第11話:みんなのスキル
「ほら、泣くんじゃないよ、ウェーザ!」
「ウェーザさんは笑っている顔の方が似合うよ!」
みんなの優しさがさらに私の心をうつ。
「うっ、すみません……嬉しくて涙が……」
晴れて"重農の鋤"に入れてもらえた。
これほど喜ばしいことはない。
(もっと頑張らなくちゃ! みんなの役に立つんだ!)
涙を拭きつつ、グッと決心した。
「ところで、ウェーザはどうして天気がわかるんだい? しかもこんなに細かいところまで」
「僕も気になるな。あんな特殊能力はそうそうないよ。とても珍しいスキルなんじゃない?」
「俺にも教えてくれ。【天気予報】なんてスキルは初めて聞いたぞ」
みんな興味津々といった感じで私を見ている。
「そうですねえ……まず、だいたいの天気は雲で決まります。だから、一番大事なのは雲を見ることです。雲の色や形からおおよその天気はわかります。私のスキルは未来の空模様が見えるので、それらの情報を参考に天気予報をしています」
「「へぇ……」」
「あとは風の流れや、空気の湿り気具合でも判断しますね。さっきは雲も暗い色だったし空気がねっとりしていたので、すぐに雨が降るとわかったんです」
簡単に説明したけど、みんなはポカンとしている。
「使いこなすのがなかなか難しそうなスキルだな」
ラフさんが真顔でポツリと言った。
「天気のことは僕だって全然わからないよ。雲の形とかみんな同じに見えるんだから」
「アタシだってそんな繊細なことはできないね」
フレッシュさんもアグリカルさんも、感心したように話している。
ラフさんが疑問に感じたように呟いた。
「いくら空模様が見えると言っても、それだけじゃ予報なんてできそうにないが……」
「天気のことをしっかり勉強したので、空模様から判断できるようになったんだと思います。天気に関する本はどんな書物でも読んで、たくさんの知識を得ましたから」
「なるほどな。お前が頑張ったからこそ、最大限に使いこなせているというわけか」
自分のスキルが【天気予報】だとわかってから、少しでも人の役に立とうと必死に天気の勉強をしてきた。
その積み重ねがあるから、今の私がいる気がした。
「ウェーザちゃんはすごい努力家なんだね。私も見習わないと」
「俺なんか飯作るくらいしかできねえのに。ウェーザちゃんは天才なんだな」
メイさんやフランクさんまで私を褒めてくれた。
「でも、予報できないこともあります。例えば、虹やオーロラは私が見る未来の空模様にも映し出されません。天候以外にいくつもの細かい条件が重なってできる現象なので、当日までわからないのです」
「ふ~ん、アタシは天気がわかるだけでも十分だと思うけどね」
アグリカルさんの言うことにみんなうなずいていた。
("重農の鋤"の人たちもスキルを持っているのかしら?)
みんなのスキルも聞いてみる。
「アグリカルさんもスキルをお持ちなんですか?」
「アタシのスキルかい? 当ててごらんよ。難しいと思うけどね」
アグリカルさんは得意げな顔をしている。
「う~ん、何でしょう。やっぱり農業関係ですか?」
「フフ~ン、ざんね~ん! アタシのスキルはね、【鍛冶師】なんだよ」
予想もしないスキルだった。
「え? アグリカルさんは【鍛冶師】なんですか?」
鍛冶師と言ったら、剣やハンマーなどを作る武器職人のイメージだった。
農業とは何の関係もなさそうに思える。
(鍛冶師の人がどうして農業ギルドにいるんだろう)
「アタシはここで農工具を作ってんのさ」
「そっか、農工具!」
ストンと疑問が解消した。
"鋤"とか"くわ"は金属でできている。
鍛冶師だったらピッタリかもしれない。
(手がゴツゴツしていたのは、農工具を作ってるからなのね。かっこいいなあ)
「アグリカルさんの作る道具は超一級品だよ! 魔力が込められていて、耕すたびに作物が成長していくんだ!」
「すごいですね、そんな力があるんですか」
フレッシュさんは興奮した様子で話していた。
農業の話をしているときが一番楽しそうだ。
「ちなみに、入口にある飾りもアタシの作品さね。よくできているだろう」
そういえば、ギルドの壁には大きな装飾があった。
「はい、とても立派で威厳を感じました」
「僕たちのギルドの代名詞だからね」
フレッシュさんは笑顔でうなずいている。
「あの、フレッシュさんも農業関係のスキルとかお持ちなんですか?」
(ナンバー2だから、特別な能力なのかな?)
「いや、僕は持っていないよ」
「え? そうなんですか?」
てっきりスキル持ちだと思っていた。
「むしろ、変なスキルが出てこなくて良かったよ」
「それはどういうことでしょう」
スキルが出なくて良かったという人なんてなかなかいない。
「だってさ、もしも冒険者向けのスキルが出て無理やりパーティーに入れられたりすると嫌じゃない?」
(こういう考え方もあるんだ……)
アローガはスキルが出ないことに、ずっとイライラしていた。
私のことを嫌っていたのも、たぶん八つ当たりだったんだろう。
「それもそうですね。フレッシュさんが冒険者をやっている姿は想像が……って、フレッシュさん?」
つぎに話しかけたとき、フレッシュさんは分厚い本を夢中になって読んでいた。
挿絵に植物の絵が描いてある。
きっと農業関係の本だ。
「あの~、フレッシュさん?」
「ブツブツ……」
私が呼びかけても全然返事がなかった。
のめり込むように本を読んでいる。
「ああなったフレッシュはアタシでも止められないさ。モンスターの群れの中にいても気づかないだろうね。あの類まれな集中力と農業に関する膨大な知識、そして何より農業への熱い思いがうちのナンバー2たる理由だよ」
「す、すごい……」
フレッシュさんは私たちの話し声すら聞こえていないようだ。
「念のため言っておくが、お前の【天気予報】も相当すごいからな」
圧倒されていると、ラフさんがフォローしてくれた。
「ふふっ、ありがとうございます。農業ギルドって初めて聞いたんですけど、他にも"重農の鋤"みたいなギルドがあるんですか?」
「う~ん、どうだろうねぇ。アタシたちくらいじゃないか? なあ、ラフ」
ラフさんも腕を組んで考えている。
「俺もないと思うぞ。この辺りじゃ農業は誰もやりたがらない。土地も痩せたところが多いからな。何かしらスキルのあるヤツは、みんな冒険者ギルドに行っちまう。そっちの方が稼ぎやすいんだ」
その後、みんなから色んなギルドの話を聞いた。
鍛冶師や武器職人の集団があったり、貿易や商売をする人の組合があったりなど、世の中にはたくさんのギルドがあった。
「元々はラフも冒険者ギルドにいたんだよね。今は僕たちと一緒にいるけど」
フレッシュさんはもう本を読み終わったらしい。
「ああ、そうだな。今となっては昔のことだが」
「ラフさんのグローブもアグリカルさんが作ったんですか?」
私を助けてくれたとき、ラフさんは立派なグローブを着けていた。
「装飾はアタシが作ったよ。他のところは……」
「お、おい、アグリカル! やめろ、それ以上は言うんじゃない!」
なぜか、ラフさんが急に焦り出した。
アグリカルさんはクックッと笑っている。
「ラフさんにも何かスキルがあるんですか?」
何と言っても凄腕の冒険者だ。
【剣術】とか【格闘術】……みたいなスキルがあるに違いない。
相変わらず、みんなはクスクス笑っている。
笑いを堪えるのが大変そうだった。
(ん? なにがおかしいんだろう)
「あのね、ウェーザさん。ラフのスキルは……」
「秘密だ」
フレッシュさんが何か言おうとしたら、すかさずラフさんが止めた。
その表情はとても険しい。
「えぇ~、教えてくださいよ。ラフさんのこともっと知りたいです」
「秘密だ」
いくら頼んでも、ラフさんは断固として教えてくれなかった。




