第10話:おいしいスープと優しい心
「うるさい野郎どもはアタシらが追い払っておいたからね」
「さっきは大騒ぎしてごめんよ。珍しいお客さんにみんな興奮しちゃってたんだ」
私が来るのを待っていたように、メイさんが出てくる。
「はい、ウェーザちゃん! オヤジの作る料理は最高だよ! 好きなだけ食べていいからね! 遠慮しないで!」
メイさんがお料理をどんどんテーブルに置いてくれる。
どれからも、食欲をそそる良い匂いがしてきた。
「あ、あの……食べていいんですか?」
あまりの待遇の良さに、なんだか申し訳なくなってしまう。
「何言ってるんだい、ウェーザ。食べていいに決まってるだろ。あんたのために作っているんだよ」
アグリカルさんが言うと、みんなアハハと笑っていた。
「そ、そうですよね。それでは、いただきます」
(お、おいしい……)
どれも絶品でほっぺが落ちそうだ。
はっきり言って、王宮で出される食事よりもおいしい。
少しすると、フランクさんが嬉しそうにやってきた。
「どうだい、ウェーザちゃん? 俺の飯は上手いだろう?」
「はい! どれも最高です! フランクさんはお料理がとてもお上手なんですね!」
フランクさんはご満悦な顔をしている。
いつの間にか、ラフさんも近くにいた。
「作物の中には、特殊な調理が必要な物もあるからな。腕利きのシェフも俺たちには必要なんだ」
「ほら、ウェーザちゃん。これが<太陽トマト>のスープだよ。ここ最近で一番の自信作さ」
フランクさんが真っ赤なスープを出してくれた。
不思議なことにキラキラ光っている。
「<太陽トマト>のスープですか? でも、貴重な作物なんじゃ……」
畑でギルドの稼ぎ頭と聞いたばかりだ。
「アタシのおごりさ! ウェーザのおかげで<太陽トマト>が無事だったんだからね!」
「ウェーザさん、ぜひ飲んでみてよ! おいしさにビックリするから!」
アグリカルさんもフレッシュさんもぐいぐい勧めてくれた。
ありがたいことに、余計な心配だったらしい。
「あ、ありがとうございます!」
スプーンで丁寧に掬ってコクリと飲んだ。
(うわぁ……)
一口飲んだだけで身体があったかくなってくる。
まるで陽だまりの中にいるみたいだ。
特に顔の辺りが熱い気がする。
「あの、なんだか顔が熱いんですけど」
「ちょっと鏡を渡すね。驚かないでよ」
フレッシュさんが手鏡をくれた。
みんな私を見て笑っている。
(なんだろう……)
鏡をのぞくと私の顔がピカピカしていた。
「きゃあ! な、何ですか、これ!? どうなってるんですか!?」
顔が光るなんて初めての経験だ。
このまま顔が光り続けたら、恥ずかしくてしょうがない。
「<太陽トマト>を食べると顔が光るのさ。アタシも初めて食べたときはびっくりしたよ」
「そのうち元に戻るから安心してね」
(<太陽トマト>の効果だったのね……)
原因がわかってホッとした。
「ウェーザ、俺にもくれ。見てたら飲みたくなった」
「は、はい、どうぞ」
ラフさんにも<太陽トマト>のスープを少し分ける。
飲んだ途端、ラフさんの顔もピカピカ光り出した。
それを見て、またみんなで笑い合う。
「ああそうだ。ウェーザは帰るところがねえんだってさ。うちにはまだあまりの部屋があっただろ? ここに住まわせてやってくれないか?」
ラフさんの言葉を聞いて勢いよく立ち上がった。
(そうだ、まだ正式に頼んでいない! 私からも頼まないと!)
「お願いします! 私は【天気予報】しかできませんけど、ちゃんとやります! 農作業だって手伝います! だから、ここに置いてくれませんか?」
地面に着きそうなほど、深く深く頭を下げた。
(お願い! こんな良いところは他にないもの!)
ギュッと目をつぶり、心の中で必死にお祈りする。
少し待ってもみんな何も言わなかった。
(ど、どうしよう……やっぱり、私なんかいても迷惑なんじゃ……)
不安に耐えられず、そぉっと顔を上げる。
「もちろんだよ! いいですよね、アグリカルさん?」
「あんたらは今さら何言ってんだい! いいに決まってるだろ! ウェーザがいてくれたら本当にありがたいよ!」
そこには満面の笑みのみんながいた。
「やった! 女友達ができた! これで私も恋バナができる!」
「これからは俺ももっと上手い飯を作ってやるからな!」
みんなにガシッと抱きしめられた。
ラフさんは<太陽トマト>のスープを飲みながら、静かに微笑んでいる。
「ありがとうございます! 私……とっても嬉しいです!」
"重農の鋤"は……優しい人ばかりだった。
気がついたら、一筋の涙が頬を伝っていた。




