

 がっしりとした靴にフードのついている服だ。

 どちらも普段使いの物とは違うデザインだった。


「わぁ……二つとも素敵ですね」

「これは登山靴と雨よけのコートだ。着てみてくれ。シューズは靴擦れしないように、コートは雨を弾くように魔力を込めているぞ」


 これまた私にピッタリだった。


「ありがとうございます、ラフさん! これも【裁縫】スキルで作ってくれたんですか?」

「う、うむ……まぁ……そんなところだな。俺は寸法を取らなくても服とか作れるんだ」


 結局、私の道具はほとんどラフさんが用意してくれていた。


「すみません、何から何までしていただいて……」

「いや、礼には及ばない。ウェーザの力に頼ることになるだろうからな。どうしても、お前の【天気予報】スキルが必要なんだ。ウェーザがいれば<さすらいコマクサ>の動きを予想できるはずだ」

「そうですね。私の力が役に立ちそうです」


 天気がわかると言っても、山の空模様はかなり変わりやすい。

 常に魔力を使って風や空気の動きを見ておく必要がありそうだ。


『おい、ザリアブド山に行くんだってな!』


 準備しているとバーシルさんがやってきた。


「お前は留守番だ。俺たちがいない間農場を守れ」

『なんだよ! また留守番かよ!』


 留守番と言われ、バーシルさんはプンスカしている。


「こら、バーシル。わがままばっかり言うんじゃない」

「ウェーザお姉ちゃん、出かけるの?」


 そのうち、ネイルスちゃんも近寄ってきた。

 心細そうな顔をしている。


「うん、<さすらいコマクサ>を探しに行くのよ」

「私の病気の薬?」

「ああ、そうだ。絶対にお前の病気を治してやるからな」


 ラフさんはネイルスちゃんを撫でながら力強く言った。


(私も頑張らなくちゃ)


 せっかくのチャンスを無駄にはできない。

 気合を入れるためグッと両手を握りしめた。


「「かんぱーい!」」


 カチン、カチンとコップがぶつかり合う。

 準備が一通り終わると、"重農の鋤"で宴が開かれた。

 酒場のテーブルにはたくさんのごちそうが並んでいる。


「ラフさん、どうして宴なんですか?」

「この地域では、山に誰かが登るときはこうして送り出すのが習わしなんだ。昔は今ほど道具が発展してなくてな。帰って来られないヤツも多かった。だから、後悔しないようごちそうを存分に振る舞う習わしが残っているのさ」


 やっぱり、登山には危険が付き物なのだ。

 身が引き締まる思いだった。


「やあ、楽しんでるかい? ウェーザさん、ラフ」

「ほら、ラフ。アタシとフレッシュからの餞別さ」


 アグリカルさんがラフさんに小ビンを渡した。

 手の平サイズの鳥かごみたいだ。


「ん? これは何だ?」


 ラフさんは不思議そうな顔で、小さなドアを開けたり閉めたりしている。


「<さすらいコマクサ>を保管する入れ物だよ。アグリカルさんの魔力がこもっているから、枯れるスピードが遅くなるはずさ」

「ずっとフレッシュと作っていたんだけどね。ようやく完成したさね。おまけに丈夫だよ」

「なるほど、ありがたい餞別だ」


 納得した様子でラフさんは大事そうにしまった。


「ウェーザにはこれをあげるよ」


 アグリカルさんは長い棒をくれた。


「私にも何かいただけるんですか? ありがとうございます。もしかして……これは杖ですか?」


 老紳士の方が使いそうな杖みたいだけど先っぽが尖っている。

 細くて軽いのに力を入れても全然曲がりそうになかった。


「登山するときはステッキがあった方が楽さね。杖の先は鋭く作ってあるから、モンスターに襲われたら振り回すと良いよ」

「アグリカルさん……ありがとうございます」


 特製のステッキを静かに握る。

 みんなのおかげで不安な気持ちが少し和らいだ。

 ひとしきりご飯をいただくと宴はおしまいになった。

 傍らのネイルスちゃんは半分寝てしまっている。


「う~ん、むにゃむにゃ……」


 頑張って起きようとしているけど、瞼が重そうだ。


「ネイルスちゃんは眠そうですね」

「しょうがない、俺が部屋に連れて行くか」

「疲れちゃったんでしょう。私もそろそろ寝ます」


 ラフさんはよっこいしょとネイルスちゃんをおんぶした。

 こうしてみると、本当にまだまだ子どもだ。

 それだけに身体に浮き出ているツタ模様がかわいそうでならない。


「おやすみ、ウェーザ。また明日な」

「おやすみなさい、ラフさん。ネイルスちゃんもね」

「ウェーザお姉ちゃん……おやすみ……」


 ネイルスちゃんは寝ぼけながらも挨拶してくれた。

 二人を見送って私も部屋に入る。

 ベッドに横たわると、色んなことが思い返された。


(この旅が一つの節目な気がするな)


 "重農の鋤"に来てからギルドを離れるのは初めてだ。

 ロファンティの街に行ったことはあるけど、今回はまるで違う。

 あれこれ考えていると、だんだん心細くなってきてしまった。

 ましてや、本格的な登山なんて一度もしたことがないのだ。


(いや……きっと大丈夫。だって、ラフさんがいるんだから)


 ラフさんがいれば怖い物なんて一つもない。

 そんなことを思っているうちに、いつの間にか眠っていた。



 翌朝、ご飯を済ますとすぐに出発の時間になった。

 私とラフさんはギルドの前で、みんなと最後の挨拶を交わす。

 朝日が気持ち良くて空気も爽やかだった。

 空も私たちを見守ってくれているような気がした。


『ラフ! ウェーザに何かあったらただじゃおかないからな!』

「危なくなったら一度帰っておいでよ。念のため、僕たちも山の情報は集めておくからさ」

「アタシらは神に祈っておくからね」


 ネイルスちゃんも日が当たらないように、ギルドの奥から手を振ってくれている。


「お兄ちゃん、ウェーザお姉ちゃん! 気をつけてねー!」


 手を振り返すと嬉しそうに笑っていた。

 今日の午前中は晴れだ。

 だけど、ザリアブド山がどうなっているかはわからない。


「じゃ、行ってくる」

「行ってきます!」


 挨拶もそこそこにギルドから出る。

 "重農の鋤"の人たちは姿が見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれていた。


「なぁ、ウェーザ」


 "重農の鋤"が見えなくなってから少しして、ラフさんが立ち止まった。


「なんですか?」

「……いつもありがとう。俺たちのために」


 ラフさんはそっぽを向きつつも、恥ずかしそうにお礼を言ってくれた。


「いえ……私は私にできることをしているだけですから」


 私たちはふふっと笑い合う。

 知らないうちに、ラフさんとの距離も近づいている気がした。


「よし、行くか!」

「はい!」


 そして、ザリアブド山に向かって力強く歩き出した。

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Mノベルスf様より、第1巻2022年11月10日発売します。どうぞよろしくお願いいたします。画像をクリックすると書籍紹介ページに移動いたします。 i000000 i000000 i000000
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