第12話:穏やかな眠り
「おっと、もう良い時間だね。ラフ、ウェーザさんを部屋に連れて行ってあげて」
時計を見るともう夜も遅い。
「奥から二番目の部屋が空いていたはずだよ。ウェーザ、今日はゆっくりお休み。引き留めて悪かったね。色々あって疲れたろう」
アグリカルさんが優しく頭を撫でてくれた。
「いえ、引き留めて悪かったなんて決してそんなことはありません。私も楽しかったです」
「ウェーザちゃん、オヤジがうるさくてごめんね。女の子が来るとテンション上がるの」
キッチンの方からメイさんが顔を出した。
フランクさんを見ながらヘラヘラ笑っている。
「こら、メイ! 親に向かってなんだ、その口の利き方は!」
「うわっ、あぶねっ! やめろよ、オヤジ!」
フランクさんがメイさんを追いかけまわす。
「こら! 騒がしいよ! あんたたちはいつまで経っても子どもだね!」
「ごめんね、ウェーザさん。うちはいつもこんな感じなんだ」
なんだか、とても微笑ましかった。
「いいえ、皆さんとお話しできて元気が出てきました。本当です」
まだ"重農の鋤"のメンバーと出会って間もない。
だけど、王宮にいた人たちよりずっと親しい感じがした。
ラフさんがドアを開けてくれる。
「じゃあ、部屋に案内するぞ。ついてこい、ウェーザ」
「はい! おやすみなさい、皆さん」
「「おやすみ~」」
ラフさんに連れられ階段を上がっていく。
二階に着いたら、そのまま奥へと進んでいった。
「ロビーだけじゃなくて、上の階も結構広いんですね。廊下に扉がズラッと並んでいます」
「三階が男部屋で、二階が女部屋だ。俺の部屋は三階の一番奥にある。何かあったら来い」
「ありがとうございます」
ラフさんは無愛想でガサツな感じだけど、心が温かくて優しい人だ。
「ウェーザ、明日俺たちの農場に行ってみるか? お前に会わせたいヤツもいるし」
「はい、ぜひお願いします! 会わせたいヤツって誰ですか?」
何やら含みのある言い方だった。
「それは会ってからのお楽しみだ」
「お楽しみ……ですか」
(誰だろう?)
ラフさんはニヤリと笑っている。
やがて、空き部屋の前に着いた。
扉には"ウェーザ・ポトリー"と書かれたネームプレートがついている。
「メイが用意してくれたぞ」
「わああ……嬉しくて感動しちゃいます」
「そんな大げさな」
ラフさんは呆れていたけど、自分の居場所をもらえたのだ。
感動してしまうのも無理はなかった。
「俺ももう寝るよ。またな、ウェーザ」
「おやすみなさい、ラフさん」
部屋はこざっぱりしていて清潔感にあふれていた。
ベッドには真っ白なシーツがピシッとかかっている。
(これもメイさんがやってくれたんだろうな)
勢い良くベッドに飛び乗った。
フカフカで身体がゆっくりと沈んでいく。
心の中でもう一度みんなにお礼を言った。
(ありがとう"重農の鋤"のみなさん)
明日から新しい生活が始まる。
みんなに出会えて本当に嬉しい。
王都にいたときより良い夢が見られそうだった。




